2話目『関係性』
おかえり
ヒロインの位置を正しい位置へと戻した後、正面から、斜めから、見上げて、見下ろして、再度微調整。元通りにしたつもりでも、他のキャラとの関係性が崩れそうで、ミリ単位の修正を繰り返す。
主人公を2mmほど右へ。
「……なんか違う」
ヒロインの角度か?
1mm奥へ。さらに5度ほど時計回りに回転。
「違う……」
四天王最弱の男が前に出過ぎている。
「お前は前に出たらすぐ死ぬだろ」
3mm後退。
親友キャラも少し下げる。
「いや、お前はもうちょっと主人公の近くでいい」
再配置。
微調整。
再配置。
微調整。
・
・
・
「……よし」
アタシは腕を組み、棚全体を見渡した。
正面から。
斜めから。
少ししゃがんで見上げて。
立ち上がって見下ろして。
そして静かに頷く。
「元通り」
一拍置いて、
「いや」
アタシは満足げに口角を上げた。
「今まで以上に、最&高!」
微調整を始めて30分強、喉がカラカラになっていた。
そこで一息ついて、冷蔵庫から出した発泡酒をグビッと一口。
「キンキンに冷えてやがる…」
初任給のペリカを注ぎ込みたくなるほど、一仕事した後の発泡酒は美味しい。再配置に費やした時間と労力は、今日一日会社で過ごした時間より、濃密で有意義だった。この30分の後だからこその旨さだ。会社での仕事を終えた後では味わえない。
「一人が動くと周りとのバランスが取れなくなるんだから、勝手に動かないで欲しいもんだね。大体、君たちの関係性から行くとだねぇ…」
アタシは発泡酒を煽りながら、フィギュア達に語り始める。
「この配置はあの『転がったリンゴ』の話の3日後を表してるんだから…」
「あの場面で、キミの心が傾く様をだねぇ…」
「その時、オマエ、前の動きが不穏だからこそ…」
ふとスマホを見ると、1時間経っていた。
「マジか…誰だよ、語り始めたの…アタシか…」
酔いが回ってきたかなぁ。
棚の中からは返事はなく、静かな視線のみが返ってきた。
静寂の中、ふと我に返る。
「…チョット、待て……フィギュアが…動く…?」
アタシは深呼吸をした。フィギュアが勝手に動くわけがない。そんな事があるなら、とっくにSNSでバズってるだろうし、動画だって山程投稿されているはずだ。
「本当は動いてない?いや、そんなことはない。ゼッタイ、ズレてた。」
…動かしたなにかがいる?
「ネズミ…?」
ネズミが棚の中に入り込んで動かしたとしたら…、あり得るのか、ヒロインを5mm動かすようなネズミ。
「…」
いや、ありえない話じゃない…ありえない話じゃないけど、
「…なんで、そう動かした」
ヒロインを5mm動かした、ピンポイントの悪意。敢えてなのか?
「寝ている猫型ロボットの耳をかじるぐらいなら許せるが…」
「絶対にありえない!その解釈だけは絶対にありえないからなぁ!!」
ネズミが動かしたんだとしたら、そのネズミとっ捕まえて、説教してやらないかん。
「いいかネズミ。あの時点でのヒロインの心情を表すには、絶対にあの距離感が必要なんだ。」
「解釈違いも甚だしい!公式設定、100回読み直してこいってんだ」
酔っぱらいの夜は更けていく。
翌朝、万屋のソファーで頭を抑えている銀髪の誰かさんのように、ひどい二日酔いに抗いながら、フィギュア達を見上げる。
「よし、動いてないな」
ボディソープで酒の匂いも洗い流してから、武装開始。本日も無の空間に出撃である。
「逝ってきます」
「ただいま…」
無の空間からの帰還。本日も精神的に多大なる被害を被っての帰還だったが、
「…」
アタシは目を擦った。
もう一度見る。
「…」
脳が理解を拒否した。
まるで銀河系を足場に天元を突破したロボットからドリルをぶち込まれたような衝撃だった。
「いい加減にしろ〜!!」
「なんで敵の四天王の一人がヒロインを見つめてるの!」
「しかも、オマエ。アイツなら一京分の一の可能性を認めなくもないが、オマエだけは、ダメだろ〜!!」
「オマエ、第2章半ばで主人公に返り討ちにされた時、ヒロインのこと、メッチャ睨んでたじゃん。あそこから、この展開はゆるせない。」
「ありえない、ありえない、ゼッタイ、ありえな〜〜〜い」




