20,第3深層のオベリスク。
第3深層に降りても、とくに異常は見られない。今のところは。
「何が待ち構えているか分からないから、気を抜かないように。とくにチェルシー」
待ち構えていたわけではないが、別のパーティと遭遇した。
8人構成の大所帯で、全員高そうな装備品を身につけている。これは『売れている』パーティだな。
ダンジョン内で2つのパーティが遭遇した場合、友好的にしておくものだ。
モンスターが蔓延っている場所で、同じ人間同士でも敵対すると自分たちの首を絞めるだけ。
相手パーティのリーダーは、ドムと名乗った。
「僕はトラヴィスです。よろしく」
「君たち、そんな人数で第3深層に降りてくるのは危ないよ。とくにそっちのタンクの子は、まだ新米冒険者だろう?」
新米というか、厳密にはまだ冒険者じゃないけどね。
「ドムさんたちは、もしかして調査クエストをされているんですか?」
「調査クエスト? いや、我々は採取クエストのため第6深層まで降りる予定だ」
「そうですか。何か異変がないか注意してください。実は第1深層に、鋼鉄蜘蛛が現れましてね」
事の異常性は明白で、ドムは緊張した様子になる。
「なんだって第1深層に? それでその鋼鉄蜘蛛はどうしたんだ?」
「僕たちで倒しました」
とたんドムの緊張が弛緩した。
「冗談を言うものじゃない。悪いが、君たちのパーティで鋼鉄蜘蛛を倒せるとは思えないね。何が目的か知らないが、フェイクを流すのはギルド協定に反するよ」
「いえ、嘘じゃなくてですね──」
「大目にみて通報はしないでおく。だからもう黙ることだ。いいね?」
これはダメだ。
鋼鉄蜘蛛を倒したことだけではなく、第1深層まで来たというのも眉唾だと思われている。
「……了解です」
「君たちは早く上の深層に戻ることだ。ここから先は、経験を積んだ冒険者でなくては生きていけない。では、忠告はしたよ」
ドムたちパーティは先へと進んでいった。
僕たちは時間を潰してから移動を再開。分岐路では、ドムたちが向かったと思われるルートとは、別のルートを選んだ。
チェルシーはずっとお冠だ。
「まったくムカつく奴らでしたよね、アニキ! アタシたちの活躍が信じられないとか、どういうことなんですかね!」
「チェルシー様の存在が、わたくしたちのパーティ信用度を下げているのではないでしょうか?」
「えぇ! どういうことですか、姐さん?」
さらに進むと、ガガルガの群れと遭遇。今回の数は25体。
だが今回は先ほどの戦いの経験が生き、手際よく倒せた。チェルシーの《猪突猛進》も、低級モンスター相手にはかなり効果的。
「トラヴィス様。とくに第3深層にも異変は見られないようですが?」
「そうだね──あ、そこに夜鋼草がある。チェルシー、採取しておいて」
「了解ですアニキ」
「仮に異変があるのだとしても、もっと深い深層なのかもしれない。だとすると、さすがに今の僕たちが潜るのは危険だ」
「じゃ引き返すんですかぁアニキ?」
「そうだなぁ──」
前方から何か音が聞こえる。複数の戦闘音のようだ。
先ほどのパーティか?
「行こう。チェルシー、油断するな」
「なんで姐さんには言わないんですかアニキ。メンバー差別ですよ」
「はい、はい」
複数のルートが合流する地点で、戦いは行われていた。
ただしすでに終わろうとしていたが。
冒険者7人の無残な死体が転がっている。最後に生き残ったドムはバスタードソードを構え、敵に向かいあっている。
その敵モンスターは、初めて見る。
そもそもモンスターなのか?
底光りする漆黒の立方体で、空中に浮いている。
リビーが恐怖の感情を滲ませて言う。
「あれは──オベリスクです。わたくしも実物を見るのは初めてでですが──第25深層より深くに生息しているはずのモンスターです。一撃瞬殺の攻撃と、異常な高さの防御力。フロアボス並みの強さで、Sランクパーティが戦っても苦戦は必至──トラヴィス様。これは悪夢のような事態かと」
「分かりました! このアタシがコテンパンに伸してきますっ!」
根拠なき自信の塊チェルシーが進み出ようとしたので、僕は襟首をつかんだ。
「まてまて。自殺行為禁止」
ドムが攻撃に入るが、オベリスクのほうが速い。立方体から発射された《熱線》がドムの胸部を貫き、殺してしまった。
「……確かに、あれは強すぎるなぁ」
「トラヴィス様、逃走を提案いたします」
「うーん」
直感だけど、オベリスクはすでにこちらの存在に気づいている。逃走で背を向けるのは逆に危険だ。
「トラヴィス様?」
「アニキ、どうするんですか?」
「あのさ。これをやったら僕は気絶すると思うから。あとはよろしく」
混乱する2人は無視して、意識を集中。
オベリスクを【エコ領域】に登録。
『生存する時間』を節約。
どんなモンスターにも寿命はある。それを節約で尽かせる。
しかしこれは禁じ手のようなもの。正直、僕自身の生命力も削らなきゃ行えない。
オベリスクがこちらを向く(立方体でもイメージとして『前』が分かるものだ)。いまにも《熱線》が発射されるだろう。
あれは今の僕らでは防げない。だから、その前に──。
節約、節約、節約、節約、節約、節約、節約──
さらに節約節約節約節約節約節約節約節約節約。
ふいにオベリスクが地面に落ちた。
底光りが消える。死んだようだ。
ああ、《節約》を使いすぎた。
僕の意識も暗転──
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