表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/12

第十一話 遡行

 ガクリと膝の力が抜けて、雨星(うせい)は思わず地面に手をついた。

(ここは?)

「大丈夫?」

 後ろから紅雪(こうせつ)の声がした。

 雨星が突然うずくまったので、心配になったのだろう。雨星が振り返ると、その隣にいた老女もまた、「どうかなさいましたか」と、案ずるように声をかけてきた。

 雨星は目をすがめ、老女を見つめた。

 髪は白く変わり、痩せ細ってはいたが、その面差しには見覚えがある。

「あなたは、もしかして、夕顔(ゆうがお)?」

 雨星がそう尋ねると、老女は一瞬目を丸くし、すぐに嬉しそうに、どこか懐かしげに微笑んだ。

「はい。お久しゅうございます」

 生きていてくれたのだ、と思った。彼女は危険を顧みず、父と自分を逃がしてくれ、幸せを願ってくれた、命の恩人だった。

「よかった。生きていてくれて」

「もったいなきお言葉」

 夕顔は涙ぐみ、それを隠すように顔を伏せた。

 その時だった。

「ははっ!」

 響いたのは、激しい笑い声。

 (あや)の声だ。雨星ははっとして、そちらを見た。

 彼女の姿は揺らぎ、一時消失したかと思うと、二人の山箭(さんや)と挟み撃ちにする形で、冬来(ふゆき)の背後にあらわれる。

(───戻った)

 雨星は息を呑んだ。

(戻れたんだ。望んでいた()に)

 無意識に耳に触れる。そこにはもう、耳飾りの感触はなかった。

 もう後戻りはできない。やり直しはきかない。それでも。

(未来を、変えてみせる)

 雨星は膝に力を込めて、立ち上がった。

 前回と同じく、挟撃された冬来は一瞬迷い、右手にいる山箭に向かって大きく刀を振り抜きながら、そこを脱した。斬られた山箭は大きくのけぞり、持っていた刀を取り落とす。それは回転しながら地面を転がり、雨星のすぐそばへと。

 雨星は、それを見つめた。

 前回の自分も、気づいていたのだ。

 だが、それを取らなかった。怖かったからだ。この手で誰かを守れるとは、とても思えなかった。

(でも、今度はもう、迷わない)

「許さない。おまえだけは、この手でずたずたにしてやるわ」

 綾が再び、髪に挿している翡翠のかんざしを抜く。

 それと同時に、雨星は地を蹴った。

 なりふり構わず走り、落ちていた刀を拾い上げる。重い───細く見えて、こんなにも重いものだったのか、と思った。よろめきながら両手で持ち上げ、前に構える。今まさに割符(わりふ)を噛み割ろうとしていた綾は、ぽかんと口を開けて雨星のその行動を見やったが、すぐに鼻で笑い飛ばした。

 どうせ大したことはできまい、と思われているのだ。

 彼女は雨星を嘲笑したのち、気にすることなく、割符を噛み砕いた。

 陽炎のように揺らぐ、その立ち姿に向かって振り下ろされた冬来の刃が、空を切った。

「よせ!」

 走ってくる雨星に気づいて、冬来が叫んだ。やめろ、と。

 だが雨星はやめなかった。足を止めなかった。

 言葉にならない叫び声を上げながら、まっすぐに走る。

 迷うことなく。

 なぜなら。

(わたしは、おまえが次にどこにあらわれるかを、知ってるんだ!)

「わああ!」

 雨星はでたらめな動作で、宙に向かって刀を突き出した。

 まっすぐに伸ばされた腕の先───刃が、綾の体に届く。

 冬来の頭上から一撃を繰り出そうとしていた彼女は、ふいに脇腹を刺突され、ぎゃあ、という品のない悲鳴を上げた。身をよじり、そのまま落下する。あまりに想定外な攻撃に、受け身も取れず地面に転がり、獣じみたうなり声を上げた。

 しかしながら、雨星の一突きは致命傷とはならなかったようだった。

 彼女はすぐさま身を起こすと、血走った目で雨星をにらみつけた。

 そして、

「このッ……!」

 持っていた刀を、振りかぶった。投げつけるつもりなのだ。

「あ……」

 避けなければ。わかっているのに、あるだけの勇気を出し切ったせいで、足が震えて、力が入らなかった。雨星は呆然と、その綾の動きを眺めることしかできなかった。だめだ。動けない。避けられない。死ぬ。

「……っ」

 やがて雨星が感じたもの───それは痛みではなく、刃風だった。

「あああ───!」

 絶叫したのは、綾のほうだった。

 刀を振りかぶっていた腕をすっぱりと斬り落とされ、血が噴き出るそれを押さえながら、痛い痛いと喚き立てる。

 血塗れの刀を手に、それを見下ろしていたのは、冬来だ。

 いっそ静かな表情で、彼は泣き叫ぶ女王を見つめていた。

 綾は、どうしてえ、と叫びながら、ぽろぽろと涙をこぼした。

「姉さまも、あなたも、この国も、何もわたしのものになってくれなかった。誰もわたしを愛してくれなかった。わたしは、この国をもっと大きな、豊かな国にしようとしただけなのに。母さまに認めてもらいたかっただけなのに。だから、こんなに、こんなにたくさん、頑張ったのにい!」

 どうしてよう、と子供のように言う。

 それに答えたのは、冬来だった。深く息を吐き、彼は言った。

「もう終わりにしよう、綾。───誰も、誰かのものにはならない。少なくとも、恐怖のもとでは」

「うるさい、うるさい!」

 わあん、と綾は声を上げて泣いた。

 美しい長衣は、見るも無残に血と泥で汚れ、かんざしを失った髪はぼさぼさに乱れている。美貌の女王はもう、どこにもいなかった。いるのは、人目をはばかることなく泣き叫ぶ、一人の女だった。

「───動くな」

 穏やかな号令とともに、大勢の兵がわらわらとなだれ込んでくる。

 翡翠色の衣を着た男───資朗(しろう)が、「捕らえろ」と彼らに命じる。

 兵たちは、生き残った山箭と、泣き叫ぶ綾とをそれぞれすばやく取り押さえた。

 腕を止血されながら、綾はぎろりと資朗をにらみつけ、低く罵りの声を上げた。

「この腰抜け野郎!今さらでしゃばるんじゃねえよ!」

 資朗はその罵声に、わずかに傷ついたような顔を見せ、だが、憐れみのこもった目で彼女を見下ろした。そんな彼をますますにらみつけ、綾はつばを飛ばしながら叫ぶ。

「てめえ、このクソ親父!無能でも親だからと思って、殺さずにおいてやったのに、このわたしを裏切るのか!」

 資朗は小さくため息をついた。

「……真子(まこ)と、おまえは、この国の荒御魂(あらみたま)だったのだな。かつてはきっと、おまえたちのような猛々しい王が必要とされていたのだろう。土地を切り拓き、未来を見て、国を作り上げるためには、おまえたちのような王が必要だった。だが、今この時代となっては、もう───」

「うるさい!うるさいうるさい、くどい!」

 綾は髪を振り乱し、喚いた。

「あの時、(うらら)と一緒に、おまえも殺しておけばよかった!」

 呪詛のようなその一言に、資朗は押し黙った。

 もうこれ以上は何を言っても無駄だと思ったのだろう、つと冷静な口調に改まり、彼は言い放った。

「───綾女王、あなたには、いくつかの割符の用途において、虚偽申立てを行った嫌疑がかけられている。調べを行なったところ、帰着先不明の割符を、あなたの護衛を務めている山箭が所持していることが判明した。それについて、詳しく話を聞かせてもらおう」

 そして、連れて行け、と兵に命じる。

「やめろ、離せ!触るな!」

 この期に及んでも、まだ暴れる気力のある彼女を、兵たちが必死に抑え込む。

「冬来!助けて!」

「───」

 その懇願に、雨星は絶句した。

 今の今まで殺そうとしていた相手に、綾は助けを求めたのである。呆れるを通り越してぞっとする。引きずられるようにして連れて行かれながら、彼女は、姿が見えなくなるその瞬間まで、大声で喚き続けたのだった。

(なんてひとだろう)

 だがさすがに、すべての権力と、刀を振るう腕さえも失ってしまえば───大それたことはできないだろう、と雨星は思った。いや、させるまい、と。

(終わったんだ)

 そう思った瞬間、足の力が抜けた。

 倒れ込みそうになった雨星を受け止めたのは、力強い腕だった。冬来だ。彼は、苦々しげにうめいた。

「なんて馬鹿な真似を……」

「でも、何とかなっただろう」

 にっと笑ってみせる。

「そういう問題じゃない……」

 怒る気力もないといった様子で、冬来はその場にへたり込んでしまった。

 そんな彼の頬に、雨星は恐る恐る手を伸ばした。あたたかい。生きている。よかった、とつぶやく声は、震えた。

「あなたが死ななくて、本当によかった」

 う、と嗚咽が漏れる。

 もう泣くまい、と決めていたのに。ほっとしたあまりに、溢れ出してしまった。ごめん、と雨星は言った。

「すぐに止まるから……」

 そう言いつつも、両手で顔を覆ってしまった雨星の肩を、冬来は、ためらいがちに抱き寄せた。かすかに、心臓の鼓動が聞こえる。

「おれは昔、おまえに救われた。覚えているか?」

 雨星ははっとし、冬来の腕の中でうなずいた。

 何度も、何度も。

「おれの母親は、もともと山箭だったが、おれを生んで自死した。父親も、きょうだいも、誰もおれを助けてはくれなかった。飯をくれなかったとか、そういうことじゃない。誰も、誰かに愛されることが、生きるために必要だということを、教えてくれなかったんだ。結局、山箭になれとだけ言われて、見放された。おれは、何もわからないまま、ただ生きていた」

 冬来が腕を緩める。

 雨星は、鼻をすすりながら彼の顔を見上げた。

「ただ一人だけ、おれのことを助けてくれたひとがいた」

 彼は、微笑んでいた。

「母親が、おれのことを愛していたはずだと───そのひとは言った。その言葉が、どんなにおれのことを救ったか、おまえにはきっと、想像もつかないだろう。……とてもきれいなひとだと思った。よく笑って、すぐ泣いて。あんなにきれいなひとを、おれは生まれて初めて見たと思った。姿形がじゃない。心がだ」

 冬来の雨星を見つめる目は、ひたすらに優しかった。

「おまえが消えた後、おれは女王に会いに行った。きっと、おまえが消えたのは、女王が何かしたからだと───今思えば浅はかでしかないが、そう思ったからだ。なりふり構わないくらい、もう一度会いたかった。会って話がしたかった。笑った顔が見たかった。そんな気持ちも初めてだった。好きだったんだ。生まれて初めて、人を愛した」

 涙が止まらなかった。

 だがそれは、悲しいからではなかった。

「麗は、あの子は小鳥だったのだと言った。羽ばたいて、飛んでいってしまったんだと。わたしのそばにいれば、仕えていれば、きっとまた会えると言った。だからおれは山箭になった。『針子女中の雨星』はもう、どこにもいないと知っていた。だから代わりに、『友が命がけで守ろうとした息子』を探した。そして───おまえを見つけたんだ、雨星」

 雨星は冬来の首に腕を回し、力強く抱きしめた。

 そして、声を上げて泣いた。

 つながったのだ、と思った。

 麗の、母の、小さな割符が、わたしたちをつないでくれた。

 わたしたちを、守ってくれたのだ。


               **


 理生(りお)はようやく肩の力を抜き、山箭刀(さんやとう)を鞘に収めた。

 緊張が解けたことで、疲労がどっと押し寄せてくる。深く息を吐きながら、思わずその場にしゃがみ込んでしまった。

(……何だかよくわからんが、まあ、よかったよ)

 冬来に抱きつき、わんわん泣いている雨星を見つめ、理生は小さく笑った。

 かと思うと、しまった忘れていたとばかりに、背後を振り返る。

 しかしそこには、懸念した人物の姿はどこにもなかった。失神していたはずの維人(いひと)は、知らぬ間に姿を消していた。おそらく、足抜けしたのだろう。今なら誰にでも殺せそうな、隙だらけの冬来を残して。

(根っこは図太いやつだからな)

 どこかでひっそりと生き延びるだろう。

(おれは……)

 突発的に仲間になったものの、本来であれば、綾の側にいた人間だ。それも、帰着先不明の割符の所持者であり、戦を起こすために他国で工作を行なっていた山箭でもある。罰は免れないだろう。

(ま、逃げたほうがいいだろうな)

 理生は立ち上がった。軍兵がこちらに気づく前に、姿をくらまして───。

「理生」

 早くこの場を去ったほうがいい。

 その思いに反して、足は止まった。

 振り返りはしない。ほんの少し、悲しげに微笑むだけで。

「……そんな名前、忘れろと言ったのに」

「どこへ行くの」

 紅雪は言った。

「行かないで」

「ついてくるな」

 理生は、振り返らないまま告げた。

「もう大丈夫だろ。あんたは、扇市(せんし)に帰るなり、このままここで暮らすなり、好きにしたらいい」

「あなたはどうするの」

「おれは……」

 どうしようか、と考える。

 新賜(あらたま)にも、ブリシェにも、もう理生の居場所はない。ここから逃げて、民草に紛れ、ひっそりと生きる?

(現実味がないな)

「……どうかな。わからない。それに、あんたには関係ない」

「あたしも、あなたと一緒に行く」

 振り返ってはだめだとわかっていたのに、理生は振り返ってしまった。

 やっとこっちを見たわね、と言う紅雪の、濃いまつげに縁取られた大きな目が、こちらをにらんでいた。明るくなり始めた空が、その光が、瞳の中で生き生きと輝いていた。

「きみは」

 理生はうめいた。

「馬鹿なのか」

「どういう意味よ」

 紅雪は、むっとしたように眉を寄せた。

「おれは……山箭以外の生き方を知らない。ここから運良く逃げおおせたとしても、下手したら、普通に暮らすことなんか、一生できないかもしれないんだぞ。人殺し以外に、できることが何もない。でももう、どこにも居場所がない。そんな……」

(そんなやつが)

 理生は、紅雪の大切な友人である、雨星を殺そうとした。

 結果的にそうはならなかったものの、何か一つでも違えば、この手で、何の罪もない子供である雨星を殺していたかもしれないのだ。命令だった。だから仕方なかった。そんなのは言い訳だ。

(そんなやつが、きみのそばにいちゃいけない)

 助けられれば、それでいいと思った。

 生きていてくれるだけでいいと。

 それなのに。

「理生」

 理生は、途方に暮れた顔を上げた。

 紅雪はもう、怒っていなかった。

「山箭以外の生き方を、あたしが教えてあげる。だから、お願い。一緒に生きて」

 彼女は微笑みながら、泣いていた。

 なんて美しい涙なのだろう、と理生は思った。

「紅雪」

 おれはきみのことが、と、理生は声を振り絞った。

 続きを聞く前に、彼女は笑うのだった。

「もう知ってる」

 理生は、紅雪のことを強く抱きしめた。

 まっすぐな黒髪をかき上げ、少し冷たい頬に触れて、口づけをした。もう一度強く抱きしめて、彼は言った。

「大好きだ」




「───理生」

 紅雪を抱きしめていた腕を緩め、理生は振り返った。

 冬来だった。こちらに近づいてこようとする軍兵に、何言か告げて押し留め、割って入ってきた彼は、理生の前に立った。

「……何だよ」

 本当なら、嫌味の一つや二つ言ってやりたいところだったが、気恥ずかしさからか、ぶっきらぼうに応答することしかできなかった。

 すると唐突に、冬来は何かを差し出してきた。

餞別(せんべつ)だ」

「は?」

 その何かを見下ろし、理生は(いぶか)しげに眉を寄せた。

「割符だ」

 当然のように、冬来が言う。

 彼が差し出しているのは、短冊形に加工された翡翠───山箭がよく用いる形の、割符だった。

「いや、それは見りゃわかる。そうじゃなくて」

中王国(なかおうこく)につながる割符だ」

 その言葉に、理生は呆気にとられた。

 ちらりと紅雪を振り返り、すぐさま冬来に向き直ると、低く尋ねる。

「どういうことだ。そんなもの、一体、いつ用意した?どうやって手に入れたんだ。中王国につながるっつったって、あの国のどこに……」

「扇市からほど近い、山の中につながるはずだ」

「扇市……?」

 ますます怪訝(けげん)そうに眉を寄せた理生だったが、少し考えた後、はっと瞠目(どうもく)した。

 軽くうなずくような仕草を見せる冬来を、信じられない思いで見つめる。

「あんた、まさか……そういうことか。あてがわれていた、新賜とつながる割符を───処分しなかったんだな。そうせずに、隠したのか」

「そうだ」

 彼が一体、どこからどこまでを想定していたのか、理生にはもはやわからなかった。

 あてがわれていた割符。

 それは、雨星暗殺のために中王国行きを命じられた際、帰還用として各自に渡されていたものだ。仲間を裏切り、逃亡した冬来は、当然新賜からの追手をかわすために、それを処分するだろうと、理生は思った。いや、誰もがそう思い込んでいた。だからこそ、これまで新賜側にあるもう片方が、割られることがなかったのである。

 しかし冬来はそれを処分せず、扇市の近くに隠した。

 おそらく、暗殺決行の夜よりも前に。

「扇市で、単独行動をしていたことがあったな。そのためか」

「ああ」

「ブリシェから()()へ戻ってきた時もだ。奥ノ院(おくのいん)に向かう前に、寄るところがあるとか言っていたあれは、そのもう片方を回収するためだったんだな。騙された。てっきり、撹乱(かくらん)のためかと……」

「いや、その目的もあった」

 ついでだ、と。

 冬来のすまし顔を、理生は憎々しげににらんだ。

「なんでだよ。なんでそんな、手間のかかることを……しかも、それだけ手間をかけて用意したものを、おれへの餞別だって?何を企んでやがる」

「雨星が、ここに残らず、扇市に帰りたいと言った時には、これを渡すつもりだった」

 理生は目を疑った。

 冬来がうっすらと微笑んでいたからだ。

「だが、もう必要なくなった。だからだ」

 開いた口が塞がらない、とは、このことだろう。

(雨星、雨星って、馬鹿の一つ覚えみたいに)

 唐突に笑い出した理生を、冬来は、不気味なものでも見るような目で見た。

「いや、笑える。あんたって、本当は……」

「何だ」

「何でもない」

 それより早くよこせ、と理生は手を差し出した。

 その横柄な態度に、軽く顔をしかめた冬来だったが、結局のところ何も言わずに、割符を手渡した。そして、ゆっくりと距離を取る。ちょうど、割符の力に巻き込まれない程度の距離を。

「しっかり守れ」

 冬来が言う。別れの言葉だった。

 紅雪と顔を見合わせ、微笑みあう。その彼女の手を、強く握りしめた。

「言われなくても」

 パキン!

 そして、割符を割った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ