6話目『みんな』
おかえり…なさい……
「やめろォォォォォォォォォ」
「やめろ、やめろ、ヤメロ、ャ…ロ………」
アタシの叫びはアタシとみんなだけの部屋に消えていった。
魔王様…魔王様が可愛らしい声だと…
それを主人公も可愛いと言った。ヒロインや王女も同じだと言った。
そんなわけがない。
そんなことがあってたまるか。
「どうして?」
可愛らしい声が聞こえる。
「どうしてって……」
「仲良くしちゃダメなの?」
「ダメだろ!」
即答だった。
「なんで?」
「敵だからだよ!」
「てき?」
きょとんとした声。本気で意味が分からないみたいな声。
「魔王軍だぞ!」
「うん」
「主人公達と戦っただろ!」
「ふぅん」
「ヒロインも王女も苦しめた!」
「そうなんだ」
そうなんだ?
…そうなんだってなんだ。
「だって」
魔王様の声は静かだった。
「ボク、知らないもん」
アタシの思考が止まる。
「知らないって……」
「知らないよ」
当たり前みたいに言う。
「ボク、箱から出してもらってからここにずーっといたし」
「……」
「主人公くんも」
「……」
「ヒロインちゃんも」
「……」
「みーんな」
沈黙。
「フィギュアだもん」
その言葉が…妙に重かった。
「ふざけるな」
アタシは首を振る。
「お前達には物語がある」
あるんだ。
「出会いがあって」
「うん」
「別れがあって」
「うん」
「戦いがあって」
「うん」
「だから今があるんだ」
「そうなんだ」
まただ。また、その返事……まるで、他人事みたいな。
「でもさ」
魔王様が続ける。
「ボク達にあるのは今だけだよ」
ゾクリとした。
「今?」
「うん」
「主人公くんの隣にヒロインちゃんがいる」
「……」
「王女ちゃんもいる」
「……」
「親友くんもいる」
「……」
「ボクもいる」
静かな声。
「それだけで嬉しいよ」
アタシは何も言えなかった。
「だって」
少しだけ笑った気がした。
「みんな一緒だもん」
その瞬間。
主人公の隣にいるヒロインを見る。王女を見る。親友を見る。四天王を見る。
そして、魔王を見る。
みんな同じ方向を向いていた。
アタシを……見ていた。
「……」
「ボク達ね」
声が優しい。優しすぎて怖い。
「毎日待ってるんだよ」
「……」
「ただいまって帰ってくるのを」
「……」
「おかえりって言いたくて」
「……」
「ずっと」
喉が渇く。
「だから」
可愛らしい声が続く。
「ボク達、敵とか味方とか分かんない」
「……」
「でも」
少しだけ嬉しそうに。
「キミのことは好きだよ」
ガタン。
アタシは立ち上がった。
違う!
違う。違う…
そんな話じゃない。
これは物語だ。
恋があって、戦いがあって、別れがあって、積み重ねがあって…
だから尊いんだ。
なのに、みんなは、ただ……アタシを見ている。それだけで満足そうに。
「そんなの……」
声が震える。
「そんなの……」
そんなの認めたら…アタシが何百時間も考え続けた解釈は、何だったんだ。
みんなは返事もせず、こちらを見ていた。
王女は四天王の一人と手をつないで。
親友はその場で座りだし、その肩にはヒロインの手が添えられていた。
魔王は主人公と肩を並べ、二人して優しい微笑みを浮かべている。
みんな、優しい微笑みを浮かべている。
ただ…そこにいるだけだった。
箱から出した時の顔そのままで…
箱から出した時より優しく微笑んで…
箱から出したときと違って幸せそうに…
アタシの帰りを待つように…
まつように…
マツヨウニ……




