61 親の罪
「ルーク……どうしてそれを……」
「……」
彼の口から発せられた言葉に、私は衝撃を受けた。
無理もない。
オリバー様に愛人がいることを知っているのはごく一部の人間だけだからだ。
(何故彼が……)
私ももちろん言った覚えは無い。
もしかすると寝言で口にしてしまったのかもしれないと不安になったそのとき、ルークがボソッと呟いた。
「数日前に……たまたまレビンストン公爵家の屋敷で見たんだ」
「……!そっか……」
たしかに、ルークなら誰にも見つかることなく屋敷に侵入することも可能だろう。
「そうね……そうだわ、あなたの言う通りよ」
「……ッ」
軽く頷くと、ルークは酷く傷付いたような顔で私を見た。
(どうして……あなたがそんな顔をするの?)
それじゃまるで、私が不幸な目に遭ったことを悲しんでいるみたいだ。
お互いに言葉に詰まってしまって、沈黙が流れた。
「お前は……憎くないのか」
「憎い?」
「元夫を……愛人を……その子供を、恨んだりしていないのか」
「……」
――憎しみ。
たしかに、少し前までは心のどこかにあったかもしれない。
どうして私を愛してくれないのかと、オリバー様をたくさん恨んだ。
だけど、今は違う。
「うーん……別にどうだっていいかな……」
「何故……」
平然とそう答えた私を、ルークは驚いたような顔で見た。
「お前は……あの男に酷い目に遭わされたのに……」
「ええ、そうね」
「お前が全てを公表すれば元夫とその愛人たちに社会的な制裁を受けさせることだって出来ただろう……」
「……」
ルークの言う通りだ。
オリバー様との離婚に関しては、私に非は無い。
全てを明らかにすれば、それこそ彼の社会的信頼は失墜し、人々はあの一家を非難するだろう。
そうなればおそらく彼らは全てを失うこととなる。
(復讐……か……)
「私は、あまりそういうの望まないから……」
「平民や貴族たちがどんな噂をしているか知らないのか?……公爵との離婚はお前に問題があるだなんて言われてるんだぞ」
「うーん、そうだね……知らないわけではなかったけど……」
「なら何で!」
彼は本当に意味が分からないといったような顔で問い質した。
何故、だなんて自分でも深く考えたことが無かった。
そりゃあもちろんオリバー様のことは嫌いだけれど。
「あの子の笑顔を……見ちゃったからかな……」
「……!」
私はクスリと笑いながら言った。
意図したわけではなかった。
あのときたまたま見たリオ君の笑顔が脳裏によぎったのだ。
「オリバー様と愛人はともかく、あの子には何の罪も無いのに……それでこの先生き辛くなるだなんて、いくら何でも可哀相じゃない?」
「……」
「私が耐えればあの子の未来は守られる。あの笑顔を守れるんだって思ったら、これくらいの中傷どうだってことないよ」
「……」
それを聞いたルークの瞳が大きく揺れた。
「親が犯した罪は子の罪にはならないんだから、これから先の人生を頑張って生きてほしいなって思ってる」
「……子の罪には……ならない……か……」
言い終わった後にふとルークの方に目をやると、彼は何かを小さく呟きながら俯いていた。
「さぁ、私もそろそろ起きないとね!もうお昼だし!」
私は伸びをしてベッドから起き上がった。
素敵な夢を見たからか、何だか気持ちの良い朝だった。
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