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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第二章】
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〜冷雨(8)〜戦いの序曲

 「……記憶を取り戻すには、【剣神】と【炎神】の力が必要なんです。だから、私は奴らを捕らえに行きます」


 組み敷いていた美耶の上から退いた樹峯が、一度忌々しそうに闇神の【契印】を見て、そして顔を逸らした。

 暗闇の中で蝋燭の光に照らし出された彼を見ながら、美耶は体を起こす。


 「剣神…炎神……?」


 「ええ。あなたも奴らをご存知でしょう?奴らはあなたの記憶の扉を開ける鍵。ちょうど奴らはこの屋敷に揃っています。今すぐに、あなたの記憶を取り戻させるのは容易です」


 「ちょ、ちょっと待って!!」


 よく意味がわからない。

 何故、自分が失っているという記憶を取り戻すのに剣神と炎神(るいと)が必要なのか。

 そう訴えると。


 「簡単なことです。記憶を失う前のあなたが、かつて彼らに自身の記憶を受け渡したのですよ」


 「受け渡した……?」


 一体どういう事だ。

 非凡な美耶には、彼女が持っている脳だけで推測して答えを得る事ができない。

 彼女の様子を見た樹峯は一度溜息を吐いた。

 瞬間、彼の優しげな目を峻烈な光が過ぎた。


 「そうです。あなたはかつて、あなたに忠誠を誓っていた奴らにあなたの記憶を封じるよう命じたのです……私に何も言わずね」


 「ーーっ!」


 彼から放たれる威圧感に肩がすくむ。

 彼の瞳はいつになく鋭くなって、憤っていて、殺気さえも感じた。


 「あの時、私がどんな気持ちだったか、記憶が戻ったら、あなたは理解出来るでしょう」


 彼が言う、過去の美耶(じぶん)はどれだけ重い罪を背負ってしまったのか、記憶を取り戻す事で悟ってしまう事がひどく怖くなる。


 (でも、私が動かないと何も始まらない)


 馬鹿で心が弱い自分にだってそのくらいの覚悟はある。


 「じゃあ、早く私にその記憶とやらを戻してよ」


 「ええ、そうしますよ。でも、その前にこれだけは言っておかなくてはなりませんね」


 意味深な彼の言葉に思わず彼を訝しんでしまう。


 「記憶が戻っても、【始まりの五神】の方へ行かないで下さいね?」


 始まりの五神。


 「……もしかして、闇神と時神のこと?」


 「ご名答です。よくお分かりになられましたね」


 何となく、彼の言動から、奴ら(・・)とは誰の事を示しているのか察する事ができた。


 「では、【始まりの五神】という言葉の意味はご存知ですか?」


 「知らない」


 (闇神と時神から、教えられてた途中に、あなたが来たからね)


 この花謳という国に生まれた【命神】とその命神であるというかつての自分を囲む五人の神の事を。


 その事を思い出すと同時に、まだ幼げな容姿をした時神とあの憎らしくどこか飄々とした闇神の姿が脳裏をよぎった。

 自分を拘束するなど、突然口付けるなど不埒にも程がある闇神はともかく、美耶に優しくしてくれたあの少年神は大丈夫だろうか。


 (時神は、あの神殿が爆発がした後から目にしてない……)


 無事であってほしい。

 あの綺麗で優しい彼には傷ついてほしくない。


 「奴らから教えられましたか?ーー奴ら【始まりの五神】以外の者を信じるなと」


 そう言われた瞬間、下に向けていた顔を勢いよく上げた。

 そして、彼の整った口許が弧を描いていることに気付く。


 「ふふ。そのくらい察せますよ。何しろ、純粋にあなたを守るのは【始まりの五神】しかいないでしょうからね。ただ、奴らが目的を果たす(・・・・・・)まででしょうね」


 「ーーは?」


 彼が遠回しに言葉を放ってくるので苛立ちが声にでてしまった。

 そんな彼女を気にした様子もなく、彼は続けた。


 「奴らはある神の復活にあなたを必要としているだけ。だから、あなたを求めているにすぎない。用済みになったら呆気なく捨てられる。ーーでも、私は違う」


 突如、手首を引っ張られた。着物越しでもわかる彼の逞しい腕の中に美耶の体が収まる。

 不意打ちに一瞬頭が白くなるが、彼はさらに一歩先の行動へと進む。

 美耶を惑わすように彼女の耳元に、妖艶に囁きを落としたのだ。


 「私は何があっても、あなたを見捨てはしない。あなたのためなら私は人も神も殺す事を厭わない。私は何を犠牲にしてもあなたを守り抜く」


 確かに、彼の整った顔には美耶を惑わして引き込むような甘さがあった。ーーだが、目はそうじゃなかった。


 (……綺麗ね)


 美耶の心を鷲掴みにするような紳士な目。しかし、彼女しか視界に入れる事を許さないどこか歪んだ感情を思わせる色を宿した目にも見える。

 それでも。


 とても、美しい。


 「でも、なんで私なの?」


 そんな言葉を、そんな目を向けられるような事を彼にした覚えがない。自分には、彼のような綺麗な神様を魅了するような要素は無いはずだ。


 「はあ……。あなたは何も分かっていない……」


 思い悩むような溜息をついた樹峯は美耶の頬を指で撫でた。

 なぜか、仏頂面で。


 「私があなたに恋したのはもう何百年も前のことですが、今のあなたにも十分に惹かれているんですよ?まあ、過去のあなたと今のあなたは同一人物なんですから、性格に違いはありませんが」


 そこで、彼は自身の前髪を掻きあげた。そして、色気を感じる流し目を彼女に向けた。


 「気付けば惹かれていた、それでいいじゃないですか」


 「……何それ」


 つくづく、曖昧な発言ばかりの神だ。でも、自然と笑みが零れていた。


 それが、彼をさらに魅了したと知らず。


 「……美耶さま、そうやって笑うのは私の前だけにしておいてくださいね?」


 「ーーえ?」


 驚いて顔を跳ね上げると、彼は片手で顔を覆っていた。指と指の間に見えるその端正な顔はーー赤い。


 「えっ、何っ!?」


 一体、どうしてしまったのか。

 彼の様子の異変に思わず戸惑っていると。


 「ーー森神様」


 その場の気恥ずかしい雰囲気を、厳粛なものへと一瞬で変えたのは。


 「幻影……なぜ、ここに入れた」


 空間の狭間のような、宙に描かれた黒い渦から現れたのは、得体の知れない人物だった。

 なぜか、美耶を抱く力が強くなった樹峯は先刻までの雰囲気を瞬時に霧散させ、この場に介入してきた幻影を厳かな目で見据えた。


 返ってきたのは、愉悦を孕んだ笑い声だった。


 「私に空間術は効きませんよ。たとえ、あなた様のような偉大な神であられる方のものも。それより、そろそろここを出られては?ーー奴らが迫っているようです」


 「お前の正体は見切れないな……。まあいい」


 冷たさを含ませた目で、片膝を床につけて首を垂れる幻影を見据えた樹峯だったが、彼は蝋燭の火を消し、指を鳴らした。

 途端、目の前が真っ白に染まり、次には見覚えの無い大きな場所が広がっていた。


 「どこ?ここ……」


 「【神の間】です。本来、ここにはあらゆる神達が常に集まっているのですが、どうやら今は誰一人いないようですね」


 【神の間】と紹介された所は、壮大かつ輝かしい所だった。正直、あるはずの入口が見えないくらい。二階もあり、そこへ繋がる階段はの白銀一色。一階の巨大な間も同色。ただ、数十カ所に置かれたテーブルや椅子、柱は金装飾が施された大理石で出来ている。その間を生み出す四方の壁は鳳凰や天馬、竜など美耶の故郷である日本では架空上の生き物とされているものがデザインされている。


 この間は、西洋風だ。


 「すご……」


 知らず、感嘆が漏れていた。

 彼女の横に並んだ樹峯がそんな彼女に笑い、踵を返した。

 慌てて彼を追いかけると、樹峯は一際神聖な輝きをまとう椅子に腰を下ろした。


 「これは、【最高神の玉座】です。最高神だけが座るのを許される椅子。つまり、私のものになるが、あなたならいい」


 「え……?」


 意味深な言葉に瞠目していると、彼に抱き上げられていた。そして、その【最高神の玉座】に座らされた。


 「愛しき女神、あなたにはその椅子がよく似合う」


 そう言い紡ぎ、樹峯は着物の裾を払い、その場に片膝をつけた。


 「命神……いや、美耶」


 彼の口調が変わった。


 「再度、あなたに誓おう。永遠に変わらない忠誠と愛を」


 まるで騎士のような言葉を放ったが、彼はこれまでに見たことのないような悪戯めいた笑みを覗かせた。


 「……」


 思わず、頬を火照らせ、体を硬直させていた美耶だったが。


 「ーー森神様。奴が来ます」


 「ああ、そのようだな」


 それまで静聴していた幻影が、そう警告すると、樹峯はその場に立ち上がり、冷淡な気配を纏って目を細めた。


 「つくづく執着心が強い神だ」


 そう呟いた瞬間だった。


 「炎神、参上だよっ!」


 無邪気な笑い声が【神の間】に響くと同時に、天井に赤い陣が出現した。そこから、小柄な少年が降りてき、軽やかに着地した。


 彼は。


 「類斗…っ!?」


 剣神と交戦していた美耶の弟だった。

 予想外の出来事に目を見張らせている美耶をまず、視界に入れた類斗は彼女を見るなり、彼女しか見えないとばかりに目を輝かせた。


 「お姉ちゃん、会いたかった!!」


 美耶が大好きな天使に抱きつきたくなったが、即座に思い出した。


 優しくかわいい自分の弟であるはずの彼は、対峙していた闇神に残忍な顔を見せ、そして、何の躊躇いもなく剣神にも襲いかかったのだ。

 とても、愉しそうにしながら。


 だから、彼に抱きつけなかったのかもしれない。


 だが、中途半端に腰を浮かせていた美耶を怪訝に見つめながらも、類斗はありえない速さで彼女の近くに走ってきーー樹峯のそばに待機していた幻影に阻まれた。

 途端、一瞬でその整った顔を冷酷なものに変化させた類斗は両手に黒い火球を作り出した。


 「そこ、どけよ。殺されたくないだろ?」


 無情に呟き、類斗は幻影の首元に炎の刃を突き付けた。


 「ーーあなたに殺される私ではありませんよ」


 二人はその場を蹴り、戦闘態勢を取った。


 「ーー幻影、殺すなよ。そいつは美耶の記憶を戻す鍵だからな」


 「承知」


 幻影にそう言った樹峯は次に、自身の右手を払った。


 『顕現せよ。我が従神たる二の神ーー』


 盾神。

 雷神。


 刹那、天井を貫き、巨大な雷が【神の間】に落ちた。

 そして、五つの球体がどこからともなく現れ、宙に漂う。


 「……っ!?」


 咄嗟に両手で耳を塞いでいた美耶だったが、雷が落ち、球体が現れた場の前で樹峯が微かに口角を上げているのが見えた。


 「お久しぶりですね、(れい)頼牙(らいが)


 樹峯が名前らしきものを呟くと。


 「……随分、俺たちを待たせてくれましたね」


 「出番が全然なかったもんなあ。主人さんは姿をくらませちゃったしね」


 あがった二つの男の声。


 二つの声主の姿を遮っていた光が消え、彼らの容貌が明らかになる。


 淡々と呟いた男は長身痩躯で、全身を黒と金のローブを纏っており、左の横髪だけが長いオリエンタルブルーの短髪に灰色の目をしたまだ二十歳くらいの青年だった。


 そして、もう一人は。


 雷と共に登場した逞しい体躯の男は四十代くらいで。橙色の短髪に金の目をした無精髭の男だった。


 「待たせてすみませんね。ーー頼みましたよ」


 彼らに微笑み、次の瞬間、樹峯は新緑の目を細めた。

 同時に、盾神と雷神の目も冷たいものへと変わる。


 「ーーこれは、皆様お揃いで」


 その場の空気を読んだように、彼らは現れた。


 それは。


 「ーーさあ、三つ巴の戦いと行こうか」


 苛立ちを笑みに刻んだ闇神と時神だった。


更新、遅れてすみません。

【腹黒乙女と12の時代勇者様】は火曜日になります。ほんとにすみません!

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