第22話 無茶な訓練2
夕焼けに染まった空。
空の夕焼けに照らされてなのか、森林は変色をし赤緑色になっていた。
赤緑の森林の中を奥へと進む勇気はさっそく森林の中で異様な光景を目撃した。
蠢く植物たちと奇妙な昆虫類だ。
それは世界のどこにでもいないような造形と色艶をした昆虫。
まず、身体はカブトムシのような甲殻類。だけれども、その色合いは紫色。さらに体格に合わぬ八本足でありながらサソリのような猛毒をもってそうな針のある尾をもつ。
他にも蝶に酷似していながらそれにはカマキリのような鎌をもち、羽は緑色でまだら模様と気色悪い。まるで、蛾ではないかと思うが蛾であるのならば止まった時に羽を開いてる習性があるがその虫は羽を閉じて蝶のように花の蜜をすする仕草をしていた。
さらには足場にはアリに似た昆虫もいた。それはしかし、アリにしてはかなり体が大きい。全長10センチくらいの大きさで4本足。さらには複眼でありまるで異形の化け物といえる。
「授業としてはあまりにもやりすぎだ」
いくら授業のためといえその場所はあまりにも不気味な生物たちの巣窟で歩く場所にそのような生き物がうじゃうじゃとわいており背筋に寒気が走った。
もはや授業という枠組みの度を越えている。
何かを感知した。奥に行くのが偉く足取りが重たくなり、顔を顰め別の道を北側から西へそれて移動をすることにした。
「なんかあの奥はやばい。わからないが何か異常な大きなものがいる」
奥から人の悲鳴が聞こえ、自らの選択は間違いではなかったと悟る。
勇気は学生証端末に何度といなく連絡をするけれども応答はなく、あきらかに学園側が強引な手段に乗り出したのだと悟った。
「さすがは悪魔というべきか。自分が復帰したらすぐにこのような行動にさせるなんて本当に腹立つ」
ほかの生徒は自分によってまきこまれた被害者でしかない。
「くそっ。責任感を重く強くさせて精神的に不安定にさせるような計画なんだろうがそうはいくか」
下手にクラスメイトとの接触やほかの生徒との接触も避けるように道を歩き続けた。
最初のチームを各々が作り始めたときも、勇気はそれを思っていたから単独行動をした。
「謀略に屈したりはしない」
首を横に振って西側へどんどんと歩を進めた。
進行した先はいいが壁に行きつき行き止まりであった。
大仰にため息をつきながら空を見上げた。
夕日も落ち沈み、視界さえ悪くなってく今の足場で何が起ってるのかわからない。カサカサと何かが音をするたびに勇気は背筋の凍る思いをする。
周辺からこちらに誰かが近づいてくる気配もした。
「いい加減、この場所から離れないとまずい」
すぐにその場を離れようとしたときに、不穏な会話が聞こえた。
「おい、何があるっていうんだ未知」
「ここにしかないのがあるの」
おもわず、近くの木陰に隠れてその二人の様子をうかがってみることにした。
「おい、ここはただの壁で行き止まりみたいだぞ」
「そうだね。でも、ここで正解。これは超越者のための試練なんだから」
「は? 何の話だそれ」
「本当にバカな超越者だよ昭は」
頑なに何かを知ってるかのような言い回しをした女、未知と呼ばれた少女。それに対して昭と呼ばれた男は何も疑っておらずただ疑問を抱いて彼女を見つめつつ次第に顔を青ざめていく。
「お前何を考えてるんだ?」
「さあね。今昭が想像していることじゃない?」
「まてよ。これは別にサバイバルってわけじゃないだろ。学校の授業でただ怪物を殺す授業……」
「あはははっ! 昭はだからバカなんだよ」
「さっきから馬鹿ってなんだよ! お前そんなキャラじゃなかっただろ。昔はもっと」
「私気づいちゃったんだ。あの方が表れたときに自分の求めていた世界の存在ってやつに」
「だから何の話をしているんだよ。さっきから怖いぞ!」
「昭さっきの話だけど学校側はただ怪物を殺すだけの授業っていったよね。でも、時に人間の状況においては人間もまた怪物になるんだよ」
未知と呼ばれた女は何か壁を触り開くと同時に、ホルスターから素早く拳銃を抜き、一発の弾丸を昭と呼ばれた男に放った。
昭と呼ばれた男は危険察知を高めていたから急所をさけたがそれでも倒れるくらいの致命傷を受けていた。
「やっぱり、昭は粘るね」
「お前誰だよ、俺の知っている未知はどこに行ったんだよ!」
「私は未知だよ、昭ずっとね」
最後の拳銃の引き金を男にめがけて彼女は引いた。
脳天を撃たれた彼は脳みそをまき散らし、その場で死体となった。
ゆっくりと周囲を警戒するように見渡す彼女。
「さあ、私は超越者を多く殺した! この場所に入る権利はあるでしょう!」
妙なことを口走った彼女。
次の時に、開いた壁の中に入っていく。
壁はゆっくりと閉じられた。そこにはまるで何もなかったかのような壁がただそびえたつ。
「今のはなんだったんだ?」
その一部始終を隠れてみていた勇気はゆっくりと死体となった男に近づき壁を見る。
誰かの気配を感知して、短剣を抜こうとしたが手を弾かれ短剣を落とす。
死を予感したがすぐに聞き覚えのある声がした。
「私だ」
「え」
その声には聞き覚えがあり、ゆっくりと暗がりに見えづらい顔を目を細めて視認していく。
「風見先輩ですか?」
「ああ、その通りだ。こんな場所で君は何をしているのだ」
「何をって先ほどこの場所に入った人を見たので調査をしようと」
「馬鹿か!ここは教会組織が管理する危険怪物の実験収容所だ。この森にいる怪物はここから出入りしているんだ。ここにいたら一番危険だ」
「え」
強引にその場から離れさせられるように手を引かれて、一度その場から距離を置くように数キロ離れた月明かりの照らされた森林の中に一度腰を下ろした。
「ここまでくれば安心だな」
「あの風見先輩は本物ですか?」
「何を言っている?」
勇気はゆっくりと後ろ手に歩き彼女から距離を置いた。
夕刻前に彼女に化けたシェイプシフターに遭遇していたため警戒心を強めていた。
「そうか、私がシェイプシフターか何かだと思っているのか。私は本物だ。ほら」
彼女は先ほど勇気が取り落とした銀の短剣をひろっていたらしく、それで自らの手を斬りつけた。
シェイプシフターならば弱点となるその銀で切りつければ焼き切られたような跡になるが彼女の皮膚からはただの切り傷から真っ赤な血が流れただけだった。
「先輩が本物だっていうのはわかりました」
「信用してくれたなら助かるぞ」
「それよりも、この授業は1学年の授業であるのに2学年の先輩がどうしてこんな場所に?」
「そうか、学園は何も知らせていないのか」
「え」
「これは全生徒に対して起こしている授業だ」
「っ! 冗談でしょう?」
「本当だ。学園側も本気で仕掛けてきている。私の持っている教会との連絡端末も先ほどから応答がなく連絡手段を断っている様子だ」
「そんな……あのシステムは破壊したのに」
「システムだけではなくもっとまだ別の手段でもこうした隔離にすることはできたようだ。完全に籠の中の鳥ってことだ」
「くそっ、それならもうなりふり構ってられない」
勇気はゆっくりと立ち上がるとそのまま奥へ向かおうとした。
「おい! 何をしに行く気だ?」
「そのまま何もしないままでいたくないのでとりあえず怪物を殺しに行きます」
「まさか、あの収容所へ行く気か?」
「その通りです」
「馬鹿か。あそこには何万匹という怪物がいるんだ。今は収容所のシステムで数匹があそこから出されるだけにとどまっているがあそこの中に入ったらそれだけではないぞ」
「これ以上していたらもっと被害者がでます。自分には関係はないですがそれでもより早めに止める手段があるならば」
しかし、その時に急に身体全体に重みがくる。
地に膝をついて奥歯をかみしめる。
「勇気君、言うことを聞いてくれ。そうしないと自分も強硬手段を取らせてもらう」
「せ、先輩のその力」
「これは私が学園から支給された『兵装』の力だ」
一種の重力操作なのだろう。
体にかかる重圧を程よく操作できるのか腰鞘に納めた刀を触れて操ってるような仕草を起こしていた。
ゆっくりと悪斗は面をあげて先輩の様子をうかがって見上げてみた。
いたたまれない表情でこちらを見下ろす先輩。またしても自分と地下で相対した時に垣間見せたあの苦しみに満ちたような表情を浮かべている。
「……うぅ……」
そんな緊迫した空気の最中に先輩の背後に人影が近づいていた。
その影の目は赤く、鋭い牙を見せ、ゆっくりと先輩の喉元へと食らいつこうとしていた。
徐々にその目を開き始めて目の前にいる勇気と目があった。
風見先輩は勇気に攻撃をしかけてる体制だったために背後の気配に気づいていない。
たった数秒だった。
一瞬で吸血鬼の男は風見先輩の喉にめがけてその牙を突き立てようとした。
重圧に押しつぶされながらも勇気はその行動を止めようと力任せに心の中で叫んだ。
次第にそれは力となって表れる。
「やめろぉおおお!」
重力の圧は吹き飛ばされ、吸血鬼に向かって逆にその力の圧は向かう。
吸血鬼は木にたたきつけられるとつぶれたカエルのような声と同時に身体は紙のようにつぶれて血と臓物をまき散らした。
当の風見先輩は何が起こったのかわかっていない様子でこちらのほうをじっと見ていた。
勇気がゆっくりと歩み寄ろうとしたとき、刀を抜く。
「まずはその場で動くな」
「先輩に危害を加える気はない。今先輩を守ったじゃないですか」
「それは私が判断する。今の攻撃は確かに私を守ったようにも見えたが今君は逆上的で能力の歯止めが効かなくなったように見えた」
確かにその通りだったがこうも疑われてしまうと悲しくなってきてしまう。
一向に警戒心を緩めない先輩険しく鋭い眼光をぎらつかせる。
突然として彼女は足を何かにからめ捕られて中空へ上がる。
そのまま宙づりになったかと思えば赤緑いろの植物の蔦が彼女に絡まり始めていやらしく彼女をねぶり始めた。
植物は生きた食虫植物のようであり、彼女を餌として認識したのか彼女に食い込む蔦はどんどんと強くなっていく。
「くそ……力が……奪われて……」
脱出するのも困難な状況だと勇気は視認する。とっさに道端に落ちていた木の棒を手にして殴りかかりに行くが相手は植物でしかも、暗がりでは本体がどこであるかすらわからない。
集合した複数の蔦が飛びかかった勇気へ殺到した。そのまま身体を切り裂き最後には勇気の胴体を殴り飛ばした。
吹き飛んだ勇気は背中を木々へとうちつける。
勇気はゆっくりと息を吐き、先ほど心の中で叫んだ感情が爆発したときのことを思い出す。
「もしも、超越者としての力が感情によって左右されるのだとしたら心を落ち着かせて、感覚を研ぎ澄ます」
ゆっくりと彼女を拘束していないツタの先に目を向けて、手をかざした。
強い感情をあぶりだすように心に押し出す。
ツタは何かによって弾けた。
「きゃっ」
かわいらしい悲鳴と共に風見先輩が地上へと落下した。
食虫植物はその攻撃によって身をひるませたのかそれ以上何かをしてくることはなかった。
同時に、風見先輩の気持ちを動かすことにもなったのか、彼女がこちらを見て頭を下げた。
「君のことを疑ってすまなかった……」
「疑いたくなる気持ちもわかります。謝罪を受け入れるので頭をあげてください」
勇気は謝罪を受け入れてすぐにまた奥へと行こうとしたが今度は強引な態度ではなくやさしく手を握り締めて引き留める風見先輩。
「そちらへ行くな。危険だといっただろう」
「わかってます。でも」
勇気は彼女の手を払い、いこうとしたがふと先ほどまで遠くに見えそびえたっていた建物がなかった。
「あれ? 消えてる? なんで」
そうする間もなくどこからか『ブーン』という音が聞こえてきた。
今度は何かと思い振り返ると、巨大な緑色をした蜂の大群が迫ってきていた。
「何だあれぇ!!」
「っ! あれは実験の失敗作」
「はい?」
風見先輩が何かを知ってるような言葉をいう。
オウム返しに勇気は詰問すると先輩は答えた。
「あの建物で魔物に対抗する生物兵器を作るうえで失敗した生物だ」
「生物兵器を作るうえでの失敗作ってなんでそんな生物がこの森に……ってそういうことか」
この場所で強いられている授業という名のサバイバルで理解した。
もともとこの場所自体を実験場にしている学校。
例の建物で飼っていた生物を残さず野放しにし始めたのだろう。
それも生徒を殺すため。
「逃げるぞ」
「はい?」
先輩はそう言うとその手を強引に掴むと一緒に逃げるように促したが勇気は足を止める。
「いや、ただの昆虫なら始末すればいいでしょう!」
「ただの昆虫じゃないから逃げるといってるんだ!」
追ってくる蜂は針から何かの液体を放出した。
液体は木々を溶かし始める。
行く聞けば蜂は一匹だけじゃなく、さらに数匹数万匹と増え始めた。
「言っただろう! 逃げるんだ!」
「まじかよ、5種類の怪物ってまるっきり嘘じゃないか!」




