第5話 パーティ加入
「おおっと、これはまた見目麗しいエルフのお方……確かに! おっほん! こんな場で声を荒げるなど、おおよそ紳士の振る舞いではありませんでしたなァ!」
「わかっていただけましたか!」
ぱあっとエルフの顔が明るくなる。いやいや、この人馬鹿なの? 世間知らずなの? 間違いなくシャバに出してたら速攻騙されるタイプの人じゃない?!
「勿論ですとも、このリーアヴィル王国ゼマス伯爵が嫡男、ネゾーヌ・ゼマスが、貴女のような高貴な女性のご意見に耳を傾けないわけがありませぬ!」
こいつ、これで遜ってるつもりなのか?
だが、エルフの方はそこら辺を理解していないようだ。
「いえいえ、ご理解頂けたのなら何よりです! おおっと、自己紹介が遅れてしまいましたね」
そう言ってエルフの彼女は俺とシャロにも視線を送る。律儀な人だな。
「私はハイエルフ族の出身、メルセナ・パラロードと申します。【神託】を受け、エルフの勇者として百年の修行の後、本年このトーネリア魔法学校に入学させて頂きました。以後お見知り置きを」
「百年!? やっぱりエルフってすごいんだねシンくん」
「そうだな。俺らが百年も修行してたら途中で永眠だ」
まあ俺は既に公的には死んだ扱いだけど。
「はは、エルフの中でも我々ハイエルフはより時間への耐久度が高いですからね。百年ほどがむしろちょうどよいのです」
「そうなんだー」
ふむふむ、と感心するシャロ。
俺からすれば、その生真面目さは他者に利用される隙でしかない、と言いたいところだが、余計なお節介か。
「ささ、お二人とも! そこの死者など放っておいて、クラス分けへご案内致しますぞ!」
ネゾーヌがそう言うも、キッとメルセナに睨まれて竦む。こいつも相変わらず学ばない男だな。
「とりあえず見に行こうか」
「あ、うん!」
ドヤ顔のネゾーヌは、さも自分が率いているかのような態度で先陣を切っている。
さて当のクラス分けと言うのはどんなものかと思ったが、単に魔法使いや戦士など、事前に判断された適性によって区分けされていた。
要は理系文系みたいなものだろう。
「同じクラスだねシンくん!」
シャロが嬉しそうな声を上げる。シャロと俺は共に魔法使いクラス。と言うことはその名の通り、魔法を使うのだろうが……。
(俺って魔法使えるんだっけ……?)
《いえ、マスターは現状、魔法を使用できません。身体に魔力回路がインストールされておりませんので》
待ってましたとばかりにポップアップが答える。そういえばこれ思考すれば会話できるんだっけ。
(やべーじゃん。どうすんの。スキル使うか?)
《スキル使用時に浮かぶマーカーは明確に魔法陣と異なりますので、公の場で見せることは推奨致しかねます。よって、何らかの武器を持って立ち回るのが良いでしょう》
(むう……剣に何かを付与したふりして戦う、とかか)
《良い案と思います》
制約と言うかかなりリスキーな気もするが。ただでさえ立場が危ういのに、これ以上余計な注目をされたら敵わない。
と、思っていたのだが、俺は生前のシンクス・リーアヴィルこと"悪虐王子"を見誤っていた。
そう、クラス表を見る俺を見る他人の目と聞こえてくる噂話は、こうだ。
「おい、悪虐王子があのクラス表でだんまりだぞ……」
「自分の名前が一般人と同じ括りに入ってた時点で暴力沙汰を起こしてくるって覚悟してたのに」
「ほらあのニュース、どう見ても身内から裏切られてるでしょ? 流石に堪えたんじゃない?」
「え、じゃあただの能無しのガキじゃん!」
「うちの店もアイツに酷い目に遭わされたんだよ、ちょうど良い仕返しのチャンスじゃね?」
「学校内じゃあ、身分関係なし、だもんなァ。もう死んだ扱いの王子様なんて、もう一回殺しても変わんねーよな」
「あいつ特待生だからまだ十歳なんだろ? 案の定チビだし、きちんと訓練課程を受けた俺たち十四歳の新入生からみたらただのお子様だっつの」
うわあ、マジか。
間違えてスライムに転生した挙句、成り行きでシンクスの姿形になって……。
元のシンクスなら、なるほど皆の言う通りここで駄々を捏ねて暴れ回っていたんだろう。記憶を知っているから俺にもわかる。
それを真似て、俺も傲慢に振る舞うべき、なのか……?
(いや、どのみち元のコイツの振る舞い方なら、破滅は目に見えてる)
それなら――一回死ぬような思いをして改心し、まるで別人のようになった、くらいの方がむしろ説得力があるかもしれない。
そもそも傲慢に振る舞うとか、俺のキャラじゃないし疲れるよ。
となれば、ひとまず周りの声は無視、だな。俺は俺として普通にやろう。
「シンくんシンくん! 入学式あっちだって!」
「ああ」
「お二人とも、私は戦士のクラスですので、これにて」
「メルセナ……だっけ? さっきは助かったよ」
「いえ! とんでもないです。私はあの男のような、己の利益しか考えていないような者が大嫌いなだけですので」
「そ、そうか」
むんっ、と正義感満載の笑みを湛えるメルセナ。生前のシンクスと対峙していたら速攻切り殺してたのでは?
またネゾーヌはと言えば、余程メルセナに辛辣な言葉でも浴びせられたのか、肩を落として入学式へと既に向かっていた。
――入学式はつつがなく終了した。この後早速行われるレクリエーションの説明や、学校敷地内の危険地域などの説明が主だった。
後に俺は教師から呼び出され、身元や戸籍の整理を俺の執事が行なっているようだから詳細は後ほど、と言われた。
しかし何か特別待遇があるだとか、そう言ったことは何もなかった。
なるほど流石公平な実力主義の学校。王家に対しても忖度しないと言うやり方を貫いているのは好感が持てるな。
……まぁ、俺に身元の事を伝えた教師は何か反抗されるのではとかなり警戒していたようだったが。
それは致し方ないだろうな。生前の業と言う奴だ。
「んで、早速レクリエーションで魔素の森に挑むからパーティを組め、と」
「シンくん、良かったら一緒に組まない……?」
シャロがおずおずと聞いてくる。十四歳の彼女は、十歳の俺よりも十センチほど背が高い。ちなみに先のメルセナは、見たところ俺より十五センチは高いだろう。
「もちろん。よろしくな、シャロ」
「うん!」
さて、パーティは五人編成らしいから残り三人。
できればまともな人と組めたら良いんだが……そもそも生前のシンクスのせいで誰も寄ってこない。触らぬ神に祟りなし、と言う奴か。メルセナはどこにいるかな、と探してみたところ、ハイエルフの剣士と言うのは余程珍しいらしく、既にパーティ希望者が殺到していた。
「メルセナさん、人気だね」
「そうみたいだな。シャロも俺と組んで良かったのか? ええと、エールの聖女、だっけ? 結構人気者だったじゃないか」
「うん……」
でも、と言葉を続ける。
「シンくんとパーティ組んだ方が、楽しいかな~って思って!」
そう言って破顔するシャロ。
眩しい! 笑顔が眩しい! なるほど確かにこれはエールの聖女だ! ピンクの綺麗な髪も、彼女柔らかな雰囲気を増すのに寄与しているし、一緒に居るだけで元気を貰える。
良い子な分、搾取しようとする輩も多く現れるだろうな。いつまで俺と組んでくれるかはわからないけど、出来る限りは守ってやるべきかもな。……老婆心、と言う奴だ。十歳の身体で言うことでもないけど。
「君たち? もしやもしやもしやなのだが、パーティメンバー残り三人、お探しかね?」
おおっと、このムカつく声はさっき嫌ほど聞いた声……。
そう、またもネゾーヌ・ゼマスだ。
しかも今度は、配下を二人連れている。片方は背が小さく前髪で目の隠れた男。もう片方はいかにも我の強そうな表情の長身の女。男の方は盗賊で、女の方は魔法使いか。
(これは使えるな)
内心でニンマリとする。バカとハサミは使いようだ。
次話は明日18時更新です!




