36 王宮の舞踏会
エドモンドと共に伯爵邸に帰った私は、邸に着いて早々お兄様に呼び出された。
「お兄様、ただいま」
「ああ、おかえり」
お兄様の執務室に入ると、何やら難しい顔で手元の紙をじっと見つめていた。
(何だろう……?)
何やら嫌な予感がしてならない。
お兄様がそんな顔をするときは大体面倒事だという意味だったから。
「お兄様、どうかしたの?」
「ああ、実はな……お前に王宮で開かれる舞踏会の招待状が届いてるんだ」
「…………え?」
――王宮の舞踏会
それを聞いて心臓がドクリとした。
(ええ……ちょっと待ってよ……私離婚したばっかりなのに……)
私がオリバー様と離婚した理由は彼の愛人と婚外子が原因だが、それは勿論明らかにされていない。
そのため、世間はきっと私が石女だからだと思っているだろう。
私に十年もの間子供が出来なかったことは事実だから。
(かといって真実を明らかにするつもりは無いけれど……)
舞踏会になど行ったら何を言われるか分からない。
ここは欠席するというのが無難だ。
しかし――
(……本当にそれでいいの?)
逃げてしまっていいのだろうか。
私はもう以前のように誰かに従っているだけの気の弱い女ではない。
だからこそ、欠席するというのはどうも気が引けた。
暗い顔になった私を見て、お兄様が優しい言葉をかけた。
「エミリア、無理して行かなくてもいいぞ。レイラ……王妃陛下がお前の事情は察してくれるだろうからな」
「ありがとうお兄様。でも大丈夫よ。私、舞踏会に行くわ」
「お、おい……本当か?」
お兄様は驚いたような顔をしていた。
当然だろう、私は元々こんな行動的な性格ではなかったのだから。
(お兄様にも、お義姉様にも、しっかりと自分が変わったんだってことを伝えないとね)
それにこれはチャンスでもあるのだ。
お飾りの妻として下がり続けていた私の株を上げる絶好の機会である。
「平気よ、だから心配しないで」
「そ、そうか……無理はするなよ」
お兄様は納得していない様子だったが、私は舞踏会へ参加することを決めた。
(まぁ元々王家主催の舞踏会を欠席するなんて不敬だしね)
用件を聞き終えた私はお兄様の執務室から出た。
自身の株を上げるとは言ったものの、これといった方法は思いついていない。
舞踏会までは後一週間ほどである。
(あ、そうだ……ドレスも選ばないと……)
舞踏会に参加するには色々と準備が必要である。
みずぼらしいドレスで行けばむしろ私の評判は急降下するだろう。
「ドレス……ドレスか……」
ドレスと聞いて真っ先に思い浮かぶのはまだ公爵夫人だった頃、王都にお忍びで出掛けたときに買ったあのドレスである。
(そういえばあれ今どうなってるんだろう……)
あの日から一週間はゆうに過ぎているので既に伯爵邸には届いているはずだ。
もし届いているのならお義姉様にでもプレゼントしよう。
そう思った私は、伯爵家の侍女にドレスの行方を尋ねた。
すると、意外な事実が判明した。
どうやら私が買ったドレスはお義姉様が管理しているとのこと。
それを知った私はすぐにお義姉様の元へと向かった。
「お義姉様!」
「あら、エミリアさん。どうかなさったのですか?」
私はエドモンドの部屋から出て来たお義姉様に声を掛けた。
「あ、あの私が買ったドレスのことなんですが……」
「ああ、あのドレスですか?すぐにお返ししますね」
「い、いえ!あれはお義姉様にプレゼントします!」
「え、私にですか?」
予想外のことを言われたのか、お義姉様が目をパチクリさせた。
「はい、お義姉様にきっと似合うかと思って……」
「ですがエミリアさん、王宮の舞踏会に行くためのドレスが必要なのでは?」
「いえいえ、良いんです。私にはとても似合わないようなものなので」
「……」
私がそう言うと、お義姉様は何かを考え込むかのような素振りを見せた。
(何だろう……?)
「エミリアさん、ちょっと私と来てください!」
「え、どちらへ行かれるのですか!?」
お義姉様が突然私の手を掴んだ。
そして私はお義姉様に手を引かれ、伯爵邸のある場所へと連れて行かれたのだった。




