第19話 謎の究明3
施設の外へ出て、朝日が出る直前の暗がりの森林の中に携帯電話を片手に怒鳴るアリスさんがいた。
「ふざけないで! しっかりと説明をして! 父さん!」
説明もなく通話が切れたらしく、いら立ちをその辺にある木々へぶつけるように蹴る。
携帯電話を力強く握り地面にたたきつけようとしたところで彼女の目は勇気と目が合う。
「勇気……」
「アリスさんが心配で来たんですが、大丈夫ではないですよね」
「父さんへと聞いてみたけど、相変わらずはぐらかされてまともに会話にすらならなかった。本当に腹立たしい。でも、父さんが私という存在を同伴させることで勇気を学園に入学させるきっかけを与えたのは間違いないと思う」
そのことを言うアリスの表情はどこか悲しさと悔しさの入り乱れた感情を精一杯に勇気へ見せないように取り繕うようにしていたけれども勇気には長年の付き合いでわかってしまっていた。
「アリスさん、無理をしないでください。アリスさんはこのことから手を――」
彼女を思い、今の状況からを身を引かせようとした勇気。
それは余計だった。
アリスが迫って勇気を力強く蹴り飛ばした。
「それ以上のこと言ったら勇気とは縁を切るよ」
「でも、これはアスモデウスが自分を狙っていることで起きていることです! アリスさんにはただの危険性が伴うだけです」
あえて人質という表現は避け、遠回しな言葉でアリスに冷たい言い回しをした。
「わかってる。勇気の命の危険になるようなことに私の存在がいる。でも、私はあなたの姉で私はあなたを愛している! だから、そばにいさせて守らせてよ! だから、逆にこの手を取って一緒に逃げて!」
突然の告白。
勇気にはわかっていた。
長いこと一緒にいたのだから互いの気持ちがないわけがないと。
勇気はその言葉に対する返事に対して彼女を見て思う。
「すみません、僕は復讐をします。そのためにいままで生きてきたんです。だから、そんな自分は姉であるあなたを危険にさせたくない。だから、学園から今すぐ出てどこか遠くへ逃げてください」
彼女を思うために勇気も同じ気持ちを押し殺しそっけない冷めた態度の返事をした。
それはまさに彼女を傷つける。
涙を浮かべ、盛大な平手打ちが勇気の頬をたたいた。
じんじんとしびれた頬を抑え、走り去るアリスさんの背中を悲しげな表情で見送る。
背後からゆっくりと迫る気配に気づき、腰鞘の短剣を引き抜く。
「だれだっ!」
「久しぶりねぇ、ゆうきくん」
「その声は、アスモデウスっ!」
木陰に隠れ、顔が見えないが背丈は短めな人の姿。
声は昔と違い女の声に聞こえる。
勇気は隠れたアスモデウスに迫ろうとしたが足首が何かに絡み取られ動けない。
「ああ、今は近づいてきてもらっては困るよ。ただ、今日はおめでとうを伝えにきたのさ」
「おめでとう? それはあのお前がけしかけた二人を殺したことに対してですか?」
「ああ、その通り。私の実験体でも強さを誇った超越者の二人を見事倒した君への称賛をしたくて参ったのだけど、あまりよくなかったようだね」
「ふざけないでください。あれに何をよく思う要素がありますか! 自分は人を殺したんです」
「人? 彼女たちは人じゃないだろう。自らの欲で多くの同胞を殺した鬼という名の超越者さ」
「鬼に変えたのはお前ですアスモデウスっ!」
勇気はどうにか片腕が動き短剣を投げた。
アスモデウスはその短剣を頬がかすめたのか悲痛な叫びを一瞬上げた。
「これはすごい! あははっ、やはり私の最も見込んだ超越者っ」
「何が超越者ですか。自分に何をさせるつもりかはわからないですけど自分はお前の思うようになどなりません」
「私の思うようにか。でも、いずれはなると思いますよ」
アスモデウスは何かを放り投げた。
それが足元に落ちる。
勇気はそれを見て驚愕した。
「お前、アリスさんに何をしたぁ!」
足元に落ちていたのはアリスさんが所持していた携帯用端末である。
それに一本の通話が入り始める。
もっとも勇気が今いら立ちをぶつけたいもう一人。
「君の大切な人は私の手中にある。もしも、助けたければ今宵から始まる新たな超越者との戦いに勝ち残ることだ。決して僕を無理にでも探そうとしたら彼女の身がどうなるか思い知るんだね」
そう言い残し、アスモデウスの気配が消え去ったと同時に勇気は金縛りから解放される。
慌てるように携帯電話をとって、呼び出し続ける通話をうける。
『あ、ようやくつながった! おい、アリスお前に取り付けた信号が消えたが何があった?』
「父さん、僕です。勇気です」
『勇気? お前がなぜ出る? アリスはどうした?』
勇気はその今の状況に対しては知らずとも無神経とも聞こえてしまう言葉にいら立ちが爆発した。
「父さんが僕をこんな場所に入れるために利用したばかりにアリスさんはあのくそ悪魔につかまったんですよっ!」
『なに?』
「アリスさんをどうして、どうしてこんな場所に!」
『そうか、あいつは捕まったか』
「は?」
あまりにも冷静な態度に勇気は驚愕した。
実の娘が捕まったというのにただのそれだけの言葉。
「アリスさんが捕まったんですよ? ほかに言葉は?」
『何。あいつもプロだ。悪魔につかまったときの対処は教えたつもりだ、何も心配はないだろう』
「心配はない? 本気で言ってるんですか?」
『本気だ。自分の娘のことだ。心配などない』
「っ」
この源蔵という人物の本質を勇気はすっかり忘れていた。
この人は自分を育ててくれはしたけど本質はずっと変わらない。あくまで教官で先生なんだ。
そう、『父親』という側面など見せたことなどなかった。
「ふざけるなっ!」
『おい、父親に向かってなんて口の利き方だ』
「いい加減にしてください! そんな言葉でもう誘導されたりはしない。あなたはいつだってそうだ。僕たちをそんな言葉で縛り付けて教育をしてきた。でも、あれはただの指導でしかしない」
『何が違う? お前が今そうして生きていられるのも私のその指導があってこそだろう』
「ええ、感謝しています。でも、僕たちを人形のように利用する行為。そして、こんな命を粗末にしてしまうような任務に血を分けた娘を送り込むのはわけが違う!」
はっきりと告げるそのことに電話の向こう側で笑い声があがる。
『やはり、神近の息子だ。そういうところが精神的に弱い。甘い』
急に勇気の旧姓を言い、彼の言う『神近』はおおよそ勇気の実の父を指したこと。
「父さんが何ですか?」
『昔に話をしただろう。お前の実の父とは同じ組織の所属の同僚で仲間だったがあいつは昔から情に厚くほだされやすいやつだった。オレはそんな奴のそういうところが常々嫌いだったんだよ』
「源蔵さん?」
いつもの『俺』という言い回しではなく荒々しさがあるような『オレ』という一人称になり性格にまで豹変したような言葉遣い。
『だが、奴の技ややり方は心底惚れていた。だからこそ、仲間としてはやっていけたが奴は妻ができた瞬間腑抜けやがった。それが嫌で嫌で気に食わなかった。それにてめぇのような息子もできてますます精神的に腑抜けていく始末。だが、奴は優秀だった』
「なら、問題ないでしょう」
『いいや、問題があったからこそ奴はアスモデウスなんて存在に負けたんだ! あの奴の優秀さはそういう非常になれないところにある。だから、残されたお前を育てる時にオレはお前のそういう弱り切った精神性を鍛えることにした。だが、育たなかったようでがっかりした』
「今回に無理にアスモデウスに接近させるような訓練にかこつけ、学園にいるやつに接触させたのもその一環であるといいたいんですか?」
『察しがいいじゃねぇか。その通りだ。お前は腑抜けにも俺の娘に惚れ始めていたのは気づいていたから奴を餌にしてもう強硬手段に出したわけだがミスったようだな』
「あなたは最低の人です!」
『最低だ? それはハンターにとって誉め言葉だ。第一、お前のせいで娘も変わり始めていたのは気に入らなかったんだ。だから、あいつはお前の同伴役にしてあいつの性根もたたきなおすのにちょうどよいと思えば本当に使えねぇ―娘だったか』
「あんたって人はぁ!」
『おうおう、最初のオレに会い立ての狂犬が出てるぜ、勇気。俺はそういうお前が好きだ!』
「僕は絶対にもう教会の指示に従わず独断で彼女を助けます。もうあなたたちのことなどとは縁を切らせていただきます」
『なら、どうやって助ける? 今まではこちらの支援もなくやってこれたのか? あらゆる物資はだれが出して支援したと思う? 教会やこのオレだ』
「ぐっ」
それをいわれると弱かった。
でも、そんなの捨てでも今回は乗り切らねばならないと思える。
『あはは、無謀もいいところだ。縁を切るなり勝手にすればいいさ。こちらもアスモデウスは消えてもらいたい悪魔だ。勝手にお前のような存在が動いてかき乱してくれれば倒せる穴が開くかもだしな』
「どこまでも、人を馬鹿にするなっ!」
『馬鹿にするさ。お前は未熟者なんだからな』
「っ! 僕は未熟者でもいい。あなた方のように非常に人を殺戮のような現場に放り出す人にはなりたくはない」
『はっ! 計画ってのを分からねぇガキが。時に非情さこそ必要な計画なんだよ』
「さようなら、源蔵さん」
それ以上の言葉はただの不愉快でしかなく、勇気は通話をきり、携帯電話を落とし踏み砕いた。
タイミング悪く、風見先輩と出くわす
「そういえば、あなたも教会所属の人でしたね、今の会話を聞いていましたか?」
「まあね。一言一句聞かせてもらったさ」
「なら、わかります通り僕は今後単独で動きますよ。教会のような非情な人間とは手を組めないので」
「まぁ、待ってくれ。いつ私が教会に加担しているといった?」
「は? だって、教会と連絡を取ってるんでしょう?」
「私は確かに連絡を取ったりはしているが教会のやり方には思うところがあるのは私も同意だ」
勇気は彼女の目を見ながら、質問をする。
「なら、あなたは教会を捨てることができますか? 僕は教会と縁切ってでもあの悪魔だけは殺したいと思ってます。そして、アスモデウスを救いたい」
「ああ、できるさ。私にも理由があるからね」
「理由?」
「それは言えない。だが、協力者として変わらず協力はする」
勇気は彼女の真意に嘘はないと思った。
だけど、許せないことは一つまだある。
「でも、あなたは僕に人を殺させたのは忘れてないですよね? たしかにあの二人木島さんと白峰さんは多くの人を殺していた殺人鬼であったけど、でもあれは狂わされた結果でしかない。装置の件ももっと早めにこちらへ伝えておけば二人を救う方法も考えられたかもしれません」
「それは結果論に過ぎないと思うがね」
「だったとしても、僕は救える人は救いたい」
「そうか。でも、私は救えないと判断したら私殺すかもしれないぞ」
「そうしたら、僕が止めます」
「ふっ、面白い。私も目的には教会は邪魔だし当面は協力しようじゃないか」
「わかりました。それよりも先輩」
「なんだ?」
「協力してくれるなら定期的に連絡を取る手段も考えるべきですよね。どうにかできる方法を知っていますか?」
気持ちを切り替えると勇気は単刀直入に今後の計画を算段立てる。
「ずいぶんと冷静になれるんだな」
「冷静にならないと今は彼女を救えないですから。それよりも」
「ああ、ある。まずは君と私は学園に戻るべきだ。戻らないと気取られる可能性がある」
「そうか。そうですね」
いつのまにか日差しが照り付けていたことに気づき、勇気は目を細めながら来る新たな計画に気持ちを切り替え、学園に向かい歩き始めた。




