第15話 学園の先輩
あれから数時間。
翌日の朝7時を回っている。
現在は勇気とアリスはあの場で現れた協力者が住まう寮部屋にいた。
そこでベットに寝かせた勇気の治療を終えると、次はアリスも簡単な治療を受けていた。
「これであらかた治療はよいと思う。後遺症なども残らないと思うしこれで二人とも大丈夫だと思うぞ」
「それにしても驚いた。あなたがまさか、教会から派遣された人だったなんて。しかも、医療技術まで」
「こちらも最初に出会ったとき、こちらも知らされていなかったから変な勘繰りをして不遜な態度をしてしまったな。申し訳なかった。この医療術は教会で伝授されたものだ」
その協力者は長い青髪をかきあげて、医療器具をしまいながら最初に出会った疑いについて謝罪を口にした。
その人物とは校門で勇気たちに威圧的な態度をとった風見凛その人だった。
彼女は勇気たちとは別で、以前から『教生学園』の素行調査で潜入していた教会のハンターだった。
「それにしても、ずいぶんと学園では傍若無人にふるまってるな。まだ、学校へ入ってそう時間もたってないのに何をしているんだ? ここには一応事件の調査側で来たのじゃないか?」
「それは面目次第もないです」
「まぁ、だいたいの事情もこっち把握しているがまさか容疑者扱いされるとはな。同じプロとしては恥ずかしいぞ」
その言葉にただひたすらアリスは何も言えず落ち込んだ。
「あれ、ここは……」
「ようやく、目覚めたか。ここは学園の私の管理する寮の一室だ。監視システムも私がチェクするから外部から情報は漏れることないから心配ないぞ」
「え……あなたは……っ!」
勇気は跳ね起きて腰鞘に納めたナイフを取り出そうとしたが自らが上半身裸で包帯にぐるぐる巻きにされた上に丸腰な状況に気づいた。
当のアリスは何か落ち着いた態度で目の前の先輩に接していることで状況を即座に察する。
「そういうことなんですね。先輩はこちら側の人間でしたか」
「さすがはあの神近の血を引くハンターだね。察しがいい」
「神近って、なんで俺の前の……」
「そりゃぁ、これでもハンターだ。それなりに教会から情報は得てるぞ」
「というか、神近の血がどうのってなんです?」
「ああ、聞かされてないのか。教会ではきみの両親はすごく有名なハンターだったと記録されてるぞ。特にその知識と手腕はハンター業界では随一だったとな」
「源蔵さんからはそんな話、一つも聞かされてない」
「そうか。それはたぶん、君を成長させるためなのかはたまた別の要素があったか。私にはわからないがね」
「あの野郎……」
つい、怒りで語気が荒っぽくなる。
「そうだ。そういえば、現場はどうなったんですか! 名倉さんは?」
「それは、君も分かってるだろう。あのような状況では彼女は助かっていない。例の悪魔に殺された」
「っ!」
勇気は悔し気にベッドへ拳を下ろす。
ベッドのスプリングが反発して軋む音を鳴らす。
勇気はバッと顔を上げ、彼女の今の言葉をもう一度聞きなおした。
「今、『例の悪魔』に殺されたといいましたか?」
風見はまずったと表情をしながらもいまさら取り繕うの無理かとあきらめたように大仰にため息をつくと同意をする。
「ああ。言った」
「先輩は犯人を知っているんですか?」
「犯人の存在に目星はついている」
「それは誰ですか!」
「悪魔アスモデウス」
「っ!」
勇気は言葉を失い、ベッドから足を下ろすと近くにあった自分のワイシャツと武器を着飾って装備し、部屋を出て行こうとした。
そこを慌てて、アリスと風見は止めに入った。
「落ち着け! 相手は誰なのかも想定ついていないのに行っても無謀だ!」
「勇気、馬鹿な真似をしないで。その身体で何ができるの?」
二人に取り押さえられ勇気も冷静に頭を冷やす。
その場で腰を下ろすとゆっくりと二人を前にして座りなおした。
「風見先輩が得ている情報を教えてくださいませんか?」
「はぁ、仕方ないか。まず先に言うとこの学園に入ってから君たちは教会と連絡を取ったかい?」
「ええ。私が端末である程度報告を流して、そのあとに一応資料を送ってもらったわ」
「そうか。その資料は本当に教会から送られてきたものか?」
「え。何を言ってるのよ。そんなのそうに決まってる」
アリスは断言するように端末の画面を見せ、教会からの送信元アドレスを見せた。
「そのアドレスは偽装されたものだ」
「はぁ? だって、しっかりとした事実の資料だったのよ。名倉さんに確認だってして」
風見はアドレスのほうを指さす。
「ここの文字。これはアルファベットではないか?」
「え」
アリスはよく見れば、本来そこは数字の『0』なはずがアルファベットの『о』になっていた。
「なんで、こんな初歩的なミスに」
「この環境でその支給された端末から送信されるものを信頼しきっていたという弱点だ」
「この環境が良くないみたいな言い方をしていますが、何かあるんですか?」
勇気の素朴な疑問に風見は自分の端末を操作すると、何か大きなモニター画面が出てくる。
「これは?」
「君たちが学園長から見せてもらったのとは別の学園の管理システムの画面だ。学園の管理する兵装を使い、常に生徒が使う電子機器へジャックできるものになっている」
「なっ!」
その画面には生徒が送っているであろうメールの文章から生徒のプライベート空間までが映像に映し出されていた。
「この監視映像を入手するのに私もいろいろと苦労をしたのだ」
「ちょっと待ってください。これは大いに問題ですよ! 今すぐ教会に」
「今の話を聞いていなかったか。この学園にはあらゆる電子機器へジャックできる兵装がある。それがある限りは教会への報告事項はすべて消されている」
勇気は混乱をした。
なぜ、学園長はこの事実を隠していたのか。
そもそも、なぜこのようなことをしているのか。
「私がこの事実に気づいたのも去年だ。失踪事件に関してはかなり早い段階で起きていた。そのことについて教会へ救援を依頼しても何度もしても、音信不通で電子機器への何か工作をされていると考えた。私は学園で優良生徒を演じて学園長に接触をしてこの事実を知った」
「もしかして、先輩が失踪事件について教会へ報告を?」
「そうだ。だが、来てくれたのもよいがやはり準備が不足していたようだな。それに教会も事の重大性を理解していない。いや、理解をしていながら放置をしているのか」
「教会がそんなこと……」
勇気は否定を最後までできなかった。
実際に勇気に隠し事をしていたりした経緯がある。
「思い当たることでもあるか?」
「風見先輩、思い当たることっていうか、隠し事みたいなことをされていたので」
「隠し事?」
「勇気の両親が悪魔アスモデウスに殺されたということ。勇気はずっとその存在がわからず探していたのに教会に隠されていたのよ」
「なるほど。ゆうき君の暴走をさせないための配慮か。でも、おかしいと思わないかい?」
「おかしい?」
「能力を暴走させないためにといいながら、なぜ新たな任務を与える? 余計、能力を暴走させる要因ではないか?」
「それはこの学園で鍛え上げるのも並行して行えるからで」
「それならば、隔離した島でも追いやってそこでできると思わないのか?」
風見先輩の言われた言葉に改めて深く考えをアリスはめぐらした。
「そうよ、なんで考え付かなかったの」
「君の場合、彼に対して異常な執着がある。そこをついて言葉巧みにこの任務に無理やり引き込ませたのではないか?」
「なっ! そんな執着はしてない!」
即座に否定をしたが思い起こせば、無理やりこの学園の潜入任務の同伴者に選ばれたのはその通りだった。
「ゆうきくんはアスモデウスの復讐心を理由に利用されてここに来させられたな」
「先輩はこの件に関しては教会は何か別の思惑があるというのですか?」
「私はそう思っている」
勇気はだんまりを決め込んだ。
「教会に関してはそんなところだ。まぁ、それだからその情報端末も教会もあてにはしないほうがいい。それと、潜入調査で私の見立てでは悪魔は複数この学園にいるぞ」
「「っ!」」
勇気とアリスは驚いたように風見先輩をみる。
彼女は「説明しただろう」という。
「まず、学園の管理システムの隠蔽。なぜ、学園長がそのようなことをするのか。彼女がまた事件にかかわる悪魔だからこその有力説だ。そして、ハーシア教諭。失踪事件の元となった禁則事項破りの男子生徒を集めた男子寮の監督官だった彼女も何も見ていないというからに怪しい。先の事件でゆうきくんが見たと判断したからには悪魔だろう」
「じゃあ、この学園には二体の悪魔がいるということですか?」
「そうとは断言できないぞ」
「なぜですか?」
「この資料ね」
アリスが言った言葉で勇気も気づくけれども、すぐに否定をした。
「いやいや、だって彼女は亡くなったんですよ。そのような死者を冒涜するような真似」
「でも、この疑惑の資料にある情報を通し彼女は本当だというように君たちへ言ったのだろ」
「確かにいましたけど、けれど彼女は殺されたんですよ」
「だれも、彼女は悪魔だったといっていない。その場で彼女を殺した悪魔がいる可能性を示唆しているんだ」
「それは学園長かハーシア教諭ではないのですか?」
「私はその時に学園で二人をしっかりと見ている。つまり」
「容疑から外れる。それどころか、他の悪魔がいる証拠」
「その通りだ」
勇気は奥歯をかみしめながら、現場の様々状況を思い起こしながら考えた。
けれども、どの人物も怪しく思えなかった。
「それに生徒の可能性も考えられる」
「生徒ですか?」
「そうだ。そして、私からのお願いなのだが、私は明日に学園長に呼び出されて行動ができない。これはおおよそ、君たちの件だろう。君たち二人、主にゆうきくんの謹慎の状況を私なりにどうにか明日はしてみる。だから、別件を君たちにはお願いしたい」
「別件というのは?」
「明日ある生徒二人が例の監視システムのメンテナンスに行くように指示をされているという日報を学園長から受けているのだ」
「え」
「まって、その二人のどちらかが悪魔の可能性もあるってこと?」
「もしくはただ操られている可能性もある。だから、その調査に行くことをしてほしい」
風見先輩のその願い事に不穏さを感じえなかったが、彼女の明らかとした情報はすべてが真実味を得ていたので勇気たちはその協力の申し出を引き受けることにしたのだった。




