〜恋雨(25)〜歪んだ神の罰と愛情
今回は、ちょっとーーいや、見る人によってはちかなり残酷め。エグいです。
また、歪んで歪みきっています。
大丈夫。消化しきれていない謎はかならず、解き明かされます。
許容範囲の人はどうぞ!
明日も、更新します。夜です!
「……一体、どういうつもりだ」
樹峯の冷ややかな声と目が、彼の元に片膝をついて首を垂らしている男ーー幻影を射抜いた。
樹峯の右手には、先端を赤く染めた剣があった。
「申し上げたとおりです。命神様に剣神を生みださせ、剣神もこちら側へと引き込ませるのです」
幻影の頬を赤いものがつたい落ちる。それが、床へと流れ落ち、赤い花を咲かせた。
「剣神は、かつて武神と崇められていた闇神の眷属たる神。あちら側につく前に、こちら側が先に彼を取り込むべきでしょう。彼は必ず、重要な戦力となるでしょう」
「そんな理由で、美耶を傷つけるような真似をしたのか?」
明らかに、樹峯の穏やかなはずの美貌には、暗い激情が浮かんでいた。
全てを焼き尽くす。そんな目だ。 どうしようもない激憤がほとばしっていた。
血塗られた剣が、躊躇いなく幻影の首元にあてられた。
「剣神を生みださせるために、寝ている美耶の口許に剣を触れさせた。お前のその罪ーーどれほど重いか分かっているのか?」
下手していたら、美耶をその刃で傷つけていた。美耶に、血を流させることになる。
そして、剣神という新たな神を許しもなく、誕生させた。
これらは全て、樹峯の逆鱗に触れることになったのだ。
「……挙げ句、時神を仕留め損ねたのだろう?邪魔な神は一人残さず消さなくてはならないというのに。お前は、失態をおかしすぎた」
ーー何のために、お前を僕にしていると思っている。
危うい光が、新緑の瞳にちらついた。
剣先と幻影の首までの距離が縮まる。
「……私に考えがあっての行動でした。よろしければ、それをお聞きしてくれませんか?ーーこれは、美耶様を確実にあなたのものにする為のお話です」
「……どういうことだ」
「美耶様は、記憶を失われている。それは、あなたにとっては好都合でしょう。しかし、闇神や時神を始めとするかつて《始まりの五神》と称されていた奴らにとっては悪都合」
「……」
口角を微かにあげ、心の奥底が知れない仮面をした幻影に、樹峯は彼の真意を探るかのように、冷徹な眼差しを向けた。
「記憶を取り戻されたら、間違いなく命神様はこちらにつくより、あちらにつくことを選ぶ。それは、あなたもよくお分かりのはずです」
「だから、剣神を通じて記憶を戻されないように、奴らより先に剣神を俺の方に引き込むべき、と?」
「はい。剣神は、今は裏切りの神だとしても、《十裏神》たる者。下手に彼が持つ力を振るわせては、命神様の記憶の檻を叩き切ってしまうでしょう。それでは、命神様はあなたのものにはなりません」
十裏神。
その言葉が出てきた瞬間、樹峯の拳に力が入った。
忌々しい神達の総称。
剣神のようにその冠を外した神もいるが、一度、煮湯を飲まされた奴らをそう簡単に許せるわけがない。
剣神も例外ではない。
そして。
(《黄金の知》……お前もだ。決して逃しはしない)
脳裏に鮮明に映るのは、輝かしい光をまとった憎んでも憎みきれない男。
樹峯が唯一欲したものを独占した愚神。
あの男へあるものは、嫉妬。ーー違う、そんなものではない。
(俺から逃げられると思うなよ)
もうじき、自分は本来のあるべき姿へと戻る。
森神。そんな小さな神ではない神に。
そして、強大な力も行使出来るようになる。
その時は。
(必ず殺してやる)
お前の罪は重い。とても償いきれないものだ。いやーー償おうなど、そんな事思いでもしたら、一生苦しめさせてやる。闇の深淵へ落としてやる。一縷の光さえ与えない。絶望に染め上げてやろう。
奴にとって、何よりも大切で守るべき主を樹峯のものにする。
それが、奴には最大で最悪の絶望だ。
焦がれた少女は、逃げるという醜態を取っている間に、横恋慕してきた樹峯に奪われる。
その時、奴はどんな顔をするのか。
考えただけで、嗤いが止まらなかった。
だが、あの少女を確実に得るためには、目障りな障害を消し去らなければ。
闇神。時神。《始まりの五神》。そして、炎神。
自分が召喚した神である類斗さえ、樹峯にとっては害虫でしかない。使えると思ったが、奴も彼女に想いを抱いている。ならば、奴も消す。
彼女をーー美耶を得るためならば、自分は何だってする。
樹峯は歪んだ感情を胸に潜め、幻影に暗い笑みを向けた。
「お前の案に乗る。必ず、剣神をこちら側に取り入れろ」
幻影が、御意ーーと、音も無く立ち上がろうとした時だった。
ボトッ、と何かが落ちた音がしたのと宙に鮮血が飛び散ったのは同時であった。
「……っ」
幻影から、微かだが呻き声が漏れた。
唇を噛み、右手で左手を苦しそうに包み込む。
「ああ、まさか、そんな案を出したくらいで俺がお前の罪を無しにすると思ったのか?まあ、指を切断すると言う軽罪にしてやったが。感謝するんだな。本当は殺したいのだからな」
今度は、別の意味で項垂れる幻影に向けられたのは
冷たく残忍な言葉と顔。
その目は、おさまりを知らない怒りに支配されていた。
「美耶に傷ひとつでも付けた奴は簡単には殺さない。その命が果てるまで、一生苦しみを与え続けてやる。まあ、おまえは幸いに美耶を傷つけはしなかったようだが。だが、傷つけようとしたのならば、それ相応の罰を受けてもらう」
それがこれだ。と言わんばかりに、樹峯の無慈悲な目が、真っ赤な花弁が散らされた床に向けられた。
そこにあったのは、幻影の物であった小指だった。
「美耶を傷つけていいのは、俺だけだ」
血を流させるのも。傷を付け、癒すのも。愛でるのも。
全て、自分だけの役目だ。
ヤンデレ。好きやわ。




