表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/31

第十六話「三人で、ダンジョンへ」


【一】


翌朝、猫草亭の朝飯はソラが作ってくれた。


獣人族の料理だった。香草がたっぷり入っていて、アッシュタウンでは嗅いだことのない匂いがした。でも、美味かった。


クレインは無言で食べていた。


ルナは二階から降りてきて、クロウドを見るなり顔を背けた。それでも席に着いて、飯を食べた。


ソラがにっこりしながら全員に茶を出した。


食事が終わった頃、クロウドは言った。


「今日、ギルドに行ってみようと思います」


「ダンジョンのこと?」ソラが言った。


「調査依頼が出ているなら、受けてみようかと」


ソラは少し心配そうな顔をした。でも、何も言わなかった。


その時、ルナが箸を置いた。


「……私も行く」


全員が、ルナを見た。


ルナは顔を背けたまま言った。


「あの時は油断しただけよ。次はちゃんと装備していくから」



クレインが口を開いた。


「お嬢ちゃん、大丈夫か。危険な場所に行くんだぞ」


ルナの耳がぴんと立った。


「お嬢ちゃんって言わないで。私はこの街でランクBの冒険者よ」


クレインは少し間を置いた。


「……ランクBか」


「そう。ランクBよ。文句ある?」


「ない」


「それに——」ルナはクロウドを見た。「この街と森、あんた達詳しくないでしょ。私は生まれた時からここにいるの。地形も、モンスターの出没場所も、全部知ってる」


「ギルドでもあんた達だけじゃ苦労すると思うわよ」と意味深に言った。


クロウドはにこりとした。


「それは助かります。一緒に来てもらえますか」


「……別に、あんた達の心配をしてるわけじゃないから」


「わかりました」


ルナはぷいっとそっぽを向いた。白銀の耳が、ぴこっと動いた。


ソラが静かに笑っていた。


【二】


街のギルドは、アッシュタウンのものより整っていた。


建物が大きかった。受付のカウンターが広くて、職員が複数いた。依頼書の掲示板も、アッシュタウンの倍以上の広さがあった。


なにより、空気が違った。アッシュタウンのギルドは酒と汗の匂いがした。でもここは、それがなかった。冒険者たちが依頼書を真剣に見ていた。装備が整っている者が多かった。


クロウドとクレインは受付に向かった。


「依頼を受けたいのですが」


受付の職員は二人を見た。人間族だとわかった。冒険者証を確認した。新規登録だとわかった。


「こちらの依頼はいかがでしょうか」


出てきたのは、簡単な雑用クエストばかりだった。荷物の運搬、草むしり、使い走り——冒険者の仕事とは言えない内容だった。


クロウドは依頼書を眺めた。


(やはり、そうか)


その時、後ろから声がかかった。


「この人たち、私の連れなの」


振り返ると、ルナが腕を組んで立っていた。いつの間にか後ろに来ていた。


受付の職員の顔が変わった。ルナを見て、姿勢を正した。


「ル、ルナさん。この方々がご一緒なのですか」


「そう。ダンジョンの調査依頼、受けたいみたい」


「……かしこまりました。少々お待ちください」


あっさりと、ダンジョン調査の依頼書が出てきた。


「ランクBの冒険者ルナさんの保証つきならお任せします」と受付は添えて伝えてきた。


ルナはクロウドに向かって、自慢げに胸を張った。


「ほらね」


クロウドは苦笑した。


「……助かりました」


「当然でしょ」


【三】


依頼書を受け取った。


**山のダンジョン調査——内部の状況確認と、結界破損箇所の特定。戦闘は必要最低限に留めること。報酬:金貨二枚**


クロウドは依頼書を読んだ。


「金貨二枚……だいぶ破格じゃないですか。なぜですか」


ルナは少し間を置いた。


「正直に言うと、この依頼受けてるのあんた達が初めてじゃないから。五組くらいは受けてるわ。死んではいないけど、負傷者多数。現状把握に至らない報告ばかりってこと」


「だから値段が上がっているわけですか」


「そう。どんどん値段が上がって、高ランクの冒険者に調査してほしいってことよ」ルナはクロウドをまっすぐ見た。「だからあんた達じゃ無理ってこと、わかった?」


クロウドはしばらく依頼書を見ていた。


それから、にこりとした。


「わかりました。気をつけます」


「気をつけますって——」ルナは眉間に皺を寄せた。「……もういい。ついていってあげるから」


クレインが小さく息を吐いた。


ギルドを出た。


三人で並んで歩いた。


ルナが前を歩いた。クロウドとクレインがその後ろを歩いた。


「装備を整えてから出発する」ルナが言った。「猫草亭に武器を置いてあるから、取ってから行くわよ」


「どんな武器ですか」


「アイアンクローよ。両手に装着する鉤爪」ルナは振り返らずに言った。「俊敏性を活かした戦い方をするの。それと——爪には毒を塗る」


「毒、ですか」


「薬草から作る毒よ。薬師の孫だからね」ルナは少し誇らしげに言った。「一度引っかかれれば、動きが鈍る」


「昨日は武器を持っていなかったんですか」


「当たり前でしょ」ルナは少し語気を強めた。「あの時はお参りのついでに薬草を摘みに行っただけよ。戦うつもりなんてなかった。大ムカデに気づいたのが遅れて攻撃を喰らっただけ。あれは不意打ちよ」


「なるほど」


「次は装備していくから同じ失敗はしない」


ルナはまた前を向いた。


しばらく歩いてから、ぼそりと言った。


クレインがクロウドの隣を歩きながら、小声で言った。


「……なかなかの腕前らしいな」


「そうみたいですね」


「猫族は俊敏性が高い。毒の扱いも知っている。悪くない組み合わせだ」


クロウドはにこりとした。


「三人で、なんとかなりそうですね」


クレインは何も言わなかった。でも、否定もしなかった。


【四】


猫草亭に戻ると、ソラが待っていた。


三人の顔を見て、状況を察した。


「受けてきたんだね」


「はい」


ソラはしばらく三人を見た。それから、奥に入った。しばらくして、小瓶をいくつか持って戻ってきた。


「解毒薬と回復薬。持っていきな」


「いいんですか」


「ダンジョンの中は何が出るかわからないからね。備えておくに越したことはないよ」


クロウドは受け取った。


「ありがとうございます」


ソラはクロウドの顔の布を見た。痣のことは、何も言わなかった。ただ、にっこりとした。


「気をつけてね。ルナのこともよろしく頼むよ」


「任せてください」


ルナが「私は自分で大丈夫よ」と言った。


ソラが「わかってるよ」と笑った。


ルナが武器を手に取った。両手にアイアンクローを装着した。装備を整えた姿は、先ほどまでとは別人のようだった。


「行くわよ」


三人で猫草亭を出た。


クロウドは歩きながら、前を歩くルナを見た。アイアンクローを装着して、白銀の尻尾がゆれている。その隣を歩くクレイン。無口で、でも確かにそこにいる。


(仲間がいる)


なんだかワクワクしてきた。


灰の街から、少しずつ、遠くへ来ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ