第25話 最後の戦い1
熱波の斬撃が猛然と周囲を焼き斬る。
木々は炎に包まれ、半径3キロ圏内の木々は斬り倒され、そこら辺にだけまるで隕石でも衝突したようなクレーターみたいに出来上がった。
その中心地に、右手を掲げて熱波をせき止めた勇気は息を切らしながら目の前の兄妹へ殺意をもって眼差しを向ける。
「ちょっと、効いてないじゃん! 兄貴の火力足りてなかったんじゃないの!?」
「馬鹿を言うな。それはミズホの斬撃制度が足りなかったから止められたにきまってる」
「はぁ? 兄貴でしょ」
「いいや、ミズホだ」
仲が良いのか悪いのか戦闘中でもいがみ合いをする兄妹たち。
二人を見てると思い出すのはアリスの存在だった。
今どこで何をしているのか。
「アスモデウスに聞けばわかることか。今はこんなことしている暇はないんだ」
勇気は兄妹たちが喧嘩をし始めたのをタイミングにその場から離れるように逃走。
そのあとに風見も急いで続いた。
「あのような人たちにかまってる暇はないから急いで例の場所を探す。風見さんは場所を知っているんですよね?」
「知ってはいるが今は教えられない。私はまだ反対だからな。まずはあの兄妹たちをどうにかすべきじゃないのか?」
「戦闘をしたって無駄な行為です。だいたい、兄妹たちだって元々は被害者で悪魔にそそのかされてしまっただけにすぎない」
「でも、人は殺したのに変わらない」
勇気は足を止めた。
風見先輩を見つめながら疑問を投げた。
「先輩、なぜか俺を戦わせようとしていませんか?」
「なぜ、そう思う?」
「不用意に場所を教えたがらないし、そもそもこんな危険な状況下でまずは戦おうなんて普通は思いませんよ」
先輩は顔をしかめたのちにあっけらかんとした表情をしながら言葉を選ぶような感じで答えをする。
「何を言うんだ。この状況だからこそだ。あのような不要な危険因子は先に排除すべきじゃないか。もしも、大本の悪魔と戦闘になったときに割り込まれたらどうする? そういう存在は消しておくに限るんじゃないか?」
「……」
一理あるようなことを言うけれども、勇気には不要な戦闘をさけ、余計な体力を消費するほうがより効率的に思えた。
実際にあの施設に入った一人の少女を見たとき、あれの施設は何か仕組みを知っていないと開かないようにも思えたので外部からそう簡単に侵入者を招き入れる構造にはなっていない。
つまりは中で戦闘をしても横やりのような介入がそう簡単に起こりうるとも思えなかった。
「もうしわけないですけど、そうだとしても俺は例の場所を探すだけです」
勇気は後ろをそっと見てから前に進むことを選ぶ。
(やはり、何かを隠している? でも、なんだかわからない。悪魔と内通している? でも、そうしたら悪魔を殺すようなことも手助けしたりするか? いや、待て)
よくよく考えれば彼女は悪魔を殺す手助けなどしてはおらずどちらかといえば、超越者を殺す手助けを終始行っていたように思えた。
勇気は再び足を止める。
「もしや、考え直してくれたのか」
「先輩、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「先輩はどちらの味方ですか?」
「どちらって君だよ。何を言ってるんだ」
「俺が聞いているのは悪魔か人間かどちらの味方かです」
「それは人間さ」
「なら、質問を変えます。先輩は超越者の味方ですか、それとも教会の味方ですか?」
その質問をしたとき、先輩の空気が一瞬だけ変化をしたのを感じ取るがタイミングが悪く遠方から火の玉のようなものが落下してくるのが見えた。
「先輩!」
勇気は手を掲げて火の玉に向かって能力を放つ。
火は消えたがその中身が出てくる。
それは大きな木の丸太。
それだけがこちらに突っ込むように落下した。
反射的に横っ飛び回避して危険をまぬがれる。
ほっと安心したのもつかの間、眼前に人影が差す。
「よう、さっきぶり」
「っ!」
先ほどの兄妹の兄が右手に短剣を持ち振り下ろしてきた。
咄嗟に能力で彼の腕を食い止めて眼前にぎりぎりで止める刃と決死の攻め合い。
耳元では風見先輩の悲鳴が聞こえる。
「先輩!」
勇気は兄貴を横殴りに能力で吹き飛ばす。
「兄貴っ!」
妹のほうが兄貴を気遣い焦り声が聞こえたが次の時には悲鳴に変わっていた。
「あぁあああっ!」
「油断しましたね」
勇気もそっとそちらを見れば、妹の腹部を刺し貫いた刀とそこからあふれ出た冷気が彼女を氷漬けにしていた。
「ミズホォオオオッ!」
吹き飛ばされた兄が咄嗟に立ち上がると標的を風見へと変える。
勇気は咄嗟のことだった。
反射的に彼女を守るために能力を行使した。
その能力に感情が上乗りされて抑制力が効かないと思ったときには遅くあまりにも力強い念動力が彼を吹き飛ばして木々にたたきつけた。
彼の身体はまるでダンプカーにでもはねられたような勢いでたたきつけられたせいで体中の骨は折れて、ぺしゃんこに近いような肉体からは血があふれこぼれ即死だった。
絶命した瞳がこちらを見つめるようにその場に横たわる。
勇気は悲痛の後悔の叫びをあげる。
自らの行った行為に後悔しその場に突っ伏すと一人の少女の声が勇気を優しく諭すように聞こえた。
「勇気、それは正しいのよ。あなたはわるくないわ」
「え」
その聞こえた声は勇気の良く知る声で、おもわずそちらのほうを見て驚く。
それは探していたアリスがそこにいたからだった。
「アリス姉さん、どうしてここに……ずっと探していたんだぞ」
アリスはその言葉に返すことはなく、いつからそこに表れていたのか。
彼女の背後には大きくそびえたつ、あの探していた実験施設があった。
ゆっくりとその施設に入っていく彼女。
風見先輩も何食わぬ顔でそのあとへと続いて入っていく。
「アリス姉さん!」
彼女たちの後を追いかけるように勇気も入っていった。
後ろで扉が閉まり、暗闇に周囲は囲まれる。
見えない視界。
暗闇に閉ざされ、まるで世界から隔絶されたような気持ちへとなる。
ゆっくりと壁を伝い歩き進めながらいくと厳かな息遣い。
「なんだ?」
周囲が一気に明るくなる。目がくらみながら手をかざして影を作り目をゆっくりと周囲にならすように目を凝らしていく。
今自分がどこにいるのか現状を把握した。
周辺一帯に檻に入れられた怪物たち。
足元には無残に転がった多くの死体たち。
「ここは一体なんだっ!」
「さぁ、ようやく我々の期待の有望株が登場だっ!」
「この時は待ちに待ちましたね」
「ですね。彼の成長には期待しかないでしょう」
「先ほどの彼女は結構いけたと思いますけどね」
周辺一帯を取り囲う檻とは別に、目の前の天井付近にまるでこちらを観測するような閲覧席が存在していた。
その閲覧席には4人の女がいた。
一人は勇気が最も悪魔と疑っていた女性、シスターハーシア。
そして、次に学園を管理して牛耳っていた女性、九条美代。
3人目は死んだと思っていたはずの少女、名倉佳奈美。
最後は、勇気の愛する少女で義姉、星城アリス。
4人の少女たちを見てすべてが頭の中で紐づいていくように合点がいく。
「そうか、悪魔は4人いたのか。そして、その中でアスモデウスはお前だな、名倉佳奈美っ!」
勇気は指を指示し、彼女を睨みつける。
「ふっ、うふふふっ。ご明察。びっくりしましたかぁ? 勇気さん?」
「アスモデウス、彼女のフリをするんじゃねぇ! 最初から名倉家のことを聞いた時からおかしいと思っていた。悪魔とは元来、憑依するなら少女を好むはずがなぜか、父親と母親だけが悪魔の憑依者となっていた。そのことにずっと疑問を持っていたんだ。実際は違った。最初は父親と母親は真とも出会ったんだ。最初から最後まで裏でお前が悪魔に憑依されたのは両親だと思わせて脅迫して利用していた」
「ふふっ、その通り! さすがは有望株の超越者。これであれば申し分なく期待できそうですね」
「期待だと?」
勇気は周囲の檻がゆっくりと開き始める。
焦るように剣を構えると同時に、奥からもう一人ゆっくりと少女が表れたのに気づいた。
「先輩?」
「この場で生き残った方の願いを叶えましょう! さあ、頑張って戦いなさい! 最後の戦いの始まりですよ!」




