第14話 名倉佳奈美2
あらゆる技術工作で勇気が名倉佳奈美を誘ったことで名倉佳奈美は目的の場所にしっかりといたことを勇気の目はしっかりと視認した。
「よかった来ていますね」
場所は横浜の某繁華街地。学生が夜に来ていいところではない。
警察にでもばれたら厄介になるのは間違いない。
そのため、名倉佳奈美も遠めからでもはっきりとわかる年齢を少し大人っぽくみせるカジュアルな服装で来ていた。
「なぁに、してんの?」
「うぉわ!」
背後から肩をたたかれ、驚き反射的に裏拳をくり出したがその手をつかんだ相手を見て、呼び出した相手だと認識する。
「勇気、ちょっと危ないでしょ。呼び出しておいて反撃って何? こっちは抜け出すの大変だったのに」
「ごめんなさい、アリスさん。神経質になってたみたいです」
「まぁ、今の勇気はいろいろ疑われてるから仕方ないか。それで、あなた本当に勇気よね?」
「アリスさんまで疑うんですか?」
「一応、わからないでしょ」
勇気は彼女が常に懐に忍ばせているナイフを指さした。
「なら、試しにそれで僕の首にでも触れていいですよ。あと、聖水でもひっかけますか?」
「そんなことする必要ないかも。見ていて勇気ってわかった」
「ソレどういうことですか?」
「義姉としての目ってやつ」
「ますますわからないんですけど」
第6感のようなものを自負にした発言をしながら彼女は堂々と名倉佳奈美のほうへと近づいて歩いていく。
おもわず、その腕をつかむ。
「ちょっと、アリスさん?」
「なんで、引き留めるのよ? 待ち合わせで呼び出した相手でしょ」
「少し、様子を見たいんです。彼女がもし悪魔であれば、こちらの遅刻へいら立ちを見せるかもしれないです」
「はぁ? あのね悪魔だろうが人間だろうが10分も待たされたらふつうは怒るよ。そんな手間なことしないで行くよ。ったく、警戒心強すぎ」
そういわれて、逆にその手を強引につかまれ返され、そのまま引きずられるように名倉佳奈美のもとに移動を開始する。
彼女がこちらの存在に気づいて、アリスの存在を見ると血相を変えて逃げようとした。
何かを勘違いしていると思って即座に、勇気はアリスの手を払い、走り出して名倉佳奈美の手をつかんだ。
「ごめん、しっかりと説明をすべきでした。アリスさんも事情を知っている協力者なんです。だから、悪いようにはしないからまずは話を聞いてほしいです」
「協力者? でも、星城くんと星城さんは接触禁止だされておりますし、二人はその……」
「悪魔ですか? でも、名倉さん、僕の予想であればあなたはそう思っていませんよね? それどころか、本当の悪魔を僕は知っていると思ってるんですけど違いますか?」
「っ! それは……」
勇気はこうして名倉佳奈美を呼び出した目的は、保健室での出来事や学園にいるであろう悪魔の所在を彼女は深く精通しているとにらんでいることだった。さらに、名倉家の当主であった父親の政治活動での事件はそれに起因している何かと勇気は推察していた。なので、そうしたものを示唆するような手紙を彼女へと送っていたのだ。
「手紙にも申しましたようにあなたの周囲で不可解に行動を起こした父親の件を含めてそれらを僕は理由を知っていますと文面を伝え、お話をしたいといってこの場所を指定し、あなたは来てくださいました。なら、僕やアリスさんが悪魔じゃないと判断したってことじゃないですか?」
次第に名倉佳奈美の手から抵抗力はなくなった。
「話は終わった?」
「あ、はい。終わりました」
「そう、なら適当に個室のある店にでも入って詳しくお話をしようじゃない」
「そうですね」
息の合った二人の会話。
それをみた名倉佳奈美はふと――おもった。
「……お二人は付き合っているんですか?」
「はい!?」
勇気は思わず素っ頓狂な声が出る。
周囲の目線が一気に注目した。
「ええ、そうよ。勇気は私のだから渡さないから」
「いやいや、違いますよ、アリスさんも何間違ったこと言ってるんですか。名倉さん僕たちはそのぉ義理の姉弟なんですよ。ほら、今日の朝の自己紹介でそう説明しませんでしたか?」
名倉佳奈美は勇気とアリスを再度見て何かを納得したかのように息を吐いた。
「そういえば……それなら、よかった」
「え?」
「あ、いえ、なんでもないです」
その名倉佳奈美の態度に一瞬で疑問を抱いた勇気だったが、敵でないとかそういうのを安心した言葉なのだろうと解釈をした。
ただ、ひとりアリスだけは気に食わなく眉間にしわを寄せていた。
「アリスさん?」
「馬鹿っ」
「痛っ!」
軽くつま先を踏まれ、勇気はわけのわからない気持ちにさいなまれる。
すたすたとどこかへと彼女は先に歩いて行ってしまう。
「ちょっと、アリスさんっ! まだ場所決め――」
「目の前にちょうどいい場所あるでしょ。そこよ」
「カラオケ?」
目の前にはホログラム投影された電飾掲示板が掲げられたビル上の建物の店。
俗に歌とかを歌ったりして宴会する店。
アリスが指定したのはそんな店だった。
たしかに、個室だしお話をするにも都合はよかった。
「あの、私、お金持っていないんですけど」
「名倉さん、それなら大丈夫です。そこは誘った僕が払いますので。では、行きましょう」
いつもの任務の癖で手を出した。
彼女が戸惑ったような表情を見せてすぐに勇気も気づいた。
「あ、ごめん。普通の任務の癖ではぐれないようにと思ったんですが、一般的に考えたら変な行動ですよね。すみません。行きましょうか」
手を引っ込めようとしたがぎゅっとその手はつかまれた。
「あの、違います。少し驚いただけですから。あの離さないでください」
「あ、はい」
そして、少し周りから見たら甘酸っぱい雰囲気を漂わせながら二人ともアリスが向かったカラオケへと歩みを進めた。
******
あれから、数分後
カラオケ店にやってきた勇気らは3人でカラオケで即座に話をすることはなかった。勇気がまずは「あまり最初は堅苦しくいくのもきついでしょうから交流も兼ねて歌いますか?」などといい始めるが、やはりどこかぎこちもなかった。
「勇気」
「はぁ、そうですね」
空気がぎこちなく重苦しくなっていたのでさすがに空気の読めない行動だと悟り、マイクを下ろし、率直な疑問をぶつけ始めた。
「まず名倉佳奈美さん、僕はあなたが悪人だと思っていないです。それどころか、名倉家は悪いとは思っていません」
その言葉を聞いた瞬間に顔を今まで伏せていた名倉佳奈美が顔を上げた。
「え、あの私の家の事情をご存じで言ってるんですか?」
「はい」
「私の父が何をしたか知っていますか? 死刑囚を利用した非人道的な人体実験や他国との秘密な核政策。他国との戦争を誘導するような兵器開発の協力や勝手な土地改革などを起こし戦争を起こした犯罪者ですよ」
「そうですね。それらを起こしたがゆえに今の彼はICCによって逮捕状が出されて捕まりました」
名倉佳奈美の父は名倉司は戦争犯罪の容疑で現在は某日本の刑務所に収監されている。
だからこそ、一般的な面で見れば彼女の一族を容認する発言は国への反逆罪とか、犯罪を擁護する発言ともとれるサイコパスなことなのだ。
「わかっていてそう言えるんですか?」
「あの、ビビらないでほしい。僕は決して彼のやったことを擁護するわけじゃない。僕はあの時は名倉司ではない誰かが彼を操っていたのではないかと思っているんだ。だから、彼は悪くないと思っている」
「っ。どうして、そうおもうんですか? ]
「そう思ったのは彼の豹変的活動ぶりかな。彼は最初こそ、フィアット家と協力して国際的な医療を補助する手助けとなる兵器開発に尽力したり、裏では超常現象を対策とした組織拡大に尽力をしていた方だった。それがある場所への政治活動を行った後から破壊的活動を起こすようになっている」
勇気はアリスが集めて、最初に勇気に見せたあの資料をここまで来る途中にコピーしたのをテーブルに広げた。
それを名倉佳奈美は見て驚いたように息を吐く。
「よく、これだけの情報を仕入れましたね。さすが、教会が推薦するハンターなんですね」
「いや、これだけ集めたのは僕じゃなくアリスさんなんですけどね」
「でも、その情報からあなたは父の変化を真っ先に疑いました。今までの人たちは疑いもせず本性を隠していたというだけだったのに」
ぽつりぽつりと彼女は涙を流し始めた。
それは何に対しての涙か。
信頼してくれた人があられたという安心感か寂しかった心のほころびか。
アリスはそっと彼女の隣に座り抱きしめた。
「私たちを信用していいわ。話をしてもらえる?」
「はい」
名倉佳奈美は語ってくれた。
ある超常現象の調査で遺跡の発掘調査で必要な兵器を支援する事業やその手助けとなる事業を行うために視察に行ったとき、戻ってきた彼が性格まで変わり今まで暴力さえ振るわなかった自分へと暴力までふるい始めたほどの豹変ぶりを
「あの時の父はまるで鬼か悪魔のようだと思いました。だけど、当時の私はなにも超常現象については知識はなかったんですが母だけは知識があって何度か神父や周りに依頼している行動を見せていました。私にも母は父へは近づくなと言ったりしました」
彼女は絶望するように顔を手で覆い隠した。
「周囲に言われた通り父へ近づかないようにしましたがあのとき父を救うどころかその逆で協力したりしました。その時にはハーシア教諭や九条学園長も知り合いで面倒を見に来てくれたりもしたんです」
その知らなかった情報に目を丸くしながらメモを取った。
「じゃあ、名倉家は昔から教生学園とは縁があったんだ」
「少しだけですけれど。もともとはウチも超常現象に関係した家系でしたからそういう付き合いはありました。でも、そうした付き合いのある方々が我が家を見ても平然と何もないとおっしゃったんです」
異常なまでの未調査不足。
この一件を教会は知らないはずはないと思ってしまう。
「アリスさん、教会にこの件を確認してもらえますか?」
「わかった。でも、返答に時間かかると思うけどいいの?」
「少しでも得られる情報は多いほうがいいでしょう」
「確かにそうね」
勇気は目の前を向く。
「ごめん、話の途中だったね。続きがあれば聞かせてもらえますか?」
「はい、そのあと家ではおかしなことが続いたんです。私も時折記憶がないことが増えたり、母までもおかしくなって、そんなあるときに自らで家の地下にあった資料室で超常現象について知りました」
「なるほどね、典型的な悪魔の兆候そのものじゃない。教会はどうして見逃したのかしら」
アリスは聞きながら確信をもって断定した発言をした。
まさに、その通りなのになぜ教会は見逃したのかと疑問に思う。
いつもリークし、ハンターに阻止を要請する組織の出遅れ差がうかがえる。
「しっかりと教会は動いてくれたのもずいぶんあとです。父があの戦争犯罪を発起した後、すぐに香織さんのフィアット家を筆頭に動いてはくれましたけどもう遅くて父は犯罪者として、さらに私まで悪魔に染まった忌み子扱いをされて」
「それは大変だったね。だから、香織さんが疑ってあのようないじめをしていたわけね」
「あれは仕方ないんです、父がおかしくなったときに私もおかしくなっていたようでその時に親友だった香織ちゃんを何度も殺そうとしたらしいので」
「でも、名倉さんにはその記憶はないんですよね?」
勇気は直球的な質問をして確認をする。
それによっては大きな差異がある。
「はい。まったくありません。その時起こした行動を映したカメラ映像とかも彼女から見せてもらったとき信じられませんでした」
「ちなみにその時は何をしたのか聞いてもいいですか?」
「……彼女を駅の線路へ突き飛ばしていました」
勇気とアリスは口をつぐんだ。
カメラの映像はそれならあとでいくらでも見せられるだろう。
「よくつかまりませんでしたね?」
「それがあの時は警察も父がどうにかしたみたいで不問となりました。それが気に食わなかったのかフィアット家と確執も生まれてしまったんです」
「そうか。それで、ずっと彼女はあなたを疑うようになってしまった。父親である名倉司氏が捕まった後もってことよね」
「はい。いくら学園で違うといっても彼女は聞き入れてくれませんでした。保健室でも私は彼女に違うと訴えたり勇気さんのことも言ったんですけど聞き入れてもらえなかったどころかあの時に彼女が」
名倉佳奈美は震えるように両肩を抱きしめた。
「彼女ってもしかして、ハーシア教諭ですか?」
彼女はこくりとうなづいた。
「勇気、あなたの言っていたことは本当だったのね。勇気が間違えた行動を起こすはずはないし、いくら復讐心に駆られていても無益な一般人へ危害を加えないことも私は知っている。だから、おかしいとも思っていたから極力勇気が行動しやすいようにはしたんだけど」
「アリスさんが信頼してくれていただけでも助かりました。でも、これで犯人が分かりました。失踪者事件もおおよそ、現場の監督官であったハーシア教諭の仕業でしょう」
「現場って?」
「僕、今失踪事件の大本になった寮に住んでるんです」
「はぁ!? 何それ危険じゃない。何か起こらなかった?」
「起こったといえば、不審な人影を見たというか……」
「なんで、すぐに教えないの!」
「いや、伝えられる状況ではなかったんですよ」
「そういえば、そうね。すぐに危険だからそこから離れなさい。教会にはどうにか報告するから」
と手にした携帯でどこかにアリスは連絡を取り始める。
「あの、待ってください。確かにハーシア教諭ではあったんです。急に彼女が保健室に来て私たちへと話を聞きに来てそれで、私を責め立てるような発言をしながら香織ちゃんをたきつけるような発言をしました。だけど、そのあとなんです」
「そのあと?」
彼女はその存在が一番恐怖をしているのか歯をガチガチと鳴らし今までの一番の恐怖を見せた。
「何かよくわからない影と同時に爆発が起き――っ! いやぁああ!」
急に名倉佳奈美は発狂しながら立ち上がる。
そのまま、個室の部屋を飛び出した。
「私は何も知らない! 追いかけてこないで!」
急な錯乱状態にこちらは戸惑う。
何か明らかな様子がおかしい。
部屋から飛び出してまるで誰かから逃げるように突っ走る。
「名倉さんっ!? 勇気」
「わかってます。何かおかしいですね。追いかけましょう」
追いかけた先で彼女は立ち往生していた。
彼女は突き当りの非常口の扉を開けようとしたが鍵が閉まっていてあかない様子だった。
「や、やめて、何も私は知らない。だから、殺さないで!」
何かにおびえた様子で蹲る彼女。
次の瞬間だった。
彼女を中心に爆発が起こる。爆風に吹き飛ばされ勇気とアリスは壁に叩きつけられて倒れ込んだ。
「くそっ、なんですかこれは……」
「ねぇ、それより勇気、名倉さんは?」
アリスに言われて勇気は目の前の煙の中を見据えながら彼女の存在を探した。
絶望する。周囲に血と肉片が飛び散った一帯と瓦礫にまみれた物をみて。
「うわぁあああ!」
「ゆ、勇気どうしたの!? 何を見たの?」
アリスも勇気が見たものに気づき、喉をひきつらせた。
「なんてことなの……」
スプリンクラーが作動して火を鎮火に走る。
遠くから消防車のサイレンと救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえ始めた。
「まずい。ここにいるのがばれたら大ごとね。勇気、動ける?」
あまりのショックで動けない勇気をアリスは肩を貸して立たせ上げる。
崩落しかけるカラオケ店の中を気を付けながらあるき、そして何かの幻影めいたものが視界の端をかすめた。
「今の何?」
何か黒い人影のようなものを見た気がした。
足元がバランスを崩しかける。どうにか踏ん張って体勢を立て直したときにはその幻影は消えていた。
「気のせい?」
脳裏には数分前に聞いた名倉佳奈美の言葉が思考をよぎった。
「影……」
ぞわりと背筋を逆なでする感覚に身震いしたが今は脱出が急務と気持ちを切り替え、足早に動かした。
どうにか、人の通りが少ない裏口からの脱出に成功するとアリスは持っていた携帯で救援を要請する。
「教会につながらない……どうして」
「教会にはつながらんぞ。教会も今忙しいからな」
「あなたは……」
アリスは目の前のあらわれた人を見て意識を失った。




