番外編 ② 増えていく私の苦労と、頼れる守護者様 (エレジア視点)
彼が来て、二日目の朝。
私――エレジアは朝食の準備をしながら、
エレナに卸す薬草を取り込んでいた。
そこへ彼の犬が、家を訪ねてきた。
「おはよう、ワンちゃん」
昨日と同じように頭を撫でる。
今日は落ち着いているようだ。
犬は私の傍らで、ずっと作業を見守っていた。
「あなた、名前は何ていうの?」
犬が首を傾げる。
「言葉が分からないよね」
「あ、そうだ、あなた…ご飯食べる?」
犬は言葉を理解しているのか、立ち上がって尻尾を振り始めた。
「いいわ、お家に入りましょ」
私たちは家に入り、朝食を分けて食べる。
「美味しそうに食べるのね」
犬が食べる様子を見て、ふふっと笑みが溢れる。
無意識で、どこかに面影を感じているのかも知れない。
("あの人”の犬……)
昨日のことを思い返す。
私の心はまた、嬉しさと寂しさが入り混じっていた。
その後も犬に見守られながら、私は作業を続けた。
――――
昼になり、昼食の準備に取り掛かる。
「ワンちゃん、あなたもお昼ご飯食べる?」
犬は私の真横に歩み寄ると、座って顔を見上げてきた。
《エレジア》
”レッド”から念話が入った。
《待っていたわ、そっちはどうだったの?》
《一段落は、ついた》
《そう。それは良かったわ》
《”もう一人”は、どんな人?》
《若い娘だ》
《…そう。…どんな子?》
《芯がある、優しい娘だ》
《だが、まだ”精神”が幼い》
《…そう。じゃあそっちが本命の英雄候補なのね》
《恐らくな》
《”力”は?》
《かなりのものを持っておる》
《…が、扱うには、まだ時間が掛かりそうだ》
《まずは、一安心なのね》
《うむ》
《そちらはどうなった?》
また胸が締め付けられる。
私は、しゃがんで彼の犬を抱きしめる。
《……間違いなく、…”あの人”だったわ……》
《白髪も混じっていて……老けてもいたわ》
《そうか…》
《……それに、記憶がないみたいなの》
しばらくの間。
《私のことも覚えていない……》
《そう…か…》
《成長したエレジアに、気付かなかっただけではないのか》
《……違うと思う》
”レッド”の、安堵混じりのため息が聞こえた。
《だが、好都合やもしれん》
《我も、もう……》
珍しく”レッド”が間を置いた。
《”あ奴”の苦しむ顔や、自暴自棄を見たくはないからな》
長い沈黙。
《私もよ……。もう”あの人”に、戦ってほしくない》
《……ただ、平穏に暮らしてほしい》
再び、長い沈黙が続いた。
やがて、”レッド”が口を開いた。
《今、カラム上空から、そちらに向けて飛んでいる》
《じゃあ、あと十数分?…それとも数分なの?》
《いや。ゆっくりと、そちらに向かっている》
《あなたも気を使えるようになったのね》
《…そうかもしれん》
《”あの人”に、良く言われてたわね。「用もないのに音速出すな!」》
《「真面目に暮らしてる人々を驚かすんじゃねーよ!」ってね》
念話越しに、”レッド”の笑い声がふふっと聞こえた。
《どの”口”でそう言えるのかと思ったものだ》
《「お前は世界の守護者で象徴だろ!」ってのも、良く言ってたわね》
《ほんと、事ある毎に、喧嘩してた》
またしばらくの沈黙が続いた。
《あなたも懐かしむことがあるのね》
”レッド”は言葉を返さなかった。
――――
《今、”あの人”の犬と一緒に居るわ》
《そう言えば昨日、”あ奴”の傍らにおったな》
《少し…”遠慮がない”のが気になるけど、いい子よ》
《しかし…”あ奴”が犬を飼うとはな》
《歳を重ねて丸くなったのやもしれん》
ふと、疑問が浮かぶ。
《どこで歳を重ねたの?》
《大体、”あの人”は、死んだんじゃなかったの?》
《分からぬ》
《我もそう思っていた》
《元の世界に戻ったってことは?》
《そうかもしれん》
《だが、以前に神から聞いた話とは違う》
《異世界人にとっての”この世界”は、審判の地なのだと》
《この地で天寿を全うすれば、相応しい新たな世界へ行くと》
《我の解釈が違うやもしれぬが》
《この地に戻ってくることはない》
《……分からない……》
《一体、何が起こっているのかしら》
《我にも分からぬ》
――――
《上空に着いた》
《”あ奴”が建物の外におる》
《このまま降下して接触する》
《犬はそこで保護しておけ。場合によっては戦闘になるやもしれぬ》
《ちょっと!》
《心配するな》
《そうならぬよう、努力はする》
《私もそっちに行くわ》
《やめておけ。”あ奴”に記憶がないなら、関係は伏せておいたほうが良い》
《……分かったわ》
《”レッド”、……彼に優しくしてあげて》
《念話を切るぞ》
私は不安を紛らわせるように、犬に優しく声を掛けた。
「ほらワンちゃん、ご飯食べようか」
「お外は危ないから出ちゃダメよ。
…怖い怖いドラゴンに食べられちゃうからね」
犬がまた首を傾げる。
《聞こえているぞ》
「ちょっと!念話切るって言ったじゃない!」
「んもぉ!」
「ワンちゃんごめんね、あなたに怒ったんじゃないのよ」
私は犬を優しく撫でる。
犬が一瞬、食べるのを止めてこちらを見た。
「食事中に触っても怒らないなんて、あなたは優しい子ね」
その後すぐ、”レッド”の着陸音が聞こえた。
――――
私は家の中で、じっと耐えていた。
ほんの少し先で二人は向き合っている。
何がどうなるか分からない。
(もし……戦うことになったら……)
考えたくもない想像が、頭をよぎる。
待つことしか出来ないのが本当にもどかしい。
今すぐ”そこ”へ行って、”あの人”を抱きしめたい。
――昔、”あの人”が私にしてくれたように。
私は無意識に、彼の犬を抱きしめていた。
私が力を入れ過ぎたのか、
犬は、とても嫌そうな顔をして耐えていた。
「…ごめんね。…でも我慢してくれてありがとね」
私は自分を慰めるように犬の背中を撫でた。
そこへ、”レッド”の投げやりな咆哮が聞こえる。
「今の……ため息?」
しばらくして、また大きなため息が聞こえた。
「あの二人は、何をしているのかしら…」
次に軽い咆哮とともに突風が吹く。
「今度は…くしゃみ?」
「……何が起こっているの?」
そして離陸音が聞こえ、轟音が徐々に遠ざかっていく。
私は、ただ困惑することしか出来なかった。
――――――――――――――――
飛び去っていった”レッド”からの念話が来ない。
私はもどかしい気分のまま、仕方なく昼食を取り始めた。
犬はずっと私を見ている。
《エレジア》
そこへ、ようやく念話が届いた。
《何してたのよ》
《それに…、あなたの念話って、いつも”間”が悪いのよね》
《すまんな》
《”あ奴”に、少し調子を崩されてな》
《何があったの?》
《順を追って話そう》
また念話越しに、大きなため息が聞こえた。
《まず、今の”あ奴”に戦える力はない》
《”最悪”を考える必要は、ほぼ無いということだ》
《ちょっと待って…。”戦える力がない”って、この世界で…》
《次に、性格が温和になっておる》
《あの頃のように、悪人相手に理不尽を押し付けることも無かろう》
《だから、今の”あの人”が盗賊に出会った時は、どうするのよ》
《とはいえ、性格の悪さは、相変わらずだ》
《人の話を聞きなさいよ!》
《以上だ》
《以上だ…じゃないわよ!》
《あなたの、あのため息は何?》
《2回もよ?》
”レッド”は、しばらく答えなかった。
《…すまぬ》
また息を吐く音が聞こえる。
《”あ奴”の無礼な態度に腹が立ってな》
《本当は、違うんじゃないの?》
《戦う力を失った弱々しい彼を見て、腹が立ったんでしょ!》
《そのようなことは…、いや…少しはあったかもしれんが…》
《ちゃんと援助したんでしょうね?》
《……うむ》
《…?…何をあげたの?》
《宝石を》
《いくつあげたの?》
《一つだ》
《ちょっと! それって探知用の宝石じゃないの?》
”レッド”は答えない。
《…呆れた!》
《あなたこそ、時を経て性格が悪くなったんじゃないの?》
”レッド”は、まだ何も言わない。
《お金も、力もない”あの人”が、どうやって生きていくのよ!》
《言葉だって通じないのよ!》
《エレジア、そう怒らんでくれ》
姿が見えなくても”レッド”の焦っている顔が思い浮かぶ。
《支援の仕込みは、した》
《今夜辺りに、発現するだろう》
《あの”くしゃみ”のことね》
《それに…》
《”あ奴”は、元々地頭が良い、上手く生き延びるであろう》
《”あの人”は、 ”今” お金がないじゃないの!》
《まったくもう……とんでもないダメドラゴンね》
私は昔を思い出して、思わず口元が緩む。
《いえ、久々に言わせてもらうわ!》
《ポンコツドラゴン!》
《む……そう言わんでくれ》
《我は、エレジアが怒るのも泣くのも見たくないのだ》
《私は怒ってなんかないわよ!》
――その時。
犬が突然立ち上がった。
ドアの前へと行き、こちらを見る。
窓を少しだけ開けて様子を見てみる。
《彼があの”馬車”で商店街へ向かったみたい》
《ほう》
《ほう…じゃないわよ!》
《お金がないんだから、金策に走るしか無いでしょう!》
《ふむ》
《大方、予想はつくけど。多分ミリナの店に行くと思う》
《そうか》
《急いで追いかけなきゃ》
《…大変! ミリナに卸す薬草を詰めてなかったわ》
《では、我はまた夜に来るとしよう》
《ええ、そうして頂戴》
《久方振りにエレジアの顔も見たいしな》
《分かったわ》
《また後でな》
その後、私は急いで薬草を袋に詰め、ミリナの店へ向かった。
――――
犬と一緒にミリナの店へと歩く。
私の前を同じように歩き、時折振り返ってこちらを見る。
「あなたは本当に優しいのね。彼のお陰なのかしら」
途中、
道端に止めてある、彼の”馬車”が目に入った。
「このピンク色の”馬車”…、なんか…可愛い」
まじまじと見渡してみる。
”透明過ぎる”ガラスに、思わず見入ってしまう。
「いけない、こんなことしてる場合じゃないわ」
私と犬は、再び歩き出した。
――――
薬屋のドアを開けると、彼が居た。
(良かった、間に合った)
私は、ほっと息をついた。
犬は彼に何かを言われると、店の外で座った。
(あの子は、本当にお利口さんなのね)
私は彼と挨拶を交わす。
でも、困惑しているミリナの方が気になった。
「ミリナ、迷惑を掛けてるわね」
「言葉が通じないから身振り手振りで聞こうとしたんだけど、
私ではダメみたいだね。
あの男が何を言いたいのかサッパリ分からないよ」
「彼が何を伝えたいのかは、予想はつくけど……」
「なんだい? エレジアを手伝うとは言ったけど」
「手に負えない面倒事は、ごめんだよ」
「そう…よね」
「でも…、今回だけは助けて欲しい」
「まずは、あの男が何を言いたいのか聞いてみておくれ」
「話はそれからだよ」
「ええ…そうね」
私は彼を手招きし、身振りで問いかける。
――さっきのを、
――もう一度やってくれない?
彼は必死な形相で、私の動きを見ていた。
そして、彼の身振り手振りが始まった。
(やっぱり…。…そうなのね)
予測は出来てたけど。
でも――
そんなものがなくても。
彼のことは、身体の表情だけで何となく分かる。
「…いいわ、もう大丈夫よ。そこで少し待っててね」
――――
「どうだった? あの男は、なんて言ってるんだい?」
ミリナが心配そうに聞いてきた。
私は唾を飲み込む。
「うん、……彼は…この店で働きたいって言ってる」
「何だって?」
「お金がないから、働かせてくれって」
「ええっ?」
「そりゃ人手は欲しいけどさ、英雄の同類なんだろ? 大丈夫なのかい?」
「大丈夫だと思う」
「彼に戦う力は無いから、…もし何かあっても私が止めるわ」
「お願い、ミリナ! 責任は私が持つわ!」
ミリナは目を瞑ってしばらく考える。
そして――
「分かったよ、雇うよ」
「他ならないエレジアの頼みだ」
「ありがとう!ミリナ!」
ミリナは、にこりと笑った。
「それとさ」
一拍置いて。
「エレジアが責任を追うことはないさ」
「役に立たなかったり、何かあったら即、私がクビにするからね」
「ミリナ、本当にありがとう!大好きよ!」
「彼は必ず役に立ってくれる。この店にとっても助けになるわ」
「ほら、早くアイツに教えてやんなよ」
「ええ、そうね、一緒に伝えましょ」
私とミリナで、彼に明日から来てと伝えた。
彼は涙をぽろぽろ流して喜んでいた。
そして私たちに握手を求めてきた。
少しだけ皺が増えた彼の手。
でも、あの頃のように暖かかった。
――――――――――――
彼が帰った後、ミリナがまた私に尋ねてきた。
「…で、あの男は、あんたにとって何なんだい?
……昔の男か何かなのかい?」
「ううん、…違うわ」
「ちょっとした知り合いよ」
ミリナが目を細める。
(…言えない)
(いくらミリナでも、本当のことは言えない)
「…そうかい」
「彼に昔の記憶はないから……」
「過去がどうであれ、何も変わらないわ」
私はまた昔を思い出していた。
――でも。
「彼には、今を生きてくれれば、それでいいと思ってる」
「分かったよ」
ミリナは、それ以上聞いてこなかった。
「じゃ、そろそろ帰るね」
「シチューのおすそ分け、しようか」
「ありがとう、何も用意してなかったから助かる」
木鉢に入れて渡してくれる。
「ミリナのご飯、美味しいから」
「彼にも食べさせてあげて」
「仕方ないねぇ」
「じゃ、彼のこと、明日からお願いね」
――――――――――――――――
家までの道のりは、昨日より確かだった。
連日の騒動で、疲れが溜まってきている。
でもまだ、夜の来客に備えないといけない。
家に着いて、シチューを温め直す。
かまどや暖炉に火を入れたり、綺麗な水を出すのは、魔法で何とかなる。
(今の彼は”そういうの”は大丈夫なんだろうか)
シチューとパンを食べながら、ふと彼の生活が気になった。
食事を終え、一息つく。
(ふう、さすがに眠くなってきた)
――――――――
しばらくすると、家が僅かな風と地響きで揺れた。
大きな友人が来たのが分かった。
家の外に出てみると、
友人は畑の真ん中に降り立っていた。
「ちょっと!畑を踏まないでよ!」
《すまん》
《ここが良いかと》
《仕方ないわね、まぁいいわ》
《どうせ冬で、植えてる作物少ないし》
お互いに顔を見合わせ、自然と笑みが浮かんだ。
《元気そうで何よりだが》
《少し疲れが見えるようだな》
《誰のせいなのかしらね》
《我だけのせいではなかろう》
《それもそうね》
久しぶりに”レッド”の困った顔を見て、嬉しくなった。
《でも…、あなた…本当に気を使えるようになったのね》
《無音で飛んでくるとは思わなかったわ》
《ああ…。速度を出せぬからもどかしいが》
《すぐそこに”あ奴”がおるからな》
《で、どうするのよ》
《”あの人”、ミリナの店で働くことになったのよ》
《殊勝なことだ》
《何が「殊勝なことだ」よ!》
《ミリナからお給金貰うまでは無一文なのよ》
《うむ》
《それについては反省している》
《これをエレジアに渡しておく》
《お主から密かに渡してやってくれ》
”レッド”が数粒の宝石を渡してきた。
《んもう…》
《あなたが直接渡さないから面倒なことになったじゃない》
《すまん》
《私に渡されても、
これを”あの人”に「はい、あげる」ってわけにはいかないでしょ!》
《そうだな》
《それに、大金貨を直接渡しても、怪しまれるだけじゃない!》
《うむ》
《テンパーの街まで行って換金するのも大変なのよ》
《すまぬ》
”レッド”が、困ったようにため息をついた。
《ため息をつきたいのは私よ!》
《まったく……》
《”こんなの”が世界の守護者だなんて…》
《そう我を虐めんでくれ》
《先ほども言ったが、”あ奴”は賢い》
一拍置いて。
《金儲けも得意だったではないか》
《どこぞの商店の娘と金儲けしておったであろう?》
《あれは、先立つものがあったからよ》
《”あ奴”が貯めた金は残っておらぬのか?》
《そんなの残ってるわけ無いでしょ!?》
《いつの話してんのよ!》
《そ、そうか》
《”あの人”が消えてしまった後に、
貧しい人達を救ってねって、全部渡したの覚えてないの?》
《うむ》
《……呆れた》
《そもそも”あの人”はお金を貯めてなかったじゃないの》
《そうだったか》
《動機は…かなり”わがまま”だったけど、ほとんど投資に回してたわ》
《ほう》
困った顔をする”レッド”が段々と不憫に思えてきた。
《……仕方ないわね。…それも何とかしてみる》
《ダメなら、私が”あの人”の面倒を見るわ》
《すまぬな》
《面倒を掛ける》
《我はエレジアが心配なのだ》
私は、落ち着こうと深呼吸した。
《心配してくれるのは嬉しいわ》
《我にとってエレジアは”娘”だ》
《いや、”あ奴”にとってもだな》
《ええ…そうね》
私は、小さく頷いた。
しばらくの間。
《二人には、とても感謝しているわ》
《あの時、二人が助けてくれたから、私は”ここ”にいる》
《だからこそ、今の”あの人”に恩返しがしたいの》
胸の奥にあった想いを、ようやく言葉に出来た気がした。
《うむ…分かった》
《我もお主たちを見守ろう》
また長い沈黙が続いた。
――――
《ねぇ、仕込みって言ってたけど》
《まだなの?》
《うむ》
《もう少し掛かるようだな》
《そう…》
《待ちながら”もう一人”の話でも聞きましょうか》
《うむ》
《そうだな、名は綾子と言う》
《綾子ちゃんね》
《うむ》
《エレジアが、我や”あ奴”にとっての”娘”なら》
《綾子は”孫”だな》
《…そう。私にとっての”娘”になるのね》
《うむ》
《”力”もそれなりに持ってる綾子ちゃん》
《うむ》
《まだ”力”の扱い方も知らぬようだがな》
《…思い出した》
《…”あの人”の”力”だけど、魔法も使えないの?》
《確かなことは、まだ分からぬが》
《魔法を使えても、人間のそれと変わらぬのではないかと》
《生活が楽になる程度でも充分よ》
《少し安心したわ》
《これは予測になるが》
《どうやら魔力が貯まるのが非常に遅いようだ》
《身体の方は?》
《それも分からん》
《全くの未知数だ》
《…そう》
私は少しだけ目を伏せた。
《良い死に方してくれるなら、それでいいわ》
《うむ》
《我も良い死に方をしたいと思っている》
《あなたは死なないのでは?》
《分からん》
《死んだことがないからな》
《あなたが死ぬなんて、想像できないわ》
《うむ》
《で、綾子ちゃんは、どうしてるの?》
《見つけた時に盗賊に襲われておってな》
《大丈夫だったの?》
《そ奴らの一人を生かして、綾子の下僕にした》
《今は、カラムで過ごしておる》
《盗賊って…。大丈夫なの?》
《大丈夫だ》
《我の威厳で、恐怖をたっぷりと植え付けておいた》
《ふふっ、さすが”白銀様”ね》
《”演出”は重要だからな》
”レッド”が、どこか誇らしげに話す。
《我も学んだからな》
《「威厳を保ちたいなら”演出”を入れろ」と”あ奴”が言うておったしな》
《また思い出した》
《だから”あの人”と会った後の連絡が遅れたのね》
《うむ》
《”あ奴”のせいで威厳が崩れそうだったからな》
《去り際ぐらい、威厳を保たねばと》
《呆れたわ》
《”あの人”から学んだ”演出”を”あの人”に使ったんだ》
《うむ》
《中々楽しめた》
《私もその場で見たかったわね》
《はっはっはっ》
《ふふふっ》
念話の笑い声がしばらくの間、続いた。
――――――――
そして――
敷地の一角から、一体の骸骨が這い出てきた。
私たちの前に来て、静かに頭を下げる。
《これって、スパルトイよね》
《うむ》
《大丈夫なの?》
《何がだ?》
《色々と問題が出てきそうだけど…》
《そうか?》
《問題ないであろう》
《いや、まず弱いでしょ?》
《盗賊なら大丈夫かもだけど、それ以上が出てきたら?》
《問題ない。こ奴はそれなりに強かったではないか》
《やっぱりあの下僕なのね…》
《うむ》
《”あ奴”の支援なら、こ奴が適任だ》
《ちょっともう。…また当時の仲間が集まっちゃうの?》
《嬉しいであろう?》
《…ええ、そうね。少しだけね》
《でも…埋めた場所すら風化して分からなかったのに》
《よく遺骨が残っていたわね》
《必要なのは骨ではなく、魂の欠片だ》
《それでも土から探すのは、さすがに骨が折れたがな》
《笑えない冗談ね》
《でも、本当に大丈夫なの?》
《こ奴も当時の記憶は持っておらぬ》
《今の”あ奴”には、丁度良かろう》
《見た目の問題は?》
《村の人たちに見つかったらどうなるか…》
《それに…こんなの街に連れていけないわよ》
《そこはエレジアと”あ奴”に任せる》
《また私の負担が増えるじゃない》
《あなた、ここぞとばかりに”あの人”に仕返ししてない?》
《そんなことは…ない…ぞ》
《…そう。そういうことにしておくわ》
”レッド”の笑みが止まない。
《久しぶりに、あなたに会えて楽しかったけど》
《そろそろ眠らせて》
《そうか…そうだな》
《我も久方振りに楽しめた》
《ほら、あなたも”あの人”の元へ行きなさい》
スパルトイは一度頭を下げると、
間の抜けた仕草で私に手を振り、彼の元へと向かった。
《名残惜しいが、我も去るとしよう》
《そう思うのなら、たまには顔を見せなさいよ》
《うむ》
《そうだな、今後はそうしよう》
《ちゃんと”あの人”の様子も見に来なさいよ》
《分かっておる》
《じゃ、気を付けてね》
《うむ》
《エレジアもな》
《またね》
《またな》
”レッド”は、羽ばたきながら、ほぼ無音で飛び去っていった。
昨日からの度重なる出来事で、私はどっと疲れが出た。
明日からの気苦労も絶えないだろう。
――でも。
昔の仲間に会えたことが、とても嬉しかった。
勿論、”あの人”にまた会えたことも――
その日の私は、久し振りに心地よく、深い眠りについた。
番外編② 終わり




