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見知らぬ世界で、ほんの少しの幸せを  作者: すえゴハン
第十五章 錬金術と魔法

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第十五章② 初めての魔法体験


午後も、また種剥きが続く。


俺――ジャクイユは、

ふと、ペットボトルに入った油を見て、思い出した。


(……そうだ、ストーブあったわ)


災害用にしまい込んでいた、電気を使わないやつ。

ファンヒーターが使えなくなって、すっかり失念していた。

今日は出そう。


それから、家にある使っていない物、

この世界で役立ちそうな物は、全部売ろう。


そう決めて、

頭の中で家の中身を必死に思い出しながら、

殻剥きを続けた。


――――


夕方、

エレジアがやって来た。


相変わらず、目を引く美人だ。

吸い込まれそうな瞳に、思わず俺の手が止まる。


でも、すぐに我に返り、例のスナック菓子を差し出す。


それを見て、

ミリナが、またにやつくが、お茶を用意してくれた。


ミリナが何か説明すると、

エレジアは納得した様子で袋を開け、


恐る恐る一口。


次の瞬間、

一瞬目を見開いてから、

美味しそうに頷きながら食べ始めた。


動作一つ一つが、

不思議と優雅で、落ち着いている。


――食べる?


袋を差し出され、

一つだけ貰い、残りは返した。


今日のティータイムも楽しく過ごせた。


仕事終わりまでの間、エレジアも手伝ってくれた。


やはり見とれてしまう。

俺は、ミリナに叱られないように、一生懸命作業を続けた。



途中、

エレジアが木鉢を手に取り、

軽く風を起こす。


殻くずやゴミが、ふわりと飛ばされた。


(……魔法だ)


(あれ、魔法だよね?)


エレジアを初めて見たときのように、

胸のときめきが高まっていくばかりだった。


(あるんだ……やっぱり、魔法が)


俺はエレジアの手元を指差し、

「すげぇ……すげぇよ!」と声を上げた。


嬉しそうな俺を見て、エレジアは木鉢を置く。

そして、なだめるように両手を広げて下げた。


それでも興奮が収まらず、俺は自分を指差して聞いた。


「……俺も、できる?」


エレジアは、

ゆっくりと、確かに頷いてくれた。



その後も作業を続けたが、

魔法のことが頭から離れなかった。


火や水のジェスチャーを交えて聞いてみるも、

エレジアは、うんうんと頷いて微笑んでくれるだけだった。


(あー、言葉が通じないのが、もどかしい)


ミリナの咳払いで作業に戻るが、

当然、種剥きは、捗らなかった。



16時半を回った頃、

ミリナに帰っていいと言われる。


ミリナに挨拶をして、ランプを手にし、

エレジアに手を振る。


返してくれたバイバイが、とても可愛かった。


――――――――――――――――――――


家路につきながら、

先ほどまでの光景が、何度も頭に浮かぶ。


魔法も衝撃だったが、

手を振り返してくれたエレジア。


あの、少し控えめな仕草。


(……可愛かったなぁ)


そんなことを考えつつ歩いていると、

やがて見慣れた家が見えてきた。


近付くと――

骸骨が、こちらに向かって手を振っていた。

すえぞうも骸骨の横で座ったままだ。


「……ただいま」


少し、複雑な気分になる。


(……エレジアのバイバイが……)


骸骨の動作に敵意がないのは、もう分かる。

それでも、やっぱり骸骨は骸骨だ。

慣れろと言われても、そう簡単にはいかない。



ガレージへ向かう。

災害用に保管していたストーブを引っ張り出し、灯油を入れた。


燃料は貴重だ。

だが、凍死するよりはずっとマシだろう。

残していても、灯油はいずれ劣化する。


骸骨は、少し離れた場所から、静かにその様子を眺めていた。



部屋へ戻る途中、

ふと、母親の部屋を覗く。


――綺麗だ。


想像以上に整頓され、

埃ひとつ残っていない。


思わず、俺は親指を立てた。


「すげぇな……スケさん」


そう声を出すと、

スケさん――骸骨は、

一歩だけ後ろに下がり、

両手をひらひらと振った。


(……謙遜してるつもりか?)


言葉は通じていないはずなのに、

意味だけは、ちゃんと伝わってくる。


(名前……これしか思いつかなかったけど)

(まぁ、悪くないよな)


とても自然な名前だと思う。


少しだけ、お願いもしてみることにした。


台所を指差し、

掃除と整理整頓の仕草をしてから、問いかける。


「……明日、お願いできる?」


スケさんは、少し間を置いてから頷いた。

だが、その動きが、ほんの少しだけ鈍い。


(……あ、これ嫌がってるな)


察した俺は、慌てて首を振り、

今度は外を指差し、くわを振る真似をする。


「じゃあさ、外で土いじりとか……どう?」


するとスケさんは、

さっきとは明らかに違う頷き方をした。

大きく、はっきりと。


(……喜んでるな、これ)


「よし、じゃあそれで」


言葉が通じなくても、妙に会話は成立している。

俺は普通に日本語で声をかけながら、

自分の部屋へ戻った。



ストーブに火を入れると、最初だけ、芯から煙が上がる。


(……懐かしい匂いだ)


ランプも取り出し、ライターで火を灯す。


「……ライターも、そのうち貴重品だな」


ぼそりと呟く。


植物油と、

ほんのり混じったハーブの香り。


これで、懐中電灯片手に料理しなくて済む。

贅沢は言えない。


洗い物が出ないように、

残っている肉と、傷みかけの野菜を全部茹でる。

今日の俺とすえぞうの晩ご飯だ。


部屋で食事をしながら、

ずっと立ったままのスケさんが気になり、椅子を勧めた。


座った姿を覗き込むと、

椅子と骨の間に、隙間があるのに気付く。

同じように、各関節に隙間がある。


(……魔力か何かで、形を保ってるのか?)


スケさんに触っていいか?と聞くと頷いた。

表面は柔らかく、不思議な感触だ。


(皮膚や筋肉も魔力か?)


――ギュってしても?


スケさんが頷く。

握ると、芯は硬い。


――痛くない?


親指をあげた。


痛みを感じるかは、上手く聞けなかった。



今度はストーブを指差し、

自分の体をぶるっと震わせて聞く。


「寒いとか、暑いとか……ある?」


スケさんは、首を横に振った。


(……ちょっと羨ましい)


次に、

「俺の言葉、分かる?」と身振りで尋ねる。

また、首を横に振る。


魔法のことは、上手く伝えられなかった。


だが、

ボールペンを持って、字を書く仕草をすると、

スケさんは頷いた。


「……マジで?」


声が漏れる。


紙を渡すと、

何かを書いてくれたが、

まったく読めない文字だった。


(まぁ……数字からだよな)


今日は、そこまでにしておく。


最後に、

もう一度だけ聞いてみる。


――君、ドラゴンと関係ある?


スケさんは、

両手を横に振り、分からないと示した。


「……そっかぁ」


知能があって、知識もある。

でも正体は分からない。

考えすぎて、頭が限界だ。


「……よーわからん」


そう呟いて、今日は終わりにした。


ストーブは、正直あまり暖まらない。

下から暖まるファンヒーターとは違う。


それでも、凍死しないだけマシだ。


体を拭き、

すえぞうにくっついて布団に入る。


スケさんは、自分の部屋で過ごしているらしい。


(……寝るのか、寝なくていいのか、聞いてなかったな)


そんなことを考えながら、

目を閉じた。


(魔法か……俺も、使いたいな)



第十五章② 終わり

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