120.勇者、みんなでお風呂に入る
俺たちの対校戦初日が終了した。
宿に戻り、汗を流すために風呂場へと向かう。
「わーい! あにうえとお風呂~」
王立のメンバー全員で風呂場へと向かう。
「大浴場あるんやてな」
「たのしみだね!」
エリーゼとサクラは治療を終えて、怪我一つない体だ。
大浴場へとやってきた。
「じゃあユリウス君たち、また後でね!」
「……うん」
弟が沈んだ調子でうなずく。
「なんやガイアス。あんた男湯はいるんか? こっちちゃうの?」
「ち、ちがうよ!」
ケラケラとサクラが笑い、微笑んで言う。
「ほなあとでなー」
俺たちは別れて、男湯へと向かう。
「やぁ! ユリウス君たち!」
「お、カズマじゃん」
カズマをはじめとして、神聖皇国の男メンバー達が、ちょうど服を脱いでいるところだった。
「これから湯浴みか?」
「そうだ! 一緒に入ろう!」
そこへ、マント姿の2人組みが入ってくる。
「ザガン、アモンも」
「なーんだ野郎ばっかりじゃーか。華やかさが足りねえなぁ~」
「バカを言うなよ。男女別だってば……」
やれやれ、とガイアスがため息をつく。
「うげっ!」
「あ、初日ラッキーで1位になった帝国学園です?」
帝国学園のアンチが脱衣所に入ってきた。
「ぼ、僕は後で入るよじゃあね!」
「「まあまあまあ」」
俺とカズマが、アンチの手を引く。
「ともに風呂に入り、汗を流そうじゃないか!」
「いやだ! 君たちと一緒だと大抵ろくなことにならないのだよ! 僕は帰る! 命が大事!」
「「まあまあまあ」」
結局全員で風呂に入ることになった。
「わーい、でっけーお外のお風呂ですー!」
たたっ、とミカエルが湯船に向かう。
「こらミカ! 入るのは体を洗ってからだろう!」
「がいあすはうるさいです。こじゅーとです?」
「やかましい! ほらこっちこい!」
弟が義弟の手を引いて、イスに座らせる。
「あにうえー。あにうえーに頭あらってほしいー」
「はいはいっと」
俺はミカエルの後に座り、しゃこしゃこと長い髪を洗う。
「ユリウス君は弟の面倒見がよいのだな! 立派だ!」
カズマは俺たちの隣に座り、髪の毛を洗う。
「かずまはすぐあにうえのそばにくるです? あにうえ好きなのです?」
「うむ! かなり! とても大好きだぞ!」
「わー! ぼくと一緒です! なかまなかまー」
「うむ! 仲間だな!」
にこーっと義弟とカズマが笑う。
「特別にかずまにせなかをながさせてやるです」
「そうか! それは光栄だな! 後失礼するぞ!」
カズマは義弟の後ろに回る。
「そんじゃ俺はガイアスの背中でも流すかな」
「なっ!? いいよ!」
逆隣に座っていたガイアスが、顔を赤らめていう。
「遠慮すんなよ。なんだ恥ずかしいのか?」
「当たり前じゃないか!」
「がいあすへんです。よくうちではお背中ごしごししてもらってるくせにー」
「うむ! そうかのか! 美しい兄弟愛だな!」
「ミカぁああああああ! 余計なことをいうなアホぉおおおおお!」
ややあって。
俺たちは湯船に浸かる。
「一刻も早く出たいこの空間から出たいよ……」
髪の毛をアップにしたアンチが、湯船に浸かっている。
「「まあまあまあ」」
俺とカズマが、彼を間にして座っている。
「初日、やるじゃねえかアンチ。トップなんてな」
初日は1位帝国、2位王立、3位神聖皇国、4位が東部連邦。
「うむ! すごいぞアンチ君!」
「いやいや……君たちが勝手に自滅してってるだけじゃいかほぼ……運が良かったのだよ」
はぁ、と深々とため息をつく。
「そんなことねえよ。運も実力のうちだ」
「そうだぞアンチ君! 運を引き寄せるのもまた才能だぞ!」
「そ、そうかね……?」
「「そうそう」」
アンチは嬉しそうに言う。
「ま、まぁね! なにせ僕は皇帝の息子! 神に選ばれし存在だからねっ! 運もまた神レベルなのだよっ!」
どうやら元気になってくれたようだ。
「愉快なコントやってるじゃあねえか、おまえさんたち」
そこへ、見知らぬ美形の青年と、小柄な少年がやってくる。
「だ、だれだい君たち……?」
「何言ってるんだ、ザガンにアモンだろ?」
「なっ!? 君たちが!?」
赤い髪の美丈夫がザガン。
緑のおかっぱ頭がアモンだ。
「君よくわかったね、マントと仮面で完全に姿を隠してた相手を」
「え、普通に重心の取り方で、相手かどうかってわかるよなあ?」
「わからないよ君い! なぁみんな!」
アンチが残りのメンバー達に問いかける。
「わかるよ。普通でしょ」とガイアス。
「そんなん基礎っすよねー」「武を志すならば重心移動は基礎だからのぅ」と神聖皇国。
「オレ様もできるぜ」「…………」と東部連邦。
「いやぁあああああ! 化け物だらけぇえええええええ! こんなのによく勝てたよ僕偉いよ僕ぅううううう!」
もだえている一方で、俺はザガンたちをみやる。
「【人化】の能力使ってるのに、なんで姿を隠すんだ?」
文字通り人間の姿になる能力だ。
高位の悪魔はみなつかえる。
今のこの男達は、能力で変化した姿だ。
「ま、うちのボスの命令でね」
ほどなくして。
「ザガン、アモン。ありがとな。3回戦で弟たちを助けてくれてよ」
棒倒しの時、彼女からエリーゼ達を守ってくれたのだ。
「勘違いすんじゃねえツーの。オレ様は女子の味方をしただけだ。野郎に感謝されてもぜーんぜんうれしくねーっつーの」
ハッ、とザガンがそっぽを向いて言う。
「それでも、ありがとう、ふたりとも。リーダーとして、ボクからもお礼を言わせてくれ」
ガイアスが深々と頭を下げる。
「お、おいおい、よしてくれよ。善意でやったわけじゃあねえんだからさ」
「こいつもツンデレです? インフレツンデレしてるです?」
すいーっと、ミカエルが近づいてくる。
すいーっ、その隣にアモンがやってくる。
「なんですおまえ?」
「…………」
「競争するです?」
「…………」こくこく。
「いのちしらずです! ぼくの泳ぎに打ち震えるです!」
ミカエルとアモンが、温泉でずばばばばっ! と泳ぎ出す。
「ちょっと! 公共の場で騒ぐなよミカ!」
「おめーもうるせーぞガイアス。ったく、緊張感のねえがきんちょどもだぜ」
やれやれ、とザガンが首を振る。
「ザガン君! 今日の君は本当に立派だったと思うぞ!」
カズマがニカッと笑って言う。
「そりゃどーも。けどいいのかい、悪魔退治のスペシャリスト、神聖皇国のトップが、悪魔なんかと仲良くしてよぉ?」
ザガンの問いに、カズマがうなずく。
「確かにおれは皇国の祓魔師だ! しかし今は対校戦に参加するただの代表選手!」
ニッ、と笑ってカズマが言う。
「祓魔師という立場ではなく、同じ選手という立場として、君とともに競い合いたい。それだけだ!」
「ハッ。甘ちゃんだねぇ」
「個人的に君のこともおれは好きだからな! できれば試合が終わった後も、良き友人でありたいと思うよ!」
「なー、俺もだよ。仲良くしようぜ」
にゅっ、と手を出す俺とカズマ。
「ケッ。野郎にモテてもうれしかねーや。あーあ、どうしてこんなイケメンなのに女子にモテないんだろうねぇ」
そう言いつつ、ザガンは手を伸ばして、俺たちと握手する。
「あいつもツンデレです?」
「…………」こくこく。
すいーっとミカエルとアモンが、一緒に逃げていく。
「化け物同士が仲良くしてるよ……怖い……」
「何言ってるんだよ。オマエとも仲良くしたいぜアンチ」
「うむ! そうだぞ! 端っこにいないでこっちにきたまえ!」
カズマが立ち上がって、アンチに近づく。
「ひぃい! 来るなぁ!」
「「まあまあまあ」」
と、そんなふうにやりとりをしていると……隣から女子の声が聞こえてくる。
「腐腐腐……♡ すばらしい……♡ ここが……天国……ですね……♡」
ついたてとなっている場所から、ダンタリオンがにゅっと顔を出していた。
「おぃいいいいい! なに女子がのぞきをしているのかねぇええええ! 普通逆だろうがぁああああああ!」
アンチがざばっ、とそのばにしゃがみ込む。
「すみません……隣に素晴らしい……おかずの気配を感じたので……つい……」
「おかずってなに!? ついってどういうこと!? もう突っ込みきれないよきみぃいいい!」
「へたれアンチを……ユリ、カズが押し倒す……腐腐腐……腐腐腐腐腐……♡」
「ぼくを妄想で辱めるのはやめたまえぇえええええ!」
ややあって。
「ユリウス様……ガイアス様……もうしわけ……ございません……でした」
ダンタリオンが真面目なトーンで言う。
「チームメイト……アスモデウスが……ご迷惑……おかけしました……本当に……もうしわけ……ございません」
ガイアスが体を隠しながら言う。
「別にきみが謝る必要ないだろ。暴れたのはあの女なんだし」
「チームメイトの……不始末は……リーダーの……監督不行き届き……です。命にかかわる……非道……まことに……申し訳……ございません」
「……もういいよ。気にしてない」
「だってさ。俺も怒ってないよ。気にすんな」
ダンタリオンが、また深々と頭を下げる。
「お許ししてくださり……ありがとう……ございました……。明日も……正々堂々と……戦いましょう……」
「おう、よろしくな」
「というかさ……ダンタリオン」
「はい……?」
「男湯を堂々とのぞき見しながら真面目な話するなよ……」
ガイアスが呆れたように言う。
「腐腐腐……♡ サービスシーン……♡ 男湯……パラダイス……♡」
「男湯のサービスシーンなんて需要あるです?」
「…………」
アモンもまた首をかしげる。
「用が済んだらさっさと帰りなよ!」
「腐腐腐……♡ これから……みんなで……裸で……絡み合うのですね……わかります……」
すぅー……っと、ダンタリオンが顔を引っ込める。
『なにやっとるんダンタリオンあんた?』
『ガイアス様が……盛り合うそうで……』
『『『きゃー♡』』』
「待って! 変な誤解を広めないで! もうっぉおおおおおおお!」
そんなふうに、対校戦初日は、和気藹々と終了したのだった。
いろんな思惑が絡み合っているみたいだけれど、俺たちのやることはひとつ。
明日からも、頑張る。それだけなのだ。
【※読者の皆さまへ とても大切なお願い】
この話で第9章終了。
次回から第10章に突入、また新しい展開へと突入します。
「面白い!」
「続きが気になる!」
「対校戦みんながんばれ!」
と思ったら、
下の【☆☆☆☆☆】から作品への応援おねがいいたします!
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!!!!!!!!
なにとぞ、よろしくお願いします!