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見知らぬ世界で、ほんの少しの幸せを  作者: すえゴハン
第二十六章 ジャクイユの休日

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第二十六章① 種蒔きとお家探訪


俺――ジャクイユがこの世界に転移して、約3ヶ月が経った。


冬の寒さも遠のき、4月も終わりに近付いていた。

今日は皆で種蒔きをする。


スケさんが開拓した畑は、

通路は通っているが、一辺が軽く100mを超えている。


エレジアの畑も耕されており、境界とかもない。

まるで共同畑のようだ。


スケさんが予め石灰やら灰やら牛糞を一生懸命撒いてくれてた。

エレジアが仕入れてくれたらしい。


「肥料の代金は?」と聞いたら、

「要らないわ、私の畑を耕してくれたお礼よ」と言ってくれた。


(手持ちの肥料は取っておくか)


――――


エレジアがスケさんと顔見知りなのは、

”白銀様”から俺の監視をするように頼まれたらしい。

その時に、一緒にスパルトイを置いていったと。


(こんな美人さんに監視を頼むとか、あのドラゴンも中々やるじゃねーか)


……と思ったが、どうせ家が隣だからだろう。

エレジアも災難だな。俺にとっては嬉しい限りだが。

で、結局スケさんもドラゴン絡みだし。


でも、やっぱり骸骨置いていくんなら教えてほしかったよ。


(あれは本当に驚いたからなぁ……)


勿論、エレジアにはスケさんの名前をツッコまれた。


「スパルトイなのに、スケさんなのね……」


と。


「い…いや勿論分かってたけど、 ”スパさん”じゃ、しっくりこないからさぁ」


「そうね…、そういうことにしておきましょ」


信じてもらえなかったか。



――――



今日はスケさんには服を着てもらってる。

休日でミリナが家を訪ねてくるからだ。


俺みたいに驚いて腰が抜けたら大事になるかもしれないし。


スケさんが服を着ると、見えない筋肉のおかげで細身の人間みたいに見える。


「これならテンパーの街にも連れて行けそうだ」


「そうかもね…。おすすめはしないけど」


頭には仕事で使ってたヘルメット、それにサングラスを着けてもらった。

耳も鼻も、それなりにあるみたいだ。見えないけど。


麦わら帽子とヘルメットを見せたら、スケさんは迷いなくヘルメットを選んだ。

マスク代わりのバンダナも合わさって、どこかの過激派みたいだが、

嬉しそうにしてる。


「新し物好きなのかな…」


「だと思う…」


麦わら帽子は、エレジアに被ってもらった。

後部に付けたオニヤンマ君が、この世界で効くのかは分からない。


でも物凄く似合ってて、可愛い。


「エレジア、ほんっとに可愛い」


「うふふ、ありがとう」


(やっぱり、言われ慣れてるっぽいな)


「そう言えばさ、この世界の害虫対策や農薬とかはどうなの?」


「どうなのって?」


「いや、どんな虫が来るのかとか、農薬の効果とかが気になって」


「蛾とか蝶とか来るわ。あとは甲虫と、その幼虫かしら」

「小さなものから大きなものまで色々よ」


「ああ、あまり変わらないんだね…って、大きなものって?」


「たまに1mを超える虫も飛んでくるわよ」


「げっ! ……それどうやって駆除するの?…農薬?」


「農薬は大きな虫には効かないわ」

「だから手で捕殺になるけど、より大きくて素早い虫は武器で対処してるわ」


「そうか…。テデトールでも無理な虫がいるのか……」


「テデトールって、なあに?」


「それは……最強の農薬の名前だよ。…あまり深くはツッコまないで」


「…分かったわ」


「で、通じるかは分からないけど、ウリハムシとかコナジラミって居る?」


「居るわよ」


「そうか…居るのか。…やはり奴らからは逃れられない宿命なのか……」


「なあに? 宿命とか、大げさね」


「奴らには散々悩まされてきたから」


「大丈夫よ。あのスパ…スケさんが何とかしてくれるわ」


「だといいんだけど」


聞こえていたのか、スケさんが親指を上げた。


そんな話をしながら、種を蒔き続ける。


――――


畑の作り始めには、種取り用のクズ野菜を植えた。

3月には、

芽が出てしまったスーパーのじゃがいもと、

俺が好きなインカのめざめも植えてある。


今回は春植えの種を全力で植えていく。

ついでに、旬を迎えたイチゴとスナップエンドウも収穫だ。


しかし、スケさんはやはりプロである。


種袋の絵と軽い説明だけで分類し、

それぞれを4区画に分けて種を蒔いてくれてる。


畑を耕した時も、ちゃんと南北に畝(うね)を走らせたし。


(俺なんか、最初は東西に走らせたからなぁ)

(でも畝が高いな。土質見てそうしたのかな…)


「スケさんやっぱり凄いわ。

ちゃんと連作障害が出ないようにしてくれてる」


「彼の本職らしいわよ」


「その言い方だと、スパルトイって、元になった魂があるんだね」


「…そうらしいわね。……良くは知らないけど」


「誰だったのかが気になる……」


「そんな気にしなくていいわ」

「レ…白銀様厳選の魂らしいから…」


「あのドラゴン厳選ってのが引っ掛かる……」


「……」


「さて、この世界で確実に旋風を起こす種を蒔こう!」


「何を起こすってんだい?」


ミリナが来た。


「おはよう。ああ、絶対に売れる野菜の種をね…」


「おはようミリナ」


「おはよう、お二人さん」


そして、すえぞうも客人を迎える。


「おはよう、犬っころ。すえぞうだったかい?」


ミリナがすえぞうの頭を撫でる。


「ミリナ気を付けて! その犬は……」


「なんだい?」


すえぞうがミリナの匂いを嗅ぎ始めた。

しかし、すえぞうは途中で噎(む)せた。


「いえ……何でもないわ」


「噎せるぅ~……」


「?」


「多分薬草の匂いで噎せたんじゃないかな」


「なんだい?どうかしたのかい?」


「いえ…。何もなくてよかったわ…」


首を傾げていたミリナが、スケさんを見る。


「で、あの男は何者だい?」

「ずいぶんと張り切ってるみたいだけど」


「あ…うん」


「ジャクイユの使用人よ。主に農業のね」


「私に安月給で雇われながら、使用人を雇う金はあるんだね」


(安月給って自分で言っちゃうのな。さすがミリナ)


「色々あるのよ…。彼は無給で働いてくれてるわ」


「ならそいつも店で働けばいいじゃないか。私も大助かりじゃないかい?」


「あ…うん」


(何も言い返せねー。ある意味正論だし…)


「本当に、色々とあるのよ……」

「ジャクイユ、ちょっと……」


エレジアに呼ばれて、スケさんをミリナに”紹介”するか相談する。


「どうせ隠し通せないし、ミリナも巻き込んだ方が……」


「だよねぇ、早めにバラしておいた方が傷も浅いし……」


しばらくの相談の後。


「ミリナ、ちょっとここに座ってもらえるかしら?」


「なんだい?また改まってさ」

「これはまた面白い椅子とテーブルだね。この日除けも……」


パラソルを立てたキャンプ用テーブルに驚くミリナ。

折りたたみ椅子に座ってもらい、スケさんを呼ぶ。


「では改めまして、ご紹介します。使用人のスケさんです」

「スケさん、ゆっくりとサングラスとヘルメットを脱いでくれるかな?」



そして――

当然のように、ミリナの声にならない悲鳴が響き渡った。



「アンタたち!なんてもんを飼ってるんだい!」

「腰が抜けるかと思ったよ!」


「そんな、”飼ってる”だなんて人聞きの悪い」

「スケさんはもう家族ですよ」


すえぞうと目が合う。


「勿論、すえぞう君もね」


「ね? 色々とあるのよ……」


その後、エレジアがミリナに、ある程度の説明をした。



「そいつには、また被せ物をしておいておくれ」

「とてもじゃないけど、すぐには慣れないからね」


「ああ、そうだね。俺は慣れるまで一月ぐらい掛かったかな」

「スケさん悪いね、また被ってもらえるかな」


スケさんが笑いながらヘルメットを被る。


「じゃあ続きをやろう」


そして、虎の子であるトマトの種をスケさんに渡す。

日本のトマトと、5年前に買ったサンマルツァーノの種。


「フハハハ! この世界にトマトとじゃがいもが無いのは、リサーチ済みだ」

「これで俺は、億万長者になる!」


「俺は? 私たちは……?」


「ごめん、俺たち……」


サンマルツァーノは固定種だから、種を取って増やせる。

日本のトマトも、しばらくは問題ないだろう。


「その”トマト”と”じゃがいも”ってのは美味いのかい?」


ミリナが商売っ気を出しながら聞いてくる。

エレジアも頷いていた。


「トマトは美味いよ。生で食える品種と、調理に向いた品種がある」

「どっちも売れると思う」


一拍置いて。


「じゃがいもも美味いよ。煮ても焼いても揚げても食える」

「ただ、今植えてある分は種芋にするから、しばらくは売れないけどね」


「なんだい、すぐには売れないのかい?」


「まあ、最初は増やすところからだね」


その後、俺たちはスケさんに指示を仰ぎながら、

トマトを初めとした春野菜の種を植えていった。


ある程度の種蒔きを終えて、ミリナがお茶を淹れてくれることになった。


――――


「ジャクイユ、かまどはどこだい?」


「ああ、かまどはないけど、こっちだよ」


3人で家の中に入る。

エレジアとミリナが目を丸くして、周りを見渡す。


「エレジアが、アンタの家は宝の山だと言ってたけど、こりゃ酷いね」


「家がそうだとは言ってないわよ」


「通路以外、足の踏み場もないじゃないか」

「ジャン爺の店より酷いんじゃないかい?」


「ははは、俺に…整理整頓をさせちゃダメだからね……」

「ほら、ここでお湯を沸かせられるから」


エレジアにやかんを渡すと、魔法で水を注いでくれた。

そのままコンロに掛けて火をつける。


「凄いね、簡単に火がついて。良いかまど持ってるじゃないか」


「いや、そろそろ燃料が尽きそうだから、ただのガラクタに変わるよ」


「なんだい?”ガラクタ”って」


「……」


「あー、役立たずのゴミって意味かな」


「そうかい、ガラクタねぇ」

「それはそうと、いいやかん持ってるじゃないか、これは売らないのかい?」


「今使ってる物は、ちょっとねぇ…」


「この丸い筒はなんだい? 沢山あるみたいだけど」


「あー、それは空き缶…金属の入れ物だね」

「素材として売れるかなぁ……」


「それにガラス瓶も…。これは中身入りみたいだね」

「それとあの軽い瓶も…。本当に沢山持ってるんだねぇ」


「ははは……」


(捨てるヒマがなくて溜まっただけですなんて……口が裂けても言えん)


エレジアに出してもらった水で米を洗いながら、話を続ける。


「それでねミリナ、俺も、かまどと井戸が欲しいんだけど」

「職人さんに頼んでもらえないかな?」


「それは構わないけど、煙突もないのにどうするつもりだい?」


「うん、そこなんだよね。まぁ外に作るしかないかなと」


「だったら家ごと作ったらどうだい?」


「そんな金が無いからねぇ。給料も安いし」


「おや、あたしに面と向かってよく言えたもんだ」


「ははは……」


「しかし、ジャクイユも流暢に喋れるようになったね」

「二人で言葉を教えた甲斐があったよ」


「そうね、本当に嬉しいわ」


「うん、本当に感謝してるよ。まだ分からない言葉だらけだけど」


ここに至るまで、二人が仕事終わりの俺に言葉を教えてくれた。

家でもスケさんに文字を教わっていた。


でも、俺がこの世界の言葉を理解できるようになった本当の理由は、別にある。



――――



しばらくは真面目に語学に取り組んでいたが、一向に頭に入らなかった。


年齢もあるし、そう簡単には身に付かない。

しばらくは無理だろうと思っていた。


――ところが、ある朝。


薬屋へ出勤すると、ミリナがいつものように声を掛けてきた。


「おや来たね、ジャクイユ」


「……おはよう」


普通に返事をしてから、俺は首を傾げた。


「あれ?」


今、俺は何の迷いもなく返事をした。

昨日まで、ミリナの言葉をこんなに自然に理解できなかったはずだ。


そして、ようやく気付いた。


ミリナの声が、日本語に聞こえている。


それだけじゃない。

知らない言葉でさえ、エレジアやミリナに聞けば理解できる。

一度理解した言葉は、そのまま頭に入ってくる。


まるで、最初から日本語だったかのように。


文字も同じだった。


理解できる文字は、俺の頭の中で日本語や英語として認識される。


逆に、まだ理解できない文字は、

ロシア語っぽかったり、アラビア語っぽかったり……。

見たことがありそうな文字に、勝手に置き換えられているように感じる。


これは、どういうことだ?


俺は少し考えてから、仮説を立ててみた。


――世界が改変された。


あるいは、


――俺の意識が改変された。


どちらかだ。


試しに、エレジアから受け取った預り証を、二人に見せた。

そこには、俺が書いた片仮名がある。


俺が気になったのは、その文字を二人がどう認識するのかだった。


「これ、何て書いてある?」


「ジャクイユって書いてあるわ」


「私にもそう読めるよ」


「……」


(う~む、分からん)


俺が見れば片仮名。

でも二人は普通に読めてる。


じゃあ、片仮名そのものが改変されたのか?


それとも、二人の意識が改変されたのか?


どちらにしても――


何かが改変されていることは確かだ。


そこで、ふと一升瓶のことを思い出した。


「エレジア、この瓶のラベルは読める?」


「……分からないわ」


「ミリナは?」


「私にも読めないねぇ」


俺には、そこに書かれた日本語が普通に読める。


(……う~む、余計に分からなくなった)


同じ日本語なのに、俺が書いた文字は二人にも読める。

でも、元の世界から持ってきた文字は読めない。


ややこしくなってきたが、

それでも一つだけ、はっきりしていることがある。


――改変を行った存在がいる。


そこまで考えて、俺は一つの可能性に行き着いた。



――神か?



ドラゴンが存在する世界だ。


何があっても、何が起こっても不思議ではない。


それに、あのドラゴンが言っていた。


『貴様が望めば、それが力になる』


あれは、こういうことなのかもしれない。


(望めば……魔法も使えるようになるんかな)

(いつも望んでいるんですけどね)


(まぁ、神がコミュニケーターをくれたと思うことにするか)

(胸にバッジはないけど)



そんなことを考えていると、


「……クイユ」


「ジャクイユ……!」


エレジアが俺を呼んでいた。


「ああ、ごめん。ボーッとしてた」


「ボケが始まってんのかい?」


「いやいや、少し考え事をね」


「それで?」


「エレジア可愛いなと」


「まーた始まったよ」

「エレジアは私の娘だ。アンタにゃ、やらないよ!」


「二人とも、やめてね」


エレジアが困ったように笑う。


「お湯も沸いたし、さ、お茶にしよう」


俺たちは三人で外へ出た。


――――


お茶を飲みながら、会話を続けた。

今日はミリナが持ってきたドライフルーツのお茶だ。


「しかし、良いテーブルと椅子だねぇ」

「この日除けも最高じゃないか」


「そうだねぇ、外で使うには丁度良いかもね」


「アンタの家の物を全部売れば、家ぐらい建つんじゃないかと思うけど」


「だと良いんだけど、そこまで価値が分からないから」

「他に欲しい物もあるし」


「他に欲しい物って、なあに?」


「うん、馬車かな」


「馬車なら中古であるよ」


「本当?」


「ああ、売りたがってる人がいるよ」


「じゃあ、今度見に行こうかな」


「そうするといい」


「あら、あなたの素敵な馬車があるじゃない」


「あれも、燃料が尽きたらガラクタに変わるから」


「なんだい? 素敵な馬車って。あの横に置いてある”あれ”かい?」

「”あれ”のガラスも凄いじゃないか」


ミリナがガレージ横の部品取り車を指差して言った。


「うん、とりあえず見せるよ」


ガレージのシャッターを開けると、

また二人の目が輝いた。



「……これ、本当に馬車なのかい?」


「馬は要らないけどね」


「これは何でできてるんだい?」


「鉄とか鋼とか色々かな」


「このガラス、どうやって作ったんだい?」


「溶かして、伸ばして、曲げてかな」


「これは売らないのかい?」


「売れても、そのうちにガラクタに変わるから」

「部品というか、素材としては売れるかもだけど」


「改めて見ると、やっぱり凄いわねぇ」

「乗せてはくれないの?」


エレジアが、少しだけ上目遣いで俺を見る。


「え?」


「そうだよ。見せるだけかい?」


「いや、乗るのはいいけど……」


「けど?」


「燃料がね。……使うべき時まで取っておきたいし」


「少しくらい大丈夫なんじゃないかい?」


「ミリナまで……」


「だって気になるじゃないか」


エレジアも隣で頷いている。


(まぁ、そりゃそうだよな)


「……分かったよ。じゃあ少しだけね」



二人を乗せて近所を走らせた。

山の麓まで行き、いくつかの丘を超えてまた引き返す。


「速いねぇ!」

「それに、馬車より揺れないじゃないか!」


「そうね、乗り心地が良いわ」

「楽しい……」


「楽しんでくれて何よりだよ」


二人の楽しそうな顔を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。



――――



家に戻り、車を入れようとした時に、

ミリナが言った。


「ジャクイユ、待っておくれ、馬車小屋の中も見せてくれないか」


「ああ、いいけど」


ここから二人の品定めが始まった。


「これは何だい?」


「それはボール盤と言って……」


「じゃあこっちのは何だい?」


「そっちは油圧プレスと言って……」


そんな質問が、しばらくの間続いた。


(さすがに疲れてきた……)



二人が農具や一般的な道具に目を向けた。


「おや、私らが知ってる物も結構あるね」

「どれも良い品ばかりじゃないか」


「ほんとね。…私が欲しいぐらいよ」


「これも売るべきだろう?」

「生活の足しにもなるし」


「いや、今使ってるのはちょっと……」


「またかい。じゃあ使ってない物を全部出しな」

「売れるかどうか、吟味してやろうじゃないか。ねぇエレジア」


「そうね。整理整頓が苦手なら、尚更よね」


「そう言われましても、ガレージも家の中も、車の部品ばかりで……」

「それ以外は、もう何があるかなんて覚えてないし」


「そこの箱は何だい?」


「う~ん、何だろう……。多分水槽かな……」


「水槽って何だい?」


「お魚さんを見ながら飼うやつ。……ガラスで出来てる」


二人の視線が、一瞬で箱に集中した。


「見せてごらんよ。いや、すぐに出しな!」


俺は二人に急かされて、箱から水槽を取り出した。



60cm水槽を目にした二人は、しばらく言葉を失っていた。


二人の視線が、水槽の隅々まで走っている。


(いや透明ガラスだけどさ……そこまで驚く?)



「これは……売れるね」





第二十六章① 終わり


【※一口メモ】


作中で触れた野菜の種の「固定種」について。


固定種は自家採種した種からでも親と似た性質になりやすい品種。


一方、F1品種と呼ばれる物は交配によって作られているため、

採種して育てても親と同じ性質になるとは限らない。


メンデルの法則がうんたらかんたらってやつです。

F1品種の採種を繰り返すと、段々と親の性質がバラバラに出てきます。

最悪、先祖返りすることも……。


※実際の栽培では品種や環境によって異なります。


だから、ジャクイユは自信を持って固定種を植え、

いい加減な希望的観測でF1種を植えています。

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