第三十三話 日替わり4階
5/6 修正しました。詳細は後書きにて。
率直に言って13階から8階までは全部普通の教室だった。ひとフロア毎に20もの教室があることに異常がないと言えば嘘になるが、それはほら空間魔術、空間魔術。
そして俺が今いるのが7階、図書室である。と言っても図書"室"ではない、図書"階"と言った方が的確であった。ここからの3フロア、つまり5~7階間は全て図書で埋め尽くされている。その圧倒的な蔵書量は前世でも類を見ないほどで、世界の英知がここに詰まっていると言っても過言でないようにも思えた。
「なんじゃあこりゃあ...」
「あはは、笑っちゃうよね。王都で発行された本は必ず1、2冊はここに寄付されることになってて、この学園創設時からの100と数年間分の本が全部ここにあるんだって」
「加えて話すなら、ここの本は学園長の魔術が施されていて学園の敷地外に持ち出せないようになっているから盗まれる心配が無いのよ」
「でも100ねんもしたらボロボロになっちゃうよ?」
「それも学園長の魔術がなんとかしてくれるのよ、その魔術の魔力反応を辿れば学園内での紛失も無くなるし」
もう慣れたつもりだったが魔術ってホント何でもありだな。まさか時間の流れすら止められるのか、帰って霊術でもできるか試すか。
「それじゃあ次は4階だよ」
どこかワクワクしてるパルティアの声に促され4階へと続く階段を降りると...
「なんじゃこりゃ...」
そこは外だった。
「あら、今日は外なんだね」
「昨日はもう一回7階だったわよね」
「え?なに?どういうこと!?」
今日は外ってなに!? “今日は”ってなに!?
「あ〜、やっぱり戸惑うよね、ここ」
「この4階はね、日替わりで降りた先が変わるのよ」
「なんのために!?」
「「さあ?」」
パルティアとアガーテは同じ仕草で小首をかしげた。
「外出ちゃったし戻るのめんどくさいよねぇ?」
「そうね、3階から下の階は対した物ないし、校舎の方はこれで良いわよね」
良いのか?4階が外で良いのか?毎日変わって良いのか?と頭の中で思考がぐるぐると周り始めたので俺は超便利な言葉『空間魔術だから』で締めることにした。
続いての行き先は闘技場だ。パルティアの話を聞く限り闘技場と言っても戦うだけの場所ではないらしい。基本的に魔術の実技もそこで行うそうだし、武術部系の部の活動もそこで行うそうだ。さて、今度はどんなことで俺を驚愕の海に叩き落としてくれるんだろうか、もう一周回って楽しみでしょうがない。
「ここだよ」
パルティアが紹介してくれたのは、これまたデカい施設だ。闘技場というよりは楕円に伸びたドーム状の形から市民体育館みたいな印象を受ける。正直もう実物のサイズで丁度いいんじゃないかと思うくらいにはデカい。
「じゃあ中入るよ」
パルティアに手を引かれ闘技場の中に入るとやはり広い。入口が楕円の端だからという事もあって、奥行が半端ではない。向かいの端が霞みがかって見えるのだ。そして客席の数も並のそれではない。全校生徒約3000人が収容されてもまだまだ余裕があるようだ。それもそうだろう、年に幾度は学内で祭り行事が行われ、その度に全校生徒とその保護者、来賓者や一般客がわんさか押し寄せてくるというのだ。ちょっとやそっとの席数じゃあ間に合わなくなるのがオチだというのがたった今アガーテから聞いた話だ。闘技場自体は客席から1フロア分掘り下げたような場所にあり、入口から見れば地下一階に相当する。
「あ、今土部が練習してるよ」
ここで言う土部と言うのは、ハンスの所属している火属性魔術部の土属性バージョンの略称だ。魔術部はどの部もこうやって属性+部で略されるのだと言う。
「あれはなにをしているの?」
「あれは魔術で像を作っている最中ね、近いうちに土部の中で実力テストが行われるって言ってたからそれの練習じゃないかしら」
「へぇー」
部内でテストなんてやるんだな、意外に徹底しているっぽくてなんだか微笑ましい。すると練習中の生徒の一人がこちらに気付いて手を振ってきた。
「だれ?」
「私達の友達、同じ商術科の子よ」
アガーテに聞くとすぐに答えが返ってきた、手を振ってきた女の子は顔までははっきりと分からないが、ウサギの耳を持つ獣人族だと思う。その子はパルティアとアガーテが手を振り返すと満足したように練習へと戻った。
「あ、奥では火部も練習してるよ!」
パルティアの言葉通り霞みがかった先で火花のような閃光がピカピカと光っている。
「ひっ」
反射的に身を引いてしまった、昨日あれだけ近くで見たというのにまだ俺の体は火を怖がっているらしい、あんだけ距離があるというのに情けない...
「ど、どうしたの?アル君?」
「そ、その...こわいの。ひが...」
下手に誤魔化すと見に行こうとか言われそうだったので、プライドを投げ捨てて白状した。ぶっちゃけ本気でビビっていたのだ。
「火が怖いの?」
「うん、まえにれんしゅうしたときにしっぱいしてからだにやけどしちゃって...」
演技でもなんでもなく身体がプルプルと震え、パルティアの足にがっしりとしがみついている。そのまま上目遣いでパルティアの顔を見るとめちゃくちゃ笑っていた。
「大丈夫、お姉さんがしっかりアル君のことを守ってあげるから」
言っていることは凄く頼もしいのだが顔が全く持って緊張感に欠ける、緩みに緩みきったその顔は表情筋が溶けているのではないかとこっちが心配するほどだ。
「あぁん!もうダメ!アル君可愛すぎるぅ!!持って帰って部屋に飾りたい!!」
がばりとパルティアに抱き着かれ頬ずりされ、狂気じみたことを言われて俺はある意味火を間近で見るよりも恐怖した気がする。俺はアガーテに助けを求め手を伸ばすが、肝心のアガーテが血走った眼で獲物を見るかのように俺を見つめている。手で鼻血を抑えながら...
「うぅ...パルおねえさんくるしぃよ〜」
俺の悲痛の叫びはおそらくこの二人の耳に入っていない、恐怖した俺だが同時にとてつもない既視感に囚われ何故か安心する。
「(あ、エリーゼとシャルルに似ているこの二人)」
そう思った瞬間俺は酸素が補給できずに気絶した。
「はっ!」
目が覚めると知らない天井が見える、まさか俺はまた死んだのか、と思ったがそばに知っている顔が2つ、ハンスとシルヴィアだ。
「あれ?ハンス、なんでこんなところに?」
「それはこっちのセリフだ、部活が終わって闘技場を出ようとしたら土部の人が『黒髪の男の子が医務室に運ばれた』なんて話していたからまさかと思ってここに来たら案の定だ」
「俺は何があったんだ...」
「それはだな、そこの2人が話してくれるそうだ、おい」
「「はい...」」
ハンスの声に反応してゆっくりと申し訳なさそうに姿を現したのはアガーテとパルティアだ。
「えっと...なにがあったの?」
「えっとぉ...」
「その...」
沈黙。気まずい雰囲気が漂う、俺は何がなんだか分からず戸惑うばかりであった。
「「ごめんなさい!!」」
「!?!?」
やっとのことでパルティア達が開いた口からは謝罪の言葉が飛んできた。
「その、まずはなにがあったかせつめいして?ね?」
「実は...」
どうやら俺はパルティアの熱い抱擁によって気絶、それに驚いたパルティアは急に手を離し俺を地面に落とし、持ち上げた時に鼻血が垂れてきた俺に再度驚き落下、医務室に運んだそうだ。
「だから頭が痛むのか...」
「「ごめんなさい...」」
「いや、いいんだよ。大丈夫だから」
「いいわけあるか!仮にも貴族に危害を加えたんだぞ!?それがどれだけ罪なことか分かっているのか!」
「いや、彼女たちは俺が貴族だって知らないし」
「なに?」
そうだ、俺がウィルホーキンスの人間だなんて一度も説明してないんだからわかるわけないじゃないか。
「俺は彼女たちに一度も家名を名乗っていない、だから俺が貴族だなんて知るよしもないんだ」
「なぜだ?説明すればよかったじゃないか」
「いや、ほら。うちの兄貴が悪い意味で有名人だから...」
「あぁ、それならなんとなく納得した。だが知らなかったとはいえ貴族に危害を加えた、これは揺るぎない事実だ」
「だから俺は気にしてないって」
「そうはいかない。たとえお前が許すと言っても何か処罰を与えておかないと貴族という肩書きに泥がつく、これはある意味貴族全体の問題に発展しかねないぞ」
「とは言ってもなぁ...」
パルティアとアガーテの二人は俺らの会話を聞いて怯えたように震えている。
「もういっそお前の家臣として雇ってしまったらどうだ?」
「それは駄目だ。彼女たちはまだ学生の身だ、これが家政科の生徒だったら修行ということでそれでもいいだろうが、彼女たちは商術科だ」
「じゃあどうするというんだ?」
どうすると言われてもなぁ...あ、これでいいか。
「じゃあこうしよう。彼女たちが無事に卒業したら俺との取引関係を友好なものにさせてもらうってのはどうだ」
「そ、そんな賭けに出るようなことで良いのか?」
「今の彼女たちから何かを持っていくわけにもいかんだろう」
「まあ、一理ある」
「じゃあ決まりだな」
そう言って俺はプルプルと怯えている二人に向き直る。
「そういうわけだから、2人は卒業後に行商人になれたら俺との取引でちょっとう割引きしてね」
「「は、はい!!」」
そんなこんなで平民学生2名による貴族少年暴行事件はひっそりと幕をとじたのであった。
あ、演技すんの忘れてた。まあいっか。
以上、GWキャンペーンの3本投稿でしたー。
修正箇所:「だから俺が貴族だなんて知るよしもないんだ」と言うセリフの貴族の文字が帰属となっていたので修正。




