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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第一章】
24/41

〜恋雨(24)〜弟と剣

すみません、遅れてしまいました!

本当にすみません!!



「ーーお姉ちゃん、彼氏できた?」


美耶の弟はいつもそう問いかけていた。


「できるわけないよ。私、ぜんぜんいい所ないから」


美少女とかハイスペックとか自負しているのは、ただのおふざけ。本当は、自分のいい所がひどく少ないということくらい分かっている。


(私の長所って言ったら、陸上部だから足がまあ速いとか声がでかいことくらいしかないんだよね)


それに反して残念なことに、短所は両手の指の本数以上にある。


(口悪いし、乱暴だし、すぐ荒れるし、悪口言うしなぁ……うわぁ、なんかめっちゃ(むな)しくなってきた)


かつてない程に落ち込んでいると。


「そう、良かった。お姉ちゃんのいい所、僕だけがわかっていればいいんだよ。他の人は知らなくていい。……お姉ちゃん自身もね」


くすり、と、とてもまだ十二歳とは思えない色気を弟ーー類斗がその端正な顔に浮かべた。

常に貼り付けられている天使の笑顔に妖艶さとは、この弟、侮れない。


類斗は、美耶の腰に華奢な両腕をのばし、甘えるように抱きつく。


「お姉ちゃんは僕のもの。ーーそうだよね?」


なんてかわいいのだろう。

美耶は、にやけそうになった顔を隠すように、愛しい弟の髪に顔をうずめた。




ーー違ったのだ。

弟は、美耶を姉として慕っていたのではなかったのだ。

大好きな姉故の独占欲、愛情……そんなものではなかった。





ーーそれに気づいた時はもう。








遅かった。





************************










「うそ……」


あり得ない。

美耶はただひたすらに、うそ、そんな…、と呆気にとられた声を発していた。

視線の先は、到底理解できない事実。


「うそじゃないよ、お姉ちゃん。僕だよ」


瞬間、美耶は目の前に現れた少年に向かって叫んだ。


「類斗…っ!!」


「そう、類斗だよ、お姉ちゃん!やっと会えたね」


邪気のない天真爛漫な笑顔。

間違いない。この少年は美耶の弟ーー相沢類斗だ。


けれども。


「どうしてここに…って、どうしたのその髪!」


弟の髪は日本人を主張する黒や茶、という色からかけ離れたものへと変わっていた。

姉の美耶と揃いの焦げ茶ではなく、それは朱金になっていた。

よく見れば、目の色も違う。

濃い金の瞳。


「僕の本来の色は、この通りだよ。今まではちょっといじっていただけ」


てへっ、と可愛らしく小首を傾げてみせ、類斗は姉の方へと歩み寄る。

だが。


「炎神……まさかお前までもが森神側についていたとはな」


闇神が愉悦を浮かべて笑う。そして、近づいてくる類斗から隠すかのように拘束されたままの美耶を深く抱き込む。それこそ、何者にも触れさせないと言わんばかりに。


それを見た類斗が黄金色に染まった目を一瞬で細めた。


(…っ!!)


なんて怖い表情をしているのだろう。

常にあったはずの天使の笑顔は完全に消え失せ、変わってしまったその目には明確な殺意が浮かんでいた。


「……森神、こいつは僕が殺るよ」


振り向く事なく、闇神の行動に静かに類斗と同様の感情を宿した背後の樹峯に類斗が宣言した。


「その役目は俺が被りたいところだが…まあいい、好きにしろ」


何故か意味ありげに、言葉を向けた類斗ではなく、固まっていた美耶を見つめる。

そんな樹峯に、美耶は心なしか嫌なものを感じた。


けれども、溺愛する弟が突然この世界に出現した驚きと動揺に、その感情もすぐに消え失せてしまう。


「……奪い返したらなんでもありだからな」


だから、自分の手で殺してやりたいが、自分より戦闘能力の高い炎神を戦わせる。

その方が、美耶を早く奪還できる。

そんな樹峯の呟きは、美耶の耳に届くことはなかった。


「ごめんね、お姉ちゃん。ちょっと怖い思いをさせるけど、すぐ終わらせちゃうから」


戸惑う美耶ににこりと笑い、類斗は森を失った無残な地を蹴り、飛び上がった。

そして、とても美耶に優しい笑顔を向けていたとは思えない冷酷さを身にまとい、類斗は浮遊した途端、右手に炎を生んだ。


(な…っ!?え、ええ、なんで!?)


なぜ、弟が二次元のキャラクターのようになっている。

樹峯や闇神にも当てはまる事だが、この十六年間共に家族として過ごしてきた弟が魔力なようなものを駆使するなど、驚愕と混乱の極みだ。


手に炎。

熱くないのだろうか。


普通にそんな事を心配してしまう。

こんな時だというのに。

ついに、美耶の脳内はキャバオーバーを迎えてしまったのか。


あははは……と空笑いをし、美耶は視線を足元へとそらした。



そして。





気絶した。






************************





「おい、起きろ」


「おい」


「……口付けるぞ?」


「それだけはいやああああああっ!!」


ガバッと、美耶は重たい体を全力で起こした。

自身があげた絶叫があたりに反響し、美耶はその煩さに目が完璧に開いたのを感じた。


「……うるさい。場所を考えろ」


「…ご、ごめん。って、ここどこ!?」


低い声を発した男に反射的に謝り、美耶はあたりを見渡した。


視界を占めたのは、ひどく豪奢などこかの部屋らしき所であった。

調度品もたくさんあり、広い部屋をつくる壁は白と金で統一されており、さながら西洋の豪邸の部屋だった。


「……俺の知った事じゃない。というより、俺が聞きたい。どんな意があって俺を神にした?」


「え…?」


隣から、耳にした事のない声が聞こえた。

目を丸くし、美耶は寝起きで重たい体を横にむけた。


「あ、あなたは?」


そこにいたのは、見知らぬ美少年だった。

華奢な腰上まであるアッシュグレイの長い髪は首根で緩く結ばれており、曇天を連想させる鋭い瞳をしていた。

背には長細い剣が装備されており、少年の小柄さを引き立てていたが、同時に筋肉質な腕やはっきりと浮き出ている鎖骨も相まって逞しさを磨いていた。

ただ、その逞しさが今は裏目に出ていてしまっている。

不機嫌を全開にしているためか、まだ、細い少年であるはずなのに非常に怖い。


「……自分で誕生させていてそんな事も分からないのか。俺は剣神だ」


「剣神…?」


(また、神様…?)


「あんたがここで寝汚く寝ている時に、無意識に俺を神にしたようだな。どういうわけか、あんたは枕元にあった短剣に口付けたようだな。……故意ではない神人化なら、俺がなすべき事はべつにないのか」


神人化。

そういえば、先刻、闇神が言っていた。

命神であるらしい美耶は不思議な力を持っていて、物に口付けをすると、それを神にする事ができると。


「私……、本当に神様なの?って、闇神は!?それに、樹峯と類斗!あと、時神も!」


「知るわけないだろ。闇神って……、そんな神がいるのか?」


意気込んで問いかける美耶に、煩わしそうにした剣神は、彼女の肩を軽く押した。

ぼふっ、と美耶の体が再び寝台に沈んだ。


「あんたはここで寝ていたらどうだ?時期に、あんたをここに閉じ込めた奴が来るだろう。俺はあんたに俺を神にした理由を聞きたかっただけだ。あんたに目的がない以上、俺は自由にさせてもらう。じゃあな」


素っ気なくそう言い残して、剣神は白一色の部屋の扉へと歩いて行く。

剣神は装備していた背の剣を右手で引き抜いた。

そして、それを固く閉ざされた扉に振り落とす。


ーーキィィンッ!!


鋭い金属音が耳を劈いたと同時に、二つに切り裂かれた扉がガタリ、と音を立てて床に落ちた。


「……ふん」


彼は、剣を背の鞘に戻し、そのまま部屋から出ようとした。

だが。


「待って…っ!私も行く!」


寝台から降り、美耶はいつの間にか着せられていた青いネグジェリのような物を揺らしながら彼の元へと走った。


「……邪魔だ。ここで大人しくしていろ」


「邪魔になったりしないからお願い、連れて行って!私、現状をまったく理解できてないの」


「……この屋敷には嫌な気がいくつも存在している。戦力外のあんたがまとわりついてきても迷惑だ」


「戦う時は、そこらへんに浮かんでいる(ほこり)のごとく何もしないから!埃なら、邪魔になったりしないでしょ?」


「……」


一瞬、美耶の発言に剣神はその鋭い目を微かだが見開かせた。


「……埃か。ふっ、面白い」


小さく、形の良い口許に弧を描いた剣神は、部屋を出た。


「あ、ちょっと!」


「早くしろ。置いていくぞ」


「え」


連れて行ってくれるのか。

美耶は、自分より少しだけ小さな少年を見つめた。

そして、満面の笑顔を浮かべた。


「待ってーっ!」


美耶は部屋を飛び出した。


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