91 憎しみ オリバー視点
――ガシャーン!!!
「キャア!」
部屋にいた侍女が悲鳴を上げる。
公爵邸に帰宅した私は、怒りのあまり紅茶の入ったティーカップを床に投げつけていた。
カップは大きな音を立てて粉々に割れた。
「……」
血走った目をしている私に危機感を感じたのか、侍女は礼だけすると逃げるようにして部屋を出て行った。
しかし、今の私にとってはそんなこと気にもならなかった。
怒りと憎悪で頭がおかしくなりそうだったからだ。
(アイツ……絶対に痛い目に遭わせてやる……あの男……!)
意外にも、私の憎しみの先にいたのはエミリアではなくルークとかいう男の方だった。
元第二王子であり、今となっては身分を捨てたただの旅人。
『彼を貴方と一緒にしないでください!!!貴方よりかは百倍マシです!!!』
エミリアのあの発言を聞いたとき、私の中で何かが切れた。
(耐えられない……私よりあんな男を選ぶなんて屈辱だ)
自分より格上の男だったらここまでの怒りは無かったかもしれない。
しかし、よりにもよってあんな男を選ばれたのだ。
それにエミリアはアイツのことを全て知っているようだった。
先王の妾腹の子だと言ってもそれほど驚く様子を見せなかった。
現国王であり、正統なる後継者だった兄とは違って、アイツはやむを得ず生かされた王子だった。
母親は惨めな死を遂げ、王と王妃に疎まれながら生きてきた。
汚らわしい子供だと、出自が疑わしいと格下の貴族たちにも罵られていた。
そんな男に自分が負けたのだという事実が耐えられなかった。
「――公爵様、失礼します」
「どうした」
そのとき、執務室に騎士が入ってきた。
ローザと男の捜索をしていた者だ。
捜索の進展を報告しに来たのだろう。
「二人は見つかったのか?」
「それが……国中を捜しましたがそれらしき人物は見当たらず……おそらく既に国を出ているかと……」
「……」
逃げるなら私の手が及ばない国外へ行くはずだ。
国内で見つからなかったということは既に国を出ているのだろう。
「……そうか」
騎士をシッシッと追い出した私は、頭を抱えた。
何故、こうも上手くいかないのだろうか。
ただでさえ心に余裕が無い状況だというのに、また一つ問題が増えた。
(こんなはずでは無かった……私が想定していた未来は、こんなものでは……)
心の奥に渦巻いていた憎しみは、次第に殺意へと変わっていった。
(そうだ……あの男がいるからこんなにも上手くいかないんだ……)
私からエミリアを奪ったのもあの男だ。
そう、全てアイツのせいだ。
思えば、最初から変だった。
あれほど私を愛していたわりにはあっさりと離婚を切り出したエミリア。
もしかすると、既にそのときにはルークと不貞関係にあったのではないか。
(汚らわしい……妾腹の子の分際で私の妻を寝取るだなんて)
アイツさえいなければ、きっとこんな風にはならなかった。
このときの私は、もう正常な判断など出来なくなっていた。
私の頭の中にあるのはただ一つ。
――どうやってあの男をこの世から消すか、それのみだった。
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