第三十二話 空間魔術便利説
「へぇー、アル君4歳なのに魔術が使えるんだぁ」
「すこしだけだよ?」
「いやいや、少しでも十分すごいわよ。私なんて中等部入ってやっと初級をマスターしたくらいなのに」
俺はパルティアとアガーテに挟まれ和気あいあいとした会話に華咲かせながら校舎へ向かっている最中である。
「でもアル君が入学するとき、私達はもう最終学年だよぉ、一年しか一緒にいられないじゃない...」
「しかも卒業試験に向けた勉強もしなくちゃならないから、あまり構っていられないわね」
「そんなぁ、こんなに可愛い男の子と知り合いになったのにぃ~」
アガーテの言葉にパルティアは割と本気で悔しそうにしていた。
「そつぎょうしけんってなにするの?」
「うーん、学部によって色々だけど...私達は筆記試験か一年で金貨100枚ほどの稼ぎをするかだね」
「一年で金貨100枚だなんて無理に決まっているわよね、これじゃあ普通に筆記を受けるしか無いわね」
「ふーん」
あれ、これって転生物にありがちな「前世の道具を作って売って大儲け」のフラグじゃね?けど試験は二年後だっていうし、今稼いでも意味が無いのか? いやしかし...
「あの、アル君?急に立ち止まってどうしたの?」
「え?あぁ、なんでもないよー」
どうやら相当考え込んでいたらしい。まぁ、この件は保留としておくか。
「さ、アル君。ここがこの学園の校舎だよ」
「ふわぁ...」
その校舎はあまりにも大きく、俺が知る前世の学校のどこよりも巨大であった。それでいて華やかさと煌びやかさ、品の良さも溢れんばかりの主張をしている。しかしそのどれもが上手く調和しており、素晴らしいの一言に尽きる。
「すごく...大きいです...」
「それだけじゃなくて中もすっごい広いんだよ」
「えぇ、学園長の魔術のおかげで外見の倍近い広さがあるのよ」
「ほえぇ~...」
魔術って何でもありだな、そう実感したアルバートであった。
「さ、中に入りましょ」
「はーい」
校舎の中に入るとそこはまさしく不思議空間であった。外観だけでは大きいと言っても3階建てがせいぜいだろうと思っていたが、中はどう考えても十数階はある。巨大な吹き抜けのロビー、首が痛くなるほど上を向かなければ光が差し込むガラス張りの天井が見えないほどである。自分たちが立つ1階はいくつもの椅子と机が点在し、そこでは若き少年少女達が談笑したり、食事をしたり、勉強に励んでいたりしていた。
「何でもありと言っても限度があるだろ!!」
思わず叫んでいた。周囲の生徒たちから注目を集めてしまった。
「ど、どうしたの?アル君、いきなり大声なんか出して」
おっと、パルティアに心配されてしまった。俺の幼児演技を崩すとは、なかなかやりおるな学園長。
「ち、ちょっとおどろいちゃって、あはは...」
「まあ確かに初めて見た人は驚いちゃうわよね、こんなの」
アガーテが俺の驚きに同調してくれた。
「そうね、私なんて声すら出なかったもん」
「どう見繕っても3、4階がいいところだものね、魔術ってすごいわよね」
あまりの光景に見蕩れていると、1つ気になったことがある。上がるのってどうすんの?まさか階段?
「ねぇ、うえにのぼるのってぜんぶかいだんなの?」
パルティアとアガーテに質問すると驚きの答えが帰ってきた。
「階段もあるけど、あそこのエレベーターに乗るのよ」
「は?エレベーター??」
待て、エレベーター?なんでそんな物がこの世界に?世界観に文明が逸脱しているぞ。
「これも驚きよね、まさか魔術で部屋ごと移動させるなんて、誰も思いつかないわよ」
どうやら原動力は電気ではなく魔術らしい。
「せっかくだから乗ってみる?」
「そうね、上から案内していけば効率が良いでしょうし」
というわけで俺たちはエレベーターに乗り込んだ。中はやはり手狭で、7、8人くらいが限度なのだろうと思う。階の選択は壁面に備え付けてある石版に書かれている数字に触れるだけで、前世のエレベーターとなんら変わりないシステムであった。
「(これは...俺と同じ転生者がいるってことなのか?)」
ここに来て新たな可能性が生まれた。転生者が俺の他に居る、なかなか有益な情報だ、どこかで接触をはかりたいな。
するとエレベーターの動きが止まり、自動でスライド式のドアが開いた。
「やっぱり早いわね、もう最上階だもの」
最上階である13階は特になんの変哲もない廊下といくつかの部屋のドアがあるだけであった。
「基本的にどの部屋も同じ作りだけど見る?」
「うん、みる!」
俺がそう言うとパルティアは中に誰もいないことを確認してドアを開ける。
「ね?普通でしょ?」
確かに普通であった。扇形の並べられた机は階段状になっていて、前世の大学の教室を彷彿とさせるようだった。だがこのデザインの教室が全部屋同じだと?明らかにサイズが合わな...あ、空間魔術か...
もうこの学園内で起きることは全て空間魔術のせいにすることにした、じゃなきゃ多分これから見ることの全てにツッコミを入れて疲れ果てる。




