5話目『声』
おかえりなさい……
「んっ…寝ちゃってたのか…」
寝落ちする前、とても不安で、不穏で、不満な事があったように思うけど、思い出せない…思い出したくない…アタシはソファーに座ったままスマホを引き寄せた。
「夜中の2時…丑三つ時ってやつ?」
自分の言葉にハッとして、みんなの方を見る。良かった。動いてない。そうだよね。
「動かないよね…」
思わず呟く。
( ぅ..ぁ.ぃょ。)
「えっ…」
なんか聞こえた?
ここにはアタシとみんなしかいない。
気のせいだ。
そう。
気のせい。
…
…
…
何も聞こえない。
みんなの方を見つめたまま、時が止まる。
チョット疲れたみたい。アタシは冷蔵庫までいき、カニカマと発泡酒、マヨネーズも持っていこう。ソファーに戻ると口から自然に言葉がこぼれた。
「ただいま…」
「ぉ…か……」
「!」
また、聞こえた。なんて言ってるか分かんないけど、誰かがなんか言ってる。
アタシはマヨネーズを持ったまま、みんなの方をもう一度見た。
主人公はこっちを見て、いつも通り微笑んでいる。いや、オマエじゃない。
オマエはあんなモニョモニョした喋り方じゃない。鈍感なクセに思ったことはズバズバ言う。デリカシーの欠片もなく地雷を踏み抜いていくのがオマエだ。
「フフッ……フフフ……」
そんな事を考えていたら、なんだかおかしくなってきた。
夜中の二時に、マヨネーズを握りしめながらフィギュアの発声練習について考察している。我ながら意味がわからない。
「いや、まず喋らないから」
自分でツッコミを入れる。誰も返事をしない。
当然だ。みんなはフィギュアなんだから。
いつもは吸い込むように食べるカニカマだが、今日はビニールをツルンと剥き、皿の上に出す。皿の余白にマヨネーズ、あっ、七味持ってくるの忘れた。台所から七味を取ってきて、パッパッパ。
「よっこいしょ」
と座ると
「おかえ…」
確かに聞こえた。誰だ。誰がしゃべっている。
今のは、
「おかえり……」
だろうか。だとするならば、…主人公はない。
ヒロイン……なくはない。いったん保留。
魔王様?
あの方はそんなことは言わない。百歩譲って帰還を労うとしても、
「よくぞ、戻った」
一択だ。
第3章。
王国の状況を探るため辺境伯の砦へ潜入し、返り討ちに遭いながらも帰還した元四天王に向けた言葉が、それだった。いや、厳密には元四天王ではない。あの時点ではまだ四天王だった。そして次の章で死ぬ。だからこそ、あの台詞には重みが――って
「違う違う違う」
アタシは頭を振った。何を考察してるんだ。問題はそこじゃない。声が聞こえたんだ。
…
こちらから話しかけてみるか。
「ただいま」
…
「おかえり」
みんなの口元を見ていたが、どれ一つ動くことはなかった。よく聞いてみれば、耳ではなく頭に直接話しかけてきているようだ。
では、誰が…。元四天王の後に配属された四天王最弱のアイツか。
会話は成り立つのか?アイツがしゃべっているなら、この問い掛けしかなかろう。
「僕と契約して、魔法少女にならないかい」
「…」
返事がないだと。おい。あの伝説のパロディ回を忘れたのか。信者が阿鼻叫喚だっただろうが。
「何のことだか、分かんないよ」
はっきりと聞こえたその声は、メチャンコ可愛らしいエンジェルボイスだった。
「ダレだよ、オマエ…」
この声、
主人公 ✕
ヒロイン ✕
四天王✕✕✕✕
親友枠✕
マスコット✕
魔法使い✕
王女✕
…
…
魔王様✕、ゼッタイに✕、大ペケ
「ボクは、まお…」
「言うな!それ以上言うな。魔王様はもっと威厳や風格のある低音が響くダンディな声で、最低限の言葉しか話さない。だからこそ、ひと言一言の重みがあるんじゃないか」
「酷いな〜。ボクの声、主人公くんもかわいいって言ってくれたよ」
「やめろォォォォォォォォォ」
「ヒロインちゃんも、おおじょちゃんも、いいなぁって…」
「やめろォォ、やめろ、やめてくれェェェ゙ェ゙ェ゙…」




