第21話 無茶な訓練1
学園へと戻った初日。
特に何か学園から通達されることもなく平穏無事に復学することができた。
それは一抹の不安を抱かせたが、勇気は復学できたことに今は安堵をする。
教室ではちらほらと勇気を危険視するような目を向けるクラスメイト達であったがだれ一人として攻めるような行動を起こすことはなかった。
それは休憩時間になってもそうである。
さらにはクラスで欠席扱いの木島や白峰についても学校ではただの体調不良による欠席となっており、勇気に何か言及することはなく、ただの欠席者として通す方針のように一日は進んでいった。
5時間目の授業。
いつものように訓練の時間の授業であったが今日は方針が変わり、いつもの訓練とは主旨が違うようで訓練講義担当のグランツェル教諭から防護用の衣服の着用を義務付けされる。
勇気もまた5時間目に入る前にハーシア教諭から直接手渡された5時間目の着用の防護服をあてがわれた更衣室で着用をすることにした。
服に何か仕込まれてるのではないかと不安もあったがそれもなかった。
周囲の視線はより一層勇気を見ていた。
それは勇気の身体にあちこちある切り傷や擦過傷、打撲、縫合の痕が原因だった。
あきらかに武士のそれのような身体に周囲が軽く引いていたのが肌身に感じていたが無視をしながら防護服を着用して、クラス全員で指示された学内敷地のグラウンドに集まった。
「本日は学園長から直々に講義を指導してくれるわぁん。皆さんしっかりと拝聴するようにねぇん」
そういわれて前に出る学園長を見て、生徒たちが緊張を走らせた。
勇気は彼女を睨みつけながら、何をする気なのかと様子をうかがう。
「皆様、本日は私自ら率先した訓練の実施を行いたく、思いましてある場所に複数の怪物を放っています」
生徒たちがざわめきだした。
「実際における怪物退治のシミュレーションの実技を皆様には体験をしてもらいたく思います。各自支給された『兵装』や武器や技術を駆使して怪物退治をしてください」
第2グラウンドで開始された5時限目の授業のないようはざっくりと怪物退治だった。
「先生、突然怪物退治と言われても標的についてやいる場所などがわからないんですけど」
クラスメイトの一人がもっともな質問を学園長に問いかけた。
まさにその通りにほかならず、ただグラウンドに集められただけで、標的と呼べる存在など見当たらずただ、防護服を着させられただけ。
「あなたたちはこの学園でハンターとして育てられてる自覚はあるのかしら?これは一応小テストのようなものです。標的の存在や場所などは言わなくても自分で考えあたりをつけなさいといいたいけれど、最初だから少しは助言をしてあげましょう。まず学園の敷地内のあるエリアに首輪を装着した5種類の怪物を放しています」
学園町は説明をしながら指を一つたてた。
「それぞれの怪物にポイントがついていて、より多くの怪物を倒した生徒には内申点がプラスされます。それからもしも生徒に危険が及びそうになってもその怪物の行動を抑止できるように首輪に装置がはめてあるから安心してください」
との説明をするけれども、生徒のだれ一人として笑顔をこぼさずただ顔を引きつらせるばかりだった。
「それと、この場でもしも逃げ出せばその生徒は学園長命令で退学といたしますわ」
『は?』
生徒が全員間の抜けた返事をする。
あまりにも横暴な言葉に誰もが納得のいく言葉ではない。
グランツェル教諭も聞いていなかったのか、「学園長、それはあんまりじゃないかしらぁ?」というが彼女は睨んで一瞬で彼を黙らせた。
生徒たちは困惑しながら訴えを起こす。
「ちょっとなんですかそれ。強制的に参加して動けってことですか?」
「死んだら本当にどうするんですか?!」
彼女は大仰にため息をこぼすと
「あなた方は何のためにこの学園に入ったのですか? ん? あまえんないでください。教会に入るためのエリートハンターになるのでしょう。ここで逃げるような奴はハンターになれないわからないはずないですわよね?」
学園長の言葉はまさに正論に近く、いくら強引でもこれは行き過ぎた訓練に見えて意外にまともな訓練でもあるのだろうと生徒たちは思い始め、各々が行動を始め起こした。
生徒たちはそれぞれがやはりハンターとしては一番危険とされる単独行動を避け、何人かのチームを組み始めた。
チームを組んでいくクラスメイトをよそにただ一人あぶれる勇気はため息をこぼしつつ仕方ないと腰鞘に手を添えて歩くと後ろからグランツェル教諭が声をかけた。
「一人で行くとは勇気だけに勇気がいる行動ねぇん。やはり、プロは違うのかしら」
「この訓練、明らかに俺は一人でしか行動できないようなもんでしょう」
「おれ? あなた一人称俺だったかしらぁん?」
「そんなのどうでもいいでしょう。今理不尽な訓練さっさと終わらせてきてやりますよ」
勇気はそれ以上の会話を無駄と考え、大きくあたりをつけた区域へと足を進ませていった。
それは第2グラウンドから見えるフェンス先の向こうにある森林だった。
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森林の中に入ると背筋をなめるような冷ややかな空気にさらされた。
かすかに何かの視線を感じ取った。
勇気はそっと目を閉じた。
「おちついて、今なら能力を使ってどうにかできる」
超越者としての能力を有効活用し、敵の位置情報を感知しようとする。
超越者同士との戦闘で能力の使い方を少し学べていた勇気は感知することもできるようになっていた。
「みつけた」
数百メートル先に見た目は人の姿をした怪物が確かにいるのを感じ取り、そのいる方向へと走る。
走りながら短剣を構えて、目的に向かい銀の短剣を振りかざすが、相手の単発の男は力強い腕力で勇気の腕をつかみ振り下ろす短剣を食い止める。
「うぐぐぐっ」
「やはり、吸血鬼か」
荒々しい感情で、相手の怪物の正体を見破りながら銀の短剣を喉元へと突き刺そうとばかりに力をさらに押し込める。
相手は吸血鬼。普通の人よりも何十倍も腕力を持っているので逆に推し負ける。
腹に鈍い痛みと同時に自信が蹴り飛ばされたのだと悟る。
吸血鬼は素早い動きでその場から消えていた。
「くそ。逃げ足が早すぎる」
悔しさに叱責の言葉を吐いたとき、どこからともなく誰かの悲鳴が聞こえ、またしても悲鳴が上がる。
「何人かやられてないか? 本当に学校側は生徒を生かす気があるのかないのかってとこだな」
勇気は学園の状況をみれば、生徒を生かすなど可能性は低く見積もっていた。
この防御服や怪物に首輪などの装置で止める効力があるなど嘘ばっかりだ。
怪物に首輪などついているがそれはただの首輪でしかない。
学園長は生徒を殺しにかかっていた。
「とんでもないことになってきた。これをどうにかしないとマジでまずいかもしれないな」
ポケットからある指輪を取り出してそれを装着する。
「『天剣』」
その呼び声にこたえるように指輪は輝きだして、一振りの刀が顕現した。
その指輪は『兵装』だった。
勇気に学園が支給した専用の兵装である。
ずっと、自らの短剣のみで戦ってきた勇気にはあまり必要のない代物であったがこの状況下では必要せざる得なくなった。
名称を『天剣』。刀身は鋼のように鈍く銀色に輝き、鍔や柄は青色で華やかな金色の花柄が刺繍されている。
通常の刀としても扱える一方である能力を有していた。
刀を手にとって構えると地面に突き刺した。
刀身に向けて、自分の内なるエネルギー、魔の力を刀へと流し込んでいく。
刀身が震えだしあたり一帯に冷気を生み出していく。
霧ができたように周辺一帯が覆われて視界が見えなくなっていく。
かすかに霧に揺れの動きを見つけると、『天剣』を地面から引き抜いて、今度は鍔を手の甲でたたいた。
一瞬で、青い輝きを放つ。
「ぎやぁあああああ」
霧が先ほど動いたか所で何かの悲鳴が上がり、存在があらわとなりのたうち回る黒髪の女性の存在。
勇気は近くにその存在がいるのを超越者としての能力でわずかに感じ取っていた。
だからこそ、『兵装』であぶりだした。
「やはり、人食い鬼」
人食い鬼の特徴として、姿を隠匿することができ、他人へと擬態も得意とする。
なによりも弱点は光や火。普通に人間と同様に首を落とせば死ぬ。
勇気はその人食い鬼を見てこの怪物も学園が用意した怪物だと首輪を見て認識し、兵装を構えた。
「わるいが死んでもらうよ」
目を抑えてのたうち回る怪物へと容赦なく刀を振り下ろすとまずは一体を討伐した。
その証明で、学園から配布された電子手帳からアラート音がなり、通知で「ポイントを獲得しました」なる通達が来る。
「このポイントって今回の訓練の奴か。今のは500ポイント。ポイントってマジでふざけてる。こんな命がけをされてるっていうのに」
学園長を恨みながらさらなる怪物を見つけに動き始めたとき背後を何かにとられたのを気取る。
だが、気づいたときに遅く、首筋を何かが突き刺した。
突き刺したものを素手で咄嗟につかむとそれをへし折った。
「いぁあああああ!」
甲高い叫びのもとを見れば、またしても女性で今度はOL風の恰好をした単発の女性が右手の手首から妙な突起物を生やしており、突起物の先端が折れて、赤い液体を大量に噴出していた。
それは血なのか怪物独自の体液なのかはわからずひたすらその気色悪い液体を吹き出しながら手を抑えわめく。
「ぎゃあぎゃあ、うるせえ!」
勇気は怪物へと容赦なく三度、刀を振り下ろすと首を落として倒した。
「やはり、教えの通り相手がどんな怪物でも首を落とせば一発OKだな」
殺した怪物の死体の素性を確かめるように観察するとようやく正体がつかめる。
「コイツはレイスか。こんな海外の怪物まで用意しているなんて学校側も相当やばいな。訓練の度を越えてる気もするけれども」
レイスは西欧において古くから伝わる幽霊のような存在。
実際は、腕に仕込んだ突起物で人の首筋を突き刺し脊髄を吸う怪物である。
「これで、3種類。この3種類以外にほかに何がいるっていうんだ」
背後からがさっと音がたち、咄嗟に手を構えて超越者としての超能力の発動を試みようとした。
未だに不安定な力のために的外れな方向へと能力の波動はいき、気が倒れる音が響いた。
背後の音の正体はスッと姿を現すと、両手をあげて興産の仕草を見せながら抗議の言葉を開口一番に言う。
「急に何をするんだ」
「風見先輩? なんでこんなところに。今ここは1年生の訓練時間のはずだけど」
「そんなのわかっている。でも、話すタイミングは今しかないと思ってこうしてきたんだ」
「話すタイミング?」
「ほら、明朝別れ際に計画とか今後のことで話し合う相談をしただろう」
その言葉を聞いてようやく思い出してくるが、ふと勇気は目の前の存在を怪しみだした。
「ちょとまて、先輩そういえば、会うときに約束した合言葉を覚えてますか?」
「合言葉? ああ、そういえばあったな。その必要はないだろう。こうして今は会えたのだしお互いにわか――」
勇気は即座に銀の短剣を放つ。
風見先輩らしき女へとそれは突き刺さるが、彼女は血を流しながら林の奥へと逃げるように姿を消した。
「やっぱり怪しいと思ったんだ。教会の人間の先輩がいくらなんでもこんな罠も同然な訓練な場を会合場所に設けるはずはない」
付き合いが短くても政府の人間の考えはおおよそ経験でよめた。
それは自分自身が長い間、そうした生活環境におかれたからでもあった。
にらんだとおりに、風見先輩になりすました偽物であり怪物だったのだ。
「今度はシェイプシフターか。かなり厄介な怪物じゃないか」
もしも、自分の知り合いに遭遇したらまたあのような言葉で通用するかは怪しいものである。
「同様のシェイプシフターにはもう無理だろうな。別のなら何とかなるけれども」
勇気は空を見上げながら夕日が一刻と沈み始めるのを見つめつつ、学生証端末を確認する。
そろそろ、五時限目が終わろうとしている時間だとみて、安心に肩をなでおろしたとき、電子学生証に流れてくる電文。
『生徒は現在の森林にいる怪物をすべて倒さぬ限り授業の終了はしないものとする。中断しやめた生徒および敷地外に出た生徒は学園を強制退学とする』
というあまりにも理不尽すぎる伝達文章が送られてきたのであった。




