27 父と母
そしてついにその日がやって来た。
私は馬車でエドモンドと共に領地まで向かっていた。
「お祖父様とお祖母様に会えるだなんて、楽しみです!」
「うふふ、私も楽しみだわ」
どうやらエドモンドはお父様とお母様が大好きなようだ。
(あの二人のことだから、きっと溺愛してるんだろうなぁ……)
元々両親は穏やかな性格をしている。
そのため私もお兄様も十分な愛を受け取って育った。
孫であるエドモンドを甘やかしている姿が容易に想像出来た。
(それにしても伯爵家の領地へ行くのなんて何年ぶりかしら……)
少なくとも私が結婚してからは一度も行っていなかった。
オリバー様は不必要な外出を認めるような方では無かったから。
(楽しみだわ……)
お父様とお母様だけでなく、領民たちにも久々に会いたかったし。
「叔母さん、もうすぐです!」
「ええ、そうね」
領地が近付くにつれてエドモンドの表情が明るくなっていく。
エドモンドは窓の外に身を乗り出して馬車が向かっているその先をじっと眺めている。
(本当に活発な子ね……)
いくら何でも活動的すぎないかとお兄様に尋ねたところ、本当に誰に似たんだか、昔のお前にそっくりだなと返されてしまった。
たしかにお兄様はどちらかというと物静かな性格だったし、お義姉様も幼少期から大人しい方だったと聞く。
(……もしかして、エドモンドのこの性格は叔母である私に似ているのかしら?)
私も昔はよくスカートで木登りをしては使用人たちを困らせていた。
(……エドモンド、私には似ないでね)
どうかお兄様とお義姉様のような良い子に育ちますように。
そう心の中で願っていると、窓から外の景色を眺めていたエドモンドがこちらを振り返った。
「叔母さん、そろそろ着きますよ!」
「まぁ、それは楽しみね!」
どうやらもう近くまで来ているようだ。
私は馬車の中で身支度を軽く整えた。
(待って、すっごい緊張する!)
それからしばらくして、馬車は伯爵家の領地――両親の元へと到着したのだった。
***
「お祖父様!お祖母様!」
エドモンドはお父様とお母様を見るなり、一目散に駆け寄って行った。
「「エドモンド!」」
二人は飛びついたエドモンドをギュッと抱き締めた。
ちなみに私とエドモンドが領地を訪れることは既に手紙で知らせてある。
本当に突然のことだっただろうに、ご丁寧に出迎えまでしてくれたのだ。
「お祖父様!お祖母様!元気でしたか?」
「ああ、元気だよ」
「もう、本当にエドモンドは何て可愛いのかしら!」
両親は私の予想通り……いや、想像以上に孫にデレデレだった。
(まぁ、エドモンドは誰から見ても愛らしい子供だし礼儀正しくて良い子だから当然か)
そういうところはお兄様とお義姉様に似ていて安心した。
「叔母さんもこっちに来てください!」
「あ……」
エドモンドのその声でお父様とお母様は後ろに控えていた私を視界に入れた。
「エミリア……」
「……」
あれほど会いたいと願っていたが、いざ両親を見ると言葉に詰まってしまった。
何から話せば良いのか分からない。
二人と会うのは本当に久しぶりだった。
私の記憶よりもかなり年を取っている。
(……少しやつれて見えるのは気のせいかしら?)
お兄様から私とオリバー様が離婚したことは聞いているはずだ。
彼らは一体私に何て言うのだろうか。
辛いを思いをさせて悪かった?
無事に離婚出来て良かったね?
いいや、私が望んでいるのはそんな言葉ではない。
私が欲しいのは……
そのとき、お母様が一歩一歩ゆっくりと私に近付いた。
「お母様……」
「エミリア……」
そして、私を優しく抱き締めた。
「――おかえり、エミリア」
「……!」
お母様は私の耳元でそう囁いた。
そして後から入って来たお父様も私とお母様の肩に腕を回した。
私は思わず泣きそうになりながらも、そんな二人に言葉を返した。
「――ただいま、お父様、お母様」




