79 公爵家のパーティー④
「え……?」
「――美しいレディー、私と一曲踊っていただけませんか?」
私の手を横から取った人物はクスリと笑みを浮かべて手の甲にチュッと口づけを落とした。
(ル、ルーク……!?)
ルークだった。
髪と瞳の色は違うものの、間違いなく彼だ。
(どうして、ルークがここにいるの……!?)
突然登場した美男子に会場がざわめいた。
「あの方は一体どなたかしら……?初めて見る顔ですけれど……」
「とても美しいですわ……!」
「ダンスを申し込んでいるようだし、ログワーツ嬢の知り合いなんじゃないのか?」
ルークもオリバー様に負けないくらいの顔立ちだ。
普段の旅人姿の彼ではなく、貴族男性がパーティーで着てくるような正装姿だ。
(こうしてみると、本当にどこかのお貴族様みたいね……)
一体そんなものどこで用意したんだか。
高級ブティックで頭を悩ませながら自分の服を選んでいる彼の姿を想像すると、何だか笑いがこみ上げてくる。
「……どちら様ですか?」
見つめ合う私たちの間に、不機嫌そうな低い声が割り込んだ。
(あ……)
オリバー様だ。
彼は面白くないとでも言いたげな顔で私とルークをじっと見つめていた。
当然の反応だろう、公衆の面前で横取りされたも同然だったから。
「これはこれは。初めまして、公爵様」
「……見ない顔ですね。私は貴方を招待した覚えが無いのですが」
「この国に貴族は数多くいますから。覚えていらっしゃらないこともあるでしょう」
「……」
オリバー様が眉をひそめた。
(ま、まずいわね……)
これでも一応十年間はオリバー様の妻だった女だ。
彼は今相当頭に来ている。
間違いない。
「元より私も、王国の名門貴族であるレビンストン公爵様に顔を覚えていただこうなどとは思っておりません」
「……そうですか、しかし今の行動はいくら何でも無礼なのでは?」
そこでオリバー様は私を一瞥した。
しかしルークが怯むことは無かった。
「私と公爵様どちらと踊るか。決めるのはログワーツ嬢です」
「……」
二人の視線が私に集中した。
私の選択はもちろん決まっている。
「では、せっかくですし一曲踊りましょうか」
私はルークの手をギュッと握り返した。
「光栄です、ログワーツ嬢」
オリバー様は悔しそうに顔を歪めたが、私は気にせず彼の手を取った。
***
「ちょっとルーク、どうしてこんなところにいるの?びっくりしたじゃない!」
「お前がレビンストン公爵家のパーティーに行くって知って居ても経ってもいられなかったんだよ」
私は踊りながら小声でルークを問い詰めた。
「そのためにわざわざ変装してまでここに来たの?」
「ああ、そうだ」
結果的には助かったけれど、もし正体がバレればただでは済まなかっただろう。
(でもわざわざ髪と目の色を変える意味あるのかな?)
変えるための魔道具だって安くは無かっただろうに。
「案の定、お前に絡んできたな。あの男」
「え?ええ、そうね……何を考えているのか全く分からないわ」
「ああ、何か企んでいるのか……」
ルークと踊った瞬間からずっとオリバー様の視線が痛い。
「お前、このパーティーにまだ居続けるつもりか?」
「ううん、挨拶だけしたら帰ろうと思ってたんだけど予想外のことが起きちゃってね……無事に帰れるかどうか」
「俺が上手く外に出してやるから心配すんなって」
「え?」
驚いて彼の顔を見た。
「――お前が他の誰の手にも触れられないように、俺が会場から出してやる」
「……」
言葉の意味を誤解してしまって、公の場だというのに顔がカァーッと赤くなった。
「ん?お前何か顔が……」
「な、何でもないよ!ありがとう、ルーク!恩に着るよ!」
「……?」
私は真っ赤に染まった顔を隠すように頭を下げた。
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