92 王家の晩餐会
「王家の晩餐会に行くって?」
「ああ、そうだ」
オリバー様が伯爵邸へ訪れてから数日後。
私は久しぶりに窓から部屋へやって来たルークとお茶をしながら近況を話していた。
「お兄さんに招待されたのね」
「面倒なことにな……」
(王家の晩餐会ってことは……レイラも一緒よね?)
そしてそこには彼らの子供たちである王子殿下や王女殿下もいるだろう。
何だか賑やかで楽しい会になりそうだ。
(いいなぁ、私もまだレイラの子供たちには会ったことないのに)
心の中ではルークに対する羨望を抱いていたが、そんなことを思ったところでどうしようもない。
王家の晩餐会ともなると、選ばれし者だけが招待されるのだから。
「――それで、お前にも一緒に来てほしいんだが」
「……うん、そうだね……って、え!?」
ルークの言葉に、私は思わず紅茶を吹き出しそうになった。
「え、私?私も行くの?」
「ああ、一人までなら誰か連れて来て良いって言われてな」
聞き間違いかと思って確認するも、彼の顔は真剣そのものだった。
(私が王家の晩餐会に!?)
本来なら光栄なことなのだろうが、私は素直に喜べなかった。
嬉しさよりも不安の方が勝ってしまったからだ。
陛下の前で粗相をしてしまわないか、そんな感情が芽生えた。
(ど、どうしよう……レイラはともかく、国王陛下とかほぼ関わったこと無いし!)
穏やかな性格をしているとは聞いているが、この国の最高権力者なのだ。
怖くないはずが無い。
そんな私の気持ちに気付いたのか、ルークが机の上に置かれていた手をギュッと握った。
「エミリア、不安なのか?大丈夫だ、兄貴はお前が思ってるほど怖い人じゃない」
「ルーク……」
そう言いながら彼は私の手の甲を優しく撫でた。
「……」
彼の温もりが伝わって来て、少しだけ安心出来たような気がした。
(ルークがそう言うなら……行ってみようかな……)
良い経験になるだろうし、せっかくだから行ってみよう。
そう思った私は、彼の手を握り返して参加の意を示した。
「分かったわ、私も一緒に行く」
ルークはクスリと笑った。
「当日は俺が伯爵邸まで迎えに行く。それと……ドレスの用意はしなくていいから」
「……!」
らしくないことを口にした彼の顔はほんのり赤く染まっていた。
(何だか可愛いわね)
こうしているとまるで恋人同士にでもなった気分だ。
「ええ、分かったわ」
そして私は、今日も平気なフリしてルークを笑顔で送り出した。
しかし、照れていたのは彼だけではなかった。
(……ドキドキする、こんな気持ち久しぶりだわ)
考えていることは私も同じだった。
***
同時刻、レビンストン公爵家の執務室にて。
「王家で晩餐会が開かれるだと?」
「はい、王宮ではそのための準備が進められており、たしかな情報のようです」
「それとあの男と、何の関係があると言うんだ……」
私はこの日、執務室で側近の調査結果を聞いていた。
憎きあの男をこの世から消すことだけを目標にした私は、ルーク……いや、ルドウィクに関しての徹底的な調査を命じたのだ。
(上がってくるのはどれもくだらない報告ばかりだ……)
不機嫌そうな顔になった私に、側近が焦ったように言葉を付け加えた。
「こ、公爵様!それが……どうやら例の男も、この晩餐会に招待されているようなのです!」
「……何だって?それは事実なのか?」
「はい、兄君である国王陛下との仲は良好で……陛下から直々に招待されたようです」
「……」
それを聞いた私は、側近ですらビクリとなるほどの醜悪な笑みを浮かべた。
(これは……あの男を消すチャンスかもしれないな……)
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