78 公爵家のパーティー③
(どうしてこんなことをするの……?)
会場の隅にポツンと立っていた私は、遠くに見えるオリバー様の姿をじっと見つめた。
彼は今、親しくしている貴族たち数人と楽しそうに談笑していた。
本当に何を考えているのか分からない人だ。
あの人は外面だけは良いから。
(挨拶だけしてさっさと帰ろうと思ったのに……とんだ誤算だわ……)
知り合いが誰もいないこのパーティー会場に長く居続けるのはどうも苦痛だった。
何をして時間を潰そうか。
(どうせダンスに誘ってくる人もいないんだし……)
昔は壁の花だなんて恥ずかしいと思っていたが、今ではすっかり平気だ。
むしろ私のことは放っておいてほしい。
(そうよ……昔みたいに一人で適当に過ごせばいいだけだわ……)
だから怯える必要なんてどこにもない。
そう思うものの、何故だか嫌な予感がしてならなかった。
(早く伯爵邸に帰ってエドモンドに会いたいなぁ……レイラの子供たちとも一度会ってみたいし……)
悩みに悩んだ私は、楽しいことを考えて暇を潰すことにした。
しかし、呑気にそんなことをしていたせいで気付けなかったのだ。
――遠くにいるオリバー様が、意味深な目でこちらをじっと凝視していることに。
***
それから少しして、楽団が演奏を始めた。
貴族たちがそれぞれのパートナーの手を取ってホールの中央へと向かって行く。
当然のように、私は隅でその光景を見るだけだった。
ダンスをするほど親しくしてる貴族男性は少なくともこの場にはいなかったから。
よく知らない人と踊るのはどうも抵抗があった。
パートナーのいない貴族令嬢たちの話の話題はもちろんただ一つ。
「公爵様は誰と踊られるのかしら?」
「私に決まってるじゃない!今日のパーティーでは私が一番輝いてるんだから!」
「す、すごい自信ね……」
パーティーの主催者・レビンストン公爵が誰をダンスに誘うのか。
貴族令嬢たちは目をキラキラさせて王子様の誘いを待っていた。
(私としては別に誰でもいいけど……)
私の心は冷え切っていたが。
誰とも踊る気の無かった私は、違和感の無い程度に視線を下に向けた。
目を合わせなければ誰かがダンスを申し込んでくることも無いだろう。
そう、思っていたのに――
「――キャー!!!公爵様がこちらにいらっしゃるわ!!!」
「……!?」
たまたま近くにいた貴族令嬢の歓声で、私はハッとなって前を見た。
すると、オリバー様がこちらに近付いて来ていた。
(ちょっと待って……まさか……)
そんなことありえないと必死で自分に言い聞かせたが、どう見てもオリバー様の視線は私に固定されている。
そして彼は私の目の前で立ち止まった。
「――ログワーツ嬢、私と一曲踊ってくださいませんか」
「……」
紳士的に差し出された手を見た私は絶句した。
(ど、どうして……)
「やっぱりログワーツ嬢か……」
「さっきもエミリア嬢だけ明らかに態度が違ったしな……」
「公爵様の本命はログワーツ嬢だったのか!」
それを見た貴族たちの間では既に変な憶測が立てられていた。
(どうすれば……)
本音を言うのならば、今すぐにでも差し出されたこの手を振り払って逃げてしまいたかった。
しかし、ダンスに誘われた以上断るのは無礼にあたる。
相手が自分より上の立場の人間ならばなおさらだった。
私は仕方なくオリバー様の手を取ろうとした。
「……はい……喜んで……」
私の返事に、彼が口元に浮かべた笑みを深めた。
そのときだった――
「え……?」
横から誰かの手が伸びてきて、私の手をギュッと握った。
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!




