第29話 最後の戦い4
勇気は胸元を抑えながら傷を治癒していく。
超越者としての能力が覚醒し、傷を治療し、細胞組織を再生していくにまで至ったのだ。
勇気は怪物と死闘をしていた時に、自らの変化に気づいていた。
それはおのずと切られ、肉をえぐられた箇所が自然と治癒していく自らの肉体の変化に。
そして、あることをおもいついた。
いざってとき、つまりは悪魔が油断を強いたときに彼女らを一気に拘束して悪魔を一層できる機会である。
怪物や風見先輩との戦闘のさなかに彼は念動力を使い自ら流した血液を集め、敵の目線を上に向けさせないように大立ち回りをして天井に悪魔封じの術式を描いて見せていた。
彼は好奇のタイミングで悪魔封じの術を実行したのだ。
「アスモデウス、ミスを犯したな」
「すみません、よもや彼がここまで覚醒しているとは思いもしませんでしたので」
勇気はゆっくりとまずはとある悪魔の前に行く。
その悪魔は星城アリスの肉体に憑依した悪魔セーレ。
「まずはお前だ」
悪魔セーレは身の危険を感じ、どうにか能力を懸命に発動する。
どうにか、一部の怪物の死体を彼の頭上へと落とすことに成功する。
「なっ」
彼は頭上に手を掲げて逆にその肉体を消滅させた。
「私の能力が効かない!? なんで!」
「そうか。この実験場が転々と移動できたのもお前の能力だったんだな」
勇気は持っていた聖水を彼女にかける。
彼女の肌から煙が上がり、まるで焼かれたような反応を示した。
「悪魔にとってこの聖水は天敵だ。肉が焼かれるような痛みだろう? さあ、悪魔よその名前を教えてもらおうか」
勇気は銀の短剣を鞘に抑えめ逆さに持つ。
それは一つの十字架となる。
「我らの神であり主 であるイエス・キリストの御名において、 神の母
である汚れなき聖母マリア、 大天使聖ミカエル、 使徒聖ペトロとパウロ、そしてすべての聖人の執り成しにより強められ 、我らの聖職の聖なる権威において力強く、 我々は自信を持って悪魔の攻撃と欺瞞を撃退することを約束します。 神は立ち上がられ、 神の敵は散らされ 、神を憎む者は神の前から逃げ去ります。 煙が追い払われるように 彼らは追い払われ、 蝋が火の前で溶けるよう に悪人は神の前で滅びます――」
彼女の中に潜む悪魔は苦しみ、決死の抵抗をつづけた。
周囲の悪魔たちにもその悪魔祓いの影響は及び、うめき声が発せられる。
「さあ、主の名において言明する。人間の救済の敵よ、その名を教えよ!!」
十字架を押し当てられたアリスの胸元。
肉でも焼けるようなにおいがするがその事実彼女の皮膚には一切の焼け焦げた後はついてはいない。
代わりにうめく悪魔の声。
弱り切った彼女は口からゆっくりと自信の名を口にした。
「うぐぐっ、セーレ」
勇気はその名前を聞いて気付いた。
「アスモデウスとセーレ、そうか。そういうことか」
勇気は十字架をしつけながら、最後のとどめの祓いの儀式を決行する。
「すべての汚れた霊よ
おまえを我は追い払う
すべての悪魔の力よ
すべての地獄の敵の
侵入者よ
すべての軍団すべての群がり
そして悪魔の師団よ
ゆえに、呪われし竜よ
そして悪魔セーレよ
我はおまえに厳命する
人間たちを欺くことをやめよそして彼らに永遠の破滅の毒を与えることをやめよ」
セーレの肉体は光り輝きだして口から黒煙が立ち上り始めた。
その黒煙を勇気は逃さず、超能力で拘束してその手を握り締めると炎が黒煙に立ち上って消滅した。
「セーレッ!」
セーレの消滅をそれぞれの悪魔が目の当たりにして勇気に畏怖の念を抱いた。
「アリス姉さんっ!」
勇気は愛する義姉の名前を呼んだ。
彼女が呻き声を発するとゆっくりとその瞼を開いた。
「あれ、私何を……」
「もう、大丈夫。姉さんの身体の悪魔は追い払ったから」
「え、あ、うん」
よくわかっていないような雰囲気の彼女。
彼女は勇気の後ろから迫る悪魔たちに気づいて彼を突き飛ばした。
「勇気っ!」
勇気の前でアスモデウスの貫手が彼女の腹を貫通するのを目撃した。
「あ、アリス姉さん?」
倒れ伏していくアリスを目前にしてアスモデウスたちは傷んだ体を慣らしながら吐息をこぼす。
「よもやセーレが殺されるとは。残った私たちはそう簡単に」
勇気は右手を掲げる。
ハーシア教諭の身体を横殴りに吹き飛ばす。
続けて、迫ったアスモデウスを宙に打ち上げてたたき伏せた。
最後に残ったのは九条美代の身体に憑依している悪魔と風見凛に憑依している悪魔。
その二人の悪魔だけが見当たらない。
勇気は探したときに背後から声がして、後頭部を強く殴られ前のめりに倒れこむ。
「あなたには私たちを見つけることなどできませんよ。この私の能力は完ぺきに物体を見えなくできる」
九条美代の憑依悪魔が有頂天になって語る。
そのことで、実験場が常に見えなくなって移動していた原理の一つを担っていたのだと悟った。
「次はこっちだよ!」
殺意の牙となった刃が勇気の首筋を狙ったが勇気にはそれが見えていた。
「お前の正体はわかっている悪魔バエル」
「っ!」
「今の俺にそうした見えない攻撃はもう通用しないんだよ」
勇気はさらなる覚醒を遂げていた。
彼女の手をつかみ、悪魔祓いの胆略詠唱を実行する。
「悪魔バエルよ
我はおまえに厳命する
人間たちを欺くことをやめよそして彼らに永遠の破滅の毒を与えることをやめよ」
「ぐあぁあああああ」
彼女の身体から火の手が上がる。
しかし、すぐにその炎は消し消える。
「この程度、私のこの身体の能力でどうにでもなる」
「能力?」
「この身体は元は魔女さ。だからこそ、超能力に耐性を持ち、また呪いにもたけている」
勇気は急に胸の苦しみを味わい始めた。
心臓が早鐘をうつように苦しくなり、その場に蹲った。
にたりと笑みを浮かべる、バエル。
「これで終わりだ」
バエルが最後のとどめの何かを発動しようとしたとき、一発の銃声が響いた。
バエルの身体である九条美代の胸元から出血とみられる赤いシミが浮き上がってくる。
バエルはゆっくりと部屋の出入り口のほうを見た。
アスモデウスたちもいつのまにか拘束をされていた。
バエルが怒鳴りつけた。
「おい、ガープなぜ予知できなかった!」
「すみません、なぜかこの身体がアマイモン様の肉体を殺してからというもの何かおかしくて」
シスターハーシアに憑依した悪魔が慌てたように謝罪をした。
「くそっ、肉体が起きる兆候が出ている原因か」
アスモデウスも悟るように後悔の言葉を口にする。
「悪魔アスモデウス、あなたたちの敗北です」
ゆっくりと奥から恰幅の良い紳士が歩いてきて、名倉佳奈美のそばに立った。
それは勇気が病院で出会った際に源蔵の仲間だと紹介された男、加々見伸二だった。
「くくくっ、これは好都合だ。敗北? 違う違う。アマイモン様、これなら心配はいりません」
妙な勝ち誇った言葉を濁す、アスモデウスに不審さを思い、加々見や源蔵が拳銃という名の悪魔封じの弾丸を込めた拳銃を構えた。
撃たれたバエルは身動きが取れず、他の悪魔も同様だった。
だけれど、なぜかアスモデスは動けないはずなのにはずだと思ったのに動き始めた。
「なぜだ、なぜ、動ける!」
加々見が驚いたように何度と銃を撃ち続ける。
勇気は叫んだ。
「おい! やめろ! 中の彼女は生きているんだぞ!」
「悪魔に憑依された存在など悪に堕ちた犯罪者と変わりません! そのようなものに手心など考えていられませんよ! 全員アスモデウスを撃ちなさい!」
「いいや、それはさせないさ。
なあ、伸二」
その時、アスモデウスが憑依していたとも思われる名倉佳奈美がその場で倒れた。
何が起こったのかと周囲が困惑をしたとき、急に加々見伸二に変化がおこった。
「あ、あああああああっ!」
「おい、伸二どうした!」
源蔵が心配になって駆け寄ったとき、一発の銃声が響く。
倒れる源蔵は胸を抑えながら手を伸ばす。
「お前が昔の……」
勇気は目の前で養父が殺されたのだと理解するのに数秒の理解を要する。
「親父っ!」
「この肉体に戻るのも久方ぶりですね。さあて」
周囲の教会組織の人間が慌てたように拳銃を構えたが戸惑いがまだ隠しきれておらず、その一瞬の隙であっという間に全員が首を念動力でへし折られ死亡する。
「どうなっている。お前の憑依者は名倉佳奈美じゃなかったのか?」
「いつから、人間は悪魔の憑依できる存在が一人のみと勘違いをしていたのでしょうかね」
「なに?」
「そもそも、ゆうきくん、あなたも馬鹿ですよね。実の仇が病院でお会いしたときにいたというのに」
「実の仇……まさか」
「ええ、この加々見伸二は私が数年前にあなたの両親を殺したときに利用した肉体です」
勇気は愕然として足を崩す。
「そもそも、なぜ今まで名倉佳奈美だと思っていたのですか? あの時はもう数年前だというのに。その時の名倉佳奈美はあなたと同い年。でも、あの時の前にいたのは大人ではなかったですか?」
記憶を思い起こせば、アスモデウスのいようにその存在は確かに大人でしかも、男だったような記憶はあった。
「まぁ、人間はいやな記憶は閉ざしたくなるものでしょうから私との感動の出会いも閉ざしていたのでしょうね」
「感動の出会いだって? 何が感動だ! お前との出会いは最悪でしかなかった! あの日を境に俺はお前に復讐を誓ったんだ!」
加々見伸二の肉体を借りたアスモデウスは冷めた目をむける。
「おい、アスモデウス、そのような話はいい! 私たちを解放しろ! そして、地獄を開け」
「あー、アマイモン様。そういうお話をされていましたね」
アスモデウスはゆっくりとアマイモンへと近づくと――
「アマイモン様、すみませんがこの儀式実は少し手心を加えていたんですよ」
不穏な言葉を濁しながらアマイモンの憑依した風見凛の側頭部を抑える。
「おい、アスモデウス何をする何をうぁああああああああああ!」
アスモデウスへ、何か風見凛の肉体からあふれ出る黒い煙がゆっくりと儀式の模様に吸い込まれていくのが見えた。
「おい、アスモデウス! 何をした! アマイモン様に何をしたんだ!」
「アスモデウス、お前裏切ったのか!」
「ガープ、バエル。もとより、私はアマイモン様よりも高位の方に仕えてるに過ぎないんですよ。あなた方もそのために現世に召喚させてもらったに過ぎない」
「高位って誰のことを言うてる?」
「我々の王はアマイモン様ただ一人!」
アスモデウスは仲間たちの言葉を聞いて高らかに笑う。
「原書より、我々、悪魔の付き従う王はあのような小物などではない! そう、私は長年の多くのハンターや聖者を殺し、ある情報を集めた。その方を復活する方法を探すため。そして、それを見つけた。聖の強気力を持つものと魔の強き力を贄にしてその者の復活の扉は開かれる」
アスモデウスの真意が読めず混乱する勇気だったが、二人の悪魔は真意に気づいた。
「馬鹿なことを。過去にあの方が行ったことで多くの悪魔も死んだこと忘れたのか! あの者は自分さえよければいいそういう存在だぞ!」
「何を言うのか。悪魔とは元はそういう存在だ。だから、古き友たちよ。あの方のために消えてくれ」
二人に向けて手をかざしたアスモデウス。
二人の身体からも光があふれ、黒煙が立ち込めると術式に飲み込まれていった。
「さあ、最後はここにいる教会の面々とそして、君という存在だ」
「アスモデウス、お前仲間で殺して何をするつもりなんだ!?」
「ルシファー様の復活」
「何?」
「魔王ルシファー様こそ、我々、悪魔の生みの親にして最強の悪魔。彼を復活させることこそが我の本望なんですよ」
「ルシファーの復活なんてそんなのさせるかよっ!」
勇気は十字架を突き刺すように胸元めがけて突き出していたがその手を軽く止められてしまう。
「うぐぐぐっ」
「そのような不意打ちに私は簡単に倒せるとでも思うたか?」
「そうね、でも、こういう不意打ちならどうかしら!?」
アスモデウスは後ろから聞こえた声に振り替える。
何かが盛大にアスモデウスに引っ掛けられた。
アスモデウスは身体中からあふれ出る痛みと焼かれるような思いに叫ぶ。
「勇気っ! 今しかない! その銀の十字架でコイツを!」
「このいと狡猾な敵共は、罪の汚れなき子羊の浄配なる教会を憎悪と怨恨で満たして泥酔させ、教会のいと聖なる財産に不敬な手をかけん。 牧者が打たれ羊が散らされるとき、聖なるペトロの聖座にして世の光のための真理の座が据えられし、まさにその聖なる場そのものより、彼らは邪悪な策略もて忌むべき不遜な王座を起こさん!」
銀十字架を加々見伸二という肉体を借りたアスモデウスへとたたきつけると彼の肉体から尋常ではない黒煙があふれだす。
それは徐々にアスモデウスの肉体が滅び始めていくのを知らせる状態。
アスモデウスの肉体は徐々に床下の文字へと吸い込まれていく
「まだ、私は滅びんぞ! 貴様を道連れにしてでも!」
そのアスモデスの伸びる手が勇気の足首をつかみ一緒にその中へと行かせようとする。
銀の十字架がさらに光を帯び始めた。
「この十字架は! まさか、イエスの十字架っ! なぜ、貴様のようながきがぁあああ!」
弱り切ったアスモデウスに勇気は最後の言葉を吐いた。
「邪悪なる魂よ、地獄へ戻れ! アーメンッ!」
術式の中へと吸い込まれていくアスモデス。
同時に術式の光は消えたかに思えたが、なぜか厳かに震え始めた。
「これは、まだ終わってない!?」
「勇気っ! 下を見て!」
まるで地面が脈動するように光が点滅を繰り返していた。
「何かこれをこのままにしていたらまずい気する」
「ああ、俺もそんな気がするよ」
「俺? 勇気いつからそんな口調に……」
「姉さんが亡くなったと思っていろいろとあったんだよ」
「?」
勇気は懸命にこの状況を言食い止める方法を考えた。
ただ、地面の術式を消しただけじゃ、光の明滅は止まらずほかの方法を考える。
「勇気、その十字架、さっきアスモデウスはイエスがどうのって言ってなかった?」
「ああ、なんか確かに言っていたけど、これはでも昔に実の両親からもらったただの短剣で……」
その言葉でもしかしたらという可能性が頭をよぎる。
勇気に命を賭してまで残した両親の遺産。
もしかしたら、このことまで想定していたのではないかという可能性。
天才ハンターだったという両親ならば。
そもそも、この十字架はなぜ短剣の形をしているのか。
勇気はそれがただのカモフラージュのためだと考えていたがそれがもっと違う理由なのだとしたら。
「姉さん、下がっていて」
勇気は銀の十字架から短剣に変えたそれを思い切り振り上げた。
そして、地面に突き刺さったその短剣が銀色にあふれ出るように輝く。
周囲が一瞬で明滅して目を開けると勇気たちは外の森林地帯にいた。
「え」
後ろでは地割れを起こしながら崩れていく実験場を目の当たりにする。
よく見れば手元にはあの銀の短剣はなかった。
「勇気!」
遠くから走ってきたアリスに抱き着かれながらすべてがおわったのだと安心感と疲労が波のように押し寄せていき、勇気の意識はそこで途絶えた。




