第二十四話「帰り道」
【一】
目が覚めた時、まだ熱気が残っていた。
どのくらい眠っていたかわからなかった。
起き上がろうとした。
できなかった。
体が、言うことを聞かなかった。腕が重い。足が動かない。傷があるわけではなかった。皮膚の表面は問題なかった。でも、体の奥が痛かった。筋肉の奥の奥から、じわりとした痛みが広がっていた。
(身体強化……使いすぎたか)
火龍との戦いで、限界まで絞り出した。何度も重ねて使った。体が悲鳴を上げていたのに、止めなかった。
外傷ではなく、体の内側がやられていた。
(これはまずい)
モンスターに出くわしたら、今の状態では対処できない。
周囲を見回した。火龍の骸が横たわっていた。広間は静かだった。他の気配はなかった。
火龍の縄張りだったのだろう。他のモンスターが近づいてこない場所。
(ここにいれば、安全か)
そう判断して、また横になった。
今日は動かない。一日、ここで安静にする。
目を閉じた。
翌日、体が少し楽になっていた。
まだ完全ではなかったが、立ち上がれた。剣を持てた。
火龍の骸に近づいた。
傍らに、火龍の巣があった。半透明で薄く光っていた。手に取ると温かかった。
「……もらっていくよ、ガルド」
懐にしまおうとして——気づいた。
荷物がいっぱいだった。魔核を集め続けた結果、体にくくりつけたものが限界になっていた。これ以上は動きに支障が出る。
何か入れておけるものはないかと、周囲を見渡した。
広間をよく見ると、骸が転がっていた。
一つではなかった。三つ、四つ——壁際に、あちこちに。全員、鎧を着ていた。武器を持っていた。でも、鎧は傷んでいて、武器は錆びていた。
火龍に挑んだ冒険者たちだった。
クロウドはしばらく黙って立っていた。
(みんな、同じ目的で来たんだな)
誰かの帰りを待つ者がいたかもしれない。
手を合わせた。
それから、使えるものを確認した。
魔核を入れるのにちょうどいい革の袋があった。火龍の巣を包める布切れもあった。他にも、まだ使えそうな小道具がいくつかあった。
「貰っていくよ」
一言断って、いただいた。
【二】
荷物をまとめて、歩き始めた。
上へ。出口へ。
階層を一つ上がったところで、早速モンスターが現れた。
荷物を置いた。剣を抜いた。
構えた——瞬間、モンスターが突っ込んできた。
線が見えた。体が動いた。かわして、一撃で仕留めた。
(……拍子抜けだな)
思わずそう感じた。
弱かった。明らかに弱かった。
自分が強くなったのか、それとも上層階に来てモンスターのレベルが下がったのか——どちらかはわからなかった。でも、どちらにせよ、これならサクサクと進めた。
荷物を担ぎ直して、また歩いた。
一階層、二階層、三階層——数日で上がっていった。
モンスターを倒すたびに魔核が出てきた。革の袋に入れた。だいぶ溜まってきた。
食料も水も、慣れた手順で確保した。地下での日々で染み込んだ習慣が、自然に体を動かした。
【三】
新たな階層に踏み入れた時、空気が変わった。
気配があった。
大きな、重い気配だった。
クロウドは足を止めた。
壁に背中をつけて、息を潜めた。
感覚が研ぎ澄まされていた。覚醒してから、気配を感じ取る力が上がっていた。通路の向こう——広間がある。その中に、何かいる。
動きが少ない。でも、存在感が圧倒的だった。
(ミノタウルスだ)
わかった。間違いなかった。
あの時と同じ重さだった。あの時三人で逃げた相手と、同じ気配だった。
クロウドは壁に寄りかかったまま、しばらく考えた。
逃げるか——別の道があるかもしれない。でも、確認する時間がかかる。それにあの時ルナが言っていた。あの広間を通らなければ出口には行けない。
戦うか——あの時、クレインがいた。それでも三人で逃げた。あの圧倒的な差は今でも覚えている。過信すべきではない。
でも——このままここにいても、状況は変わらない。
みんなはもう俺が死んだと思っているだろう。救助が来るはずもない。それは悲観しているわけではなかった。当たり前のことだ。あのギルドにいた冒険者でもクレイン以上の者はいなかったし、そもそもあの広間は束になって戦えるような場所でもない。
自分一人でやるしかなかった。今の自分の力を信じるしかなかった。
深呼吸した。
剣を両手で抜いた。右手に自分の剣。左手にガルドの長剣。
二刀流の構えを取った。
荷物は通路に置いた。帰りに取ればいい。
一歩、踏み込んだ。
広間への通路を、ゆっくりと歩いていった。
光苔の光が、足元を照らしていた。
前に、暗闇があった。
でも——怖くなかった。
地下に落ちた日から、ずっと暗闇の中にいた。もう慣れていた。
クロウドは広間へ、足を踏み入れた。




