60 不思議な夢
(ん……)
暖かい日差しが降り注いでいる。
伯爵邸の庭園に差し込む太陽の光に思わず目を細めた。
(気持ち良い……)
一生こうしていたいくらいだ。
そんな風にしばらくの間太陽の光を浴びていた私だったが、突然後ろから声がした。
「――エミリア!」
「……?」
それは幼い頃からよく聞き慣れた声だった。
「……………レイラ!」
後ろを振り返ると、情熱的な赤い髪が目に映った。
レイラだ。
彼女は私と目を合わせるなりニッコリと笑った。
その笑顔につられて私の口元にも笑みが浮かんでいく。
「――エミリアさん」
「……リーシェお義姉様?」
いつの間にか、レイラの隣にはお義姉様がいた。
(あれ……?いつの間に来たんだろう……?)
それだけじゃない、何故かその隣にはケインお兄様もいた。
「エミリア」
「叔母さん!」
二人の間には愛らしく笑うエドモンドまで。
「「エミリア」」
「お父様と……お母様……?」
お父様とお母様も気付けばすぐ傍にいて。
伯爵邸の庭園はとても賑やかになった。
(家族全員集合……ってところかしら?)
いつか全員で集まりたいとは思っていたが、こんなにも早く叶うことになるとは。
嬉しくなった私は、彼らの元へと駆け寄った。
「みんな!」
私は皆に向かって手を伸ばした。
その手を最初に掴んだのはレイラだった。
彼女は優しく包み込むようにして私の手をそっと握った。
「さぁ、エミリア。早く会場へ行きましょう。彼が待っているわ」
「……彼?」
レイラの言っていることの意味がよく分からなかった私は聞き返した。
しかし、彼女は有無を言わさずに私の手を引いてどこかへと連れて行った。
(どこへ行くんだろう……?)
後ろにはお兄様たちもいる。
庭園でお茶でもするのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。
そして何故かみんなとても嬉しそうである。
(何かサプライズプレゼントでも用意してるってことかな?)
私はドキドキしながらレイラについて歩いた。
少しして、彼女が足を止めた。
「ほら、いたわ!」
「……?」
レイラの指差す方に視線を向けると、そこに立っていたのは一人の男性だった。
(……誰?)
後ろを向いているため、顔は見えなかった。
「エミリア」
そこでレイラは私を後押しするかのように肩にポンと手を置いた。
「レイラ……?」
意味はよく分からなかったが、その瞬間何故だか足が勝手に彼の元へと動き始めた。
(あれ、どうして……)
自分の意思とは関係無く、私は一歩一歩彼に近付いて行く。
何だかドキドキする。
ある程度近付くと私が来たことに気付いたのか、彼が振り返ろうとした。
(一体、誰なの……?)
しかし、彼が振り返った瞬間突然私たちの間に太陽の光が強く差し込んだ。
(う、眩しい……!)
強い光に目を閉じてしまったせいで彼の顔は見えなくなった。
それからはしばらく目を開けることも出来なかった。
「エミリア」
そんな私の元に、自身を呼ぶ声が聞こえた。
レイラだろうか。
それともお兄様?
いや、どちらの声でもない。
この声は、たしか――
「エミリア」
「……ッ」
私は目覚めた。
目を開けると、ルークが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「起こしてしまってすまない。その……さっきメイドが部屋に来たから……」
「あ……」
どうやらもう昼になったようだ。
かなり眠ってしまっていたらしい。
「ルーク……起こしてくれてありがとう……」
「いや……俺の方こそ……迷惑かけて悪かった」
私はベッドから上半身を起こした。
(……)
彼は昨夜私が座っていた椅子に腰かけてこちらを見ていた。
「ねぇ、ルーク……体はもう大丈夫なの?」
「ああ、平気だ……看病してくれてありがとな」
「元気になったなら良かった」
彼の顔は血色を取り戻し、クマも薄くなっていた。
本当に元気になったようで何よりだ。
「ルーク……一つ聞いてもいい……?」
「何だ……?」
「昨日、何があったか言える……?」
「……」
ルークは黙り込んだ。
(やっぱり、言いづらいみたいね……)
謝罪しようと口を開こうとしたそのとき、彼の口から信じられない言葉が飛び出した。
「……愛人と子供がいるんだって」
「え……?」
「お前の元夫に、愛人とその間に生まれた子供がいたんだって」
ルークは神妙な面持ちで、そしてどこか悲しげに、ポツリとそう口にした。
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