第12話 名倉佳奈美1
接触禁止と監視という名目がついての新たな生活の初日。
勇気は息苦しさを感じつつ、一日の授業を何事もなかったかのようにこなしていった。
周囲からはひそひそと陰口は一日中やまなかった。
それも、もう慣れてきていて、勇気は廊下を歩きながら窓から外を見てみれば名倉佳奈美が一人、戦闘の練習をしているのが見えた。
彼女の懸命な努力をする姿に見惚れてしまう。
助言をしてやりたい気持ちがあるが後ろの彼女たちの監視の目ではそれすらできないのが悔やまれた。
「彼女へ接触することは禁止」
「もし、接触するようなら容赦しないの」
今はハーシア教諭を抜きにした白峰と木島の二人の監視の目であればかいくぐるのもできなくはなかったが学園にいられなくなるのはまずいので素直に従うほかない。
「あの、接触禁止とは言いますけど、実際は自分たちの目の離したところで何かをしでかされたら怖いという話ですよね?」
「急になんですか?」
「いや、この監視体制の話をしているんです。僕を監視しているのも学園に脅威を舞い込んでいる異質な怪物だと疑ってるからですよね? そして、あなたたちの姉貴分だった香織さんを名倉佳奈美と共闘して殺したと思っている」
「事実そうだと思うけど、何か違う?」
「そうなの」
疑う余地なしと確定づけた口調で決めつける二人の言い分にあきれてしまう。
少しは現場の様子とかをもう一度思い起こすとかしてほしいものだった。
「そう思ってるのならば、常にあなた方の監視の目にさらされてる状態であれば名倉佳奈美と接触しても問題はないのではないですか?」
「それでも何か特殊な技術工作とかして会話を試みる可能性もあるよね?」
「それならば、僕の身体をくまなく検査でもして丸腰にでもしていただいて構いません」
「どうしてそこまでするなの。逆に怪しいの」
「そう思われて仕方ないですが、僕は純粋に名倉佳奈美という彼女の努力を応援したいだけです」
「「はぁ?」」
二人が純粋な目でコイツ何言ってんだとでもいうような馬鹿を見るようなまなざしを向けてくる。
「今あそこで彼女がしている訓練に少しばかり助言をしたいだけです。彼女が使用する兵装がどういうものであるのかとか」
「それにかこつけて何かをしようとかじゃないかね?」
「そう思うなら、あなた方も張り付いて僕を見続けてればいい。そして、僕の身体を調べて丸腰にでも先ほど言ったようにしてください」
二人はひそひそと真剣に話しだした。
何かを決めたように、決意した表情をするとそっと勇気の腕をつかんだ。
何かの呪文を唱えると手首を何かであぶられたような痛みが走ると特殊な黒い輪のようなあざが浮き出た。
「これは何か私たちにとって殺意や敵意の意思を表示した行動を示したときに発動する呪いの類を付与した。その状態でなら彼女と話をしてもいい。ただし、アタシたちも同行するネ」
「いいですよ。別に訓練に助言をするだけですから」
巧みな話術で勇気はどうにか名倉佳奈美との接触する機会を得ることができて心の中でガッツポーズをとった。
(これはまたとないチャンスだ。遠回しに助言をしながら香織を襲撃した犯人の存在を追求するしかない)
そう決め込んで勇気は二人の監視がつきながら外のグラウンドで練習している名倉佳奈美のもとへと向かった。
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グラウンドで汗を垂らしながら懸命に手首についたミサンガをふるう。光り輝く発露だけを起こすミサンガだが何かが起こった気配はなかった。
「どうして、どうして私はだめなのかな」
悔しそうに涙目を浮かべながら地面に手をついて頽れていた。
その背中へとそっと近づき、勇気は激励の声をまずは送った。
「お疲れ様です、名倉さん。すごく練習をしているんですね。びっくりしました」
「え、星城さん!?」
彼女は素早く勇気から距離を置いた。
勇気はあまりの彼女の露骨な態度に面を食らった。
「えっと、何か御用ですか?」
「用事というかなんというかですね、それよりも自分何かしましたか? そんなに距離を置かれるとさすがに傷つきます」
「えっと、先生とかからあなたは犯罪者だと聞きましたので」
「僕は何もしないですよ。少し助言をしに来ただけですから」
後ろをそっと見る。
白峰と木島の二人は名倉佳奈美の反応を見て、勇気への疑いが一つだけ和らいでいた。
あまりにも名倉佳奈美自身も、勇気へと抱いている恐怖心が疑い心を薄めたのだ。
(うれしいやら悲しいやらですね)
勇気はさっそくと彼女のほうへと歩み寄る。
まだ警戒心を強めてる彼女だったので、1メートル弱の距離感でその歩を止めて、ミサンガのほうに手を向けた。
「木島さん、白峰さん。すみませんが利用させてもらいます」
一言そう告げると彼女たちへとめがけて勇気は突進するように突っ込んでいた。
その途端、腕に激しい痛みが走ると勇気の腕からすさまじい血しぶきが上がった。
右手の手首から先が切り落とされていたのだ。
それを見た名倉佳奈美が悲鳴を上げた。
「あなたはやはり、敵でしたね」
「ですが、無駄ですの。この呪いは簡単に解けないなの」
「違い……ます。……これはわざと……」
「は?」
勇気は落ちた手を苦しみながら広い、血しぶきを上げる手を抑えながらおびえた名倉佳奈美にすり寄るようにしてその彼女のミサンガに触れた。
「あなたのその兵装の力は他者へと恩恵を与えるものです。攻撃に類したものでないから周囲は気づかない。今それを証明します。今力を使って僕の腕を治してみてください」
「な、何を言ってるんですか? 私にそんなことできません。だって、この兵装はいつも発光しかしないただの愚物です」
「そんな……ことないです……僕がこの身をもって証明します。僕を信じて……」
次第に意識はかすれ始めて勇気が地面に顔を付したとき生暖かい光が全身を包み始めた。
痛みは消えて、感覚のなかった腕に感覚が戻り始めた。
勇気は顔を上げると切れた腕は元に戻り、同時に施されていた呪いまで解呪されていた。
「やはり、予想通りです。名倉さんの能力は支援タイプだから周囲が気づかなかっただけです」
「これが私の力…」
後ろで見守っていただけの二人もあっけにとられた様子でいた。
勇気はチャンスとばかりに彼女の耳元にそっとささやいた。
「もっとこの力の扱い方を知りたくないですか?」
「え」
「僕は実践だけ豊富でしたのでその力の扱い方を伝授できるかもしれないです。なので、もしよかったら明日に外出許可を得て外のこの場所に来ていただきたいです」
勇気はある忍ばせていた一枚の紙を彼女へと渡してスッと離れた。
「ちょっと、くっつきすぎ。いくら治療でもそこまでくっつくことないね」
「何かしてたんじゃないなの?」
早速疑ってくる二人の目。
名倉佳奈美は黙って首を振った。
「何もないです。あの私この後用事あるのでもう帰ります。すみません失礼します」
名倉佳奈美はそそくさとその場から離れた。
勇気は現状をうまく計画として指導できたことに気持ち満足し心の中で笑みを浮かべていた。
「なんか、怪しいことしてたら容赦しないのね」
「呪いが発動していないじゃないですか? 怪しいことなんてありませんよ。それよりも僕ももう寮に帰らせていただきますね」
そういって、自分もそそくさとその場から離れるのを伝えるのだった。




