第11話 事件と疑い
保健室の惨状は見ると悲惨なものだった。
爆発の影響で天井が瓦解しており、何かの電線と建物の骨組みがむき出していた。
さまざまな薬品が散らばっており、それらが合わさって異臭を漂わせている。
さらには周囲を荒れ狂うように火の手が回っている状況。
その沈下活動には勇気たちだけじゃなくほかの生徒もちらほらいた。
「こっちの瓦礫の撤去を誰か手伝ってくれ!」
兵装らしきグローブを装着した数人の生徒ががれきの下敷きになった生徒の救出活動を行っていた。
瓦礫の下にいる生徒は香織の取り巻きの人物。
さきほど、アリスに渡された資料でようやく名前が判明して覚えた二人の女性。
白峰カータレットと木島リンフォルトだ。
この二人は香織の家に代々使える使用人の家系だとかいう話でもあり、だからこそ講義のときも常に一緒に行動していたのは知っているが今回も一緒だったために爆発に巻き込まれ負傷することになったのだろうと予測する。
「おい、そこの早く手伝ってくれ!」
一人の生徒が自分を呼び掛けてるのに気づいて勇気は慌てて近づいたが兵装も装備していないので瓦礫の撤去など無理がある。
瓦礫は高温であぶられ、熱を帯びているので持てば大やけどでは済まない。
「なんで兵装を持っていない! 非常呼集で来たんだったら持っておけよ!」
「いや、彼は最近入ってきた編入生だ。編入生、彼女たちを瓦礫の下から引っ張り出してくれ。こっちで瓦礫を支えてるから」
一人が勇気の事情をすぐに察して説明と指示をしてくれたおかげですんなりと行動に移すことができ始める。
言われた通り下から二人の少女を救出して、怪我の度合いをみて疑問を抱いた。
(え、これ明らかに瓦礫だけじゃなく殴られてできた傷? やっぱり、この騒ぎ何かあるんじゃないですか?)
勇気は周囲を見渡す。
「あの、被害にあった生徒って他にいないんですか?」
近くで救援活動をしている生徒に聞く。
「他にもそりゃぁ、いたらしいがそれがどうかしたのか? 知り合いがここにでもいたのか?」
「いや、知り合いというかなんというか……」
勇気は言いよどんでると質問に答えた生徒は別の救出活動へ呼び出されてその場から別の場所へ移動してしまった。
それ以上の質問は聞けず、頭を悩ませた。
(この二人がいるのに香織さんがいないのは何でですか? すでに救出された?)
グランツェル教諭は香織さんが爆発に巻き込まれたと名指しをしたのを覚えており、まだいるのだと認識をしていた。
見当たらない。
グランツェル教諭の存在を見つけ、声をかける。
「先生、香織さんは救出できたんですか?」
「あたしもそう聞いてぇここに来たのだけどぉさっきからどこを探しても見つからないのよぉん」
「え?」
彼も彼なりに困惑している様子だった。
聞いて救出に来たとはどういうことなんだろうかと疑問に思った。
「あの、だれから聞いてここに?」
「それはハーシア教諭よぉん。ほら、保健室へ送ったでしょぉん」
そういえば、そうだけれどそのハーシア教諭はなんでその場から一人で行動できたのだろうか。
「なんだか嫌な予感がする」
そういったそばからある声が上がった。
「おい、こっちにもう一人いたぞ」
生徒の一人の声が上がって、アリスが傷だらけの名倉佳奈美を瓦礫の下から引きずって救い出している姿を目撃する。
「彼女息をしていないよ。早く担架を!」
アリスの指示で数人の生徒が彼女を担架で運び出した。
その最後の生徒を機会に炎も数人の生徒と教師による沈火活動で収まり始めた。
収まり始めたのを機会に白峰カータレットが未だ意識を取り戻さない名倉佳奈美にぼろぼろの身体で食いかかっていた。
「あんたが香織さんを殺したのよ! この目で見たんだから! あんたが脅迫文を出しただけじゃあ飽き足らず殺すなんてっ! この悪魔の一族!」
彼女がナイフを手にして彼女に振りおろそうとしていたのを周りに生徒と教師が止めに入る。
彼女の手にはコンバットナイフが握られており、グランツェル教諭にすぐに羽交い絞めにされたことでナイフは没収をされてその場に組み抑えられた。
「ちょっと、おちつきなさぁい」
名倉佳奈美は安全な場所に避難させるように数人の生徒がどこかへと運んでいく姿を見て、アリスが心配そうな顔をして勇気へと言葉をかけた。
「ちょっと、今回のこと何か不思議なことばかりだから私彼女のほうに付き添いに行くね。例の失踪事件に何か関係しているかもだし」
名倉佳奈美の避難部隊に同行し、その場から離れていった彼女の背中を見送りながら勇気は取り押さえられて泣きじゃくる白峰をみる。
「あの、今殺したというのはどういうことですか?」
「あんた、香織様を目の敵にしていた転入生! あんたに語る言葉なんてない!」
「勇気さん、今は彼女もこのような状態です。質問をしたいのはみんな同じですからあとでにしましょう」
話に割り込むように入ってきたのは今までどこに行っていたのかという感じで急に姿を現したハーシア教諭である。
彼女は白峰さんを抱えるように連れてどこか別の部屋に運び出すように移動した。
勇気は何か気がかりめいたものを感じてある言葉を促す。
「わかりしまた。これもクリストの思し召しによる采配で救われた命でしょうから先生にお任せします」
勇気はわざとらしく仰々しい神の言葉を交えた返事をする。
一瞬、ハーシア教諭の目が黒く変色したのを見た。
「てめぇはやっぱりそうかっ!」
勇気は我を忘れた。
懐に忍ばせていた両親からの形見のナイフを取り出すと、ハーシア教諭に切りかかっていた。
ハーシア教諭は悲鳴を上げて白峰カータレットを下ろすと勇気の反撃に防衛を備えるように魔法を放った。
勇気は軽く吹き飛ばされたがすぐに持ち直して、聖水を取り出して彼女へめがけて振りかけた。
だが、妙なことに何も反応を示さなかった。
「は?」
それが自分の自我を取り戻すきっかけともなった。
その一瞬が隙となり大勢の生徒が勇気を取り押さえに来ていた。
「おい、編入生これはどういうことだ!」
「シスターハーシア教諭への暴行は許されることじゃないぞ!」
勇気は取り押さえられながらもハーシアへの敵愾心はまだ残っており必死で抵抗をして暴れる。
「彼女は普通じゃない! あいつは悪魔だ!」
「僕たちには今の君が普通じゃない。それに悪魔に見える。ハーシア教諭は今すぐ逃げてください」
ほかの生徒たちに取り押さえられて勇気は動けない。
このまま逃がしてなるものかという思いが勇気の中で煮えたぎると何かが爆発した。
一気に何かに吹き飛ばされたように勇気を取り押さえた複数の生徒が吹き飛ばされた。
勇気はハーシア教諭の首襟をつかみその服を破いた。
彼女は露出した胸元を抑える。
勇気は彼女を真正面に向かせてそのまま馬乗りになり、手にした銀十字をその胸へと押し付けた。
「これならいくら悪魔であっても反応を……しめさない?」
「オラァ! このドぐされやろうがぁ何をしてくれとんじゃぁ!」
今までのおかまっぽい口調ではなく荒っぽいおっさん口調になって勇気を横殴りに蹴飛ばしたグランツェル教諭の一撃が重く横腹を刺激し勇気は足腰に来ていた。
立てずにいる勇気に複数人の生徒が再度取り囲むと、その生徒たちがモーゼのごとく間を開けると一人の教師が姿を見せた。
それはこの学園の長である九条美代だった。
「監視映像で見て慌ててきてみましたがこれはどういうことでしょうか、星城勇気さん」
「九条学園長、それはそこにいるハーシア教諭が悪魔であったから起こした行動に過ぎないんです」
「それであれば今まであなたが起こした行動に反応を示しますが彼女は反応を示しておりません。それに彼女はシスターですよ。その彼女に働いた数々の暴力はハンターの行動とは逸脱したものでありあなたの行動はすべてが神の言葉に背く逸脱したものです」
「それはそうかもしれなです、けど!」
「あなたはこの学園から即刻去ってもらいます。しばらく去る準備まで期間があるので別室で彼を監禁していてください」
「監禁? ちょっと待って話を聞いてください!」
無慈悲な言葉を告げられたと同時に勇気に麻酔団のよう何かが打たれ、勇気の意識は闇の底へと沈んだ。
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盛大に聖水をぶっかけられる勇気。
だが、必死で自分の無実を証明するように無知を訴えた。
「だから、自分は何も知らないんですよ!」
勇気の前に突き出されたのは見知らぬブレザー。
それを目の前のグランツェル教諭が指をさす。
「だったら、なんで保健室にこれがあったてんだぁ! これにはてめぇの指紋やてめぇの物っていう証明が入ってる。てめぇがあの場で爆発を引き起越すように名倉佳奈美を誘惑して香織・イーリス・フィアットを殺害するように指示したんだろうがぁ!」
「待ってください、俺はしっかりこうしてブレザーを着ています! 学生証は確かに気づかないうちに落としたのかもしれません」
「だったら、この装置の反応をどう証明すんだぁ? GPS装置の記録でてめぇが保健室にいたことは立証されているだろぉが!」
現在、地下の使われてない部屋では勇気に容疑のない疑いをかけられ尋問を受けていた。
その要因は件のハーシア教諭を襲った件から保健室に見つかったブレザーと勇気の学生証、GPS装置の反応だ。
これらが疑いをかけられる要因となってしまっている。
当の、勇気が犯人ではないと証明できるアリスは理事長室で勇気のことを問いだだされているらしいこと。
勇気はそれを聞いたのもこの自分を尋問しているグランツェル教諭からである。
「それは……」
言葉に詰まる。
自分自身がこの状況でわかってなどおらず、見当がつくには情報量が少ない。
(今回の一件は明らかに失踪事件と関係をしているようにも思えますが……電子機器に偽装工作をするなんて悪魔にできるはずもないですよね。これは悪魔じゃないのでしょうか?)
現に、もしも悪魔ならばこの状況で正体を明かさないのも不自然であった。
つまりは勇気にも見当がつかないこの状況。
それを伝えたところで学園側は信じないだろう。
勇気は校章だけは手に持っているのでごまかしようがない。
「やはり、理事長と話をして退学処分にするべきだなぁ。いくら教会からの推薦でもこんなことをやらかしたとあってはまずいなぁ。第一に教会からの推薦できた編入ってのも怪しい。本当は全部てめぇが偽の書類を作ったものじゃねぇのか?」
「そんなことして俺に何が得あるっていうんですか? しっかり俺の身元を確認してください。俺の今の親はれっきとした教会所属のハンターです!」
「確認だと? てめぇは教会の関係者なのに確認するのに時間がかかるのを知らんのか? そんなわけねぇよなぁ?」
「え? 時間かかる?」
「教会にはいくつもの、ルートが存在するんだ。連絡先をいくつも回してようやくつながる取り決めだ」
そんな話を今までされてこなかった。
加々見さんとそのことを説明不足している父を恨む。
(しっかりと報告していてくださいよ! 何かあっても報告もしようがそうしたら時間かかるってことじゃないですか)
だが、今更わかったところで遅く、今は退学の瀬戸際にいる。このままでは捜査する前に殺されそうな勢いさえある。
「グランツェル教諭聞いてください、この件は俺は全く無実だ。第一、これは学園で起こっているであろう失踪事件が関係しているにきまってる!」
「何が失踪事件だぁ。勝手な憶測を語ってアタシを騙そうたって無駄なんだよぉ!」
グランツェル教諭の力強い拳が勇気の頭部へと振りおろされそうになった刹那――
尋問室の扉が開かれて、一人の教諭が入ってくる。
その教諭とグランツェル教諭が何かしらを話して、勇気に流し目を送る。
「出ていい。理事長からの命令だ」
「っ! よかった」
「アタシはあなたを信じてねぇぞ。当分は彼女たちの監視がつくそうだ」
そういってグランツェル教諭の視線の先にいたのはハーシア教諭と白峰カータレットと木島リンフォルトだった。
勇気は睥睨して彼女たちを見つめ続ける。
グランツェル教諭がハーシア教諭へ勇気ともめたこともあり、心遣いをして監視することに対しての抵抗感がないかもあり確認する。
「本当に大丈夫?」
「はい、あの時はびっくりしましたが教師としての責任があるデス。それに彼女たちもいますデス」
「ほかにも数人援護につくから何かあれば言ってくださいねぇん」
勇気のことを再度グランツェル教諭はつま先から頭頂部まで値踏みするように観察して妙な笑いをこぼす。
それから、アリスと理事長もやってきた。
「ごめんなさい、勇気。これが限界よ」
「どういうことですか? 俺に監視って」
「アリスさん、先ほども言いましたがあなたと勇気さんの接触は禁止ですよ。なので、これが最後の面会と許したのであるのをお忘れなく」
九条美代が間に入って口をはさむ。
その彼女の言葉を聞いてさらに衝撃を受けて勇気は困惑した。
「え、接触禁止? どういうことですか? は?」
「勇気さんにはまだ疑いが濃厚ですが、教会からの推薦人というのも濃厚だとアリスさんからの証言から得られたので保護観察処分対象としてさせていただくことになりました」
「当面は監視付きで生活しろということでしょうか?」
「その通りです」
勇気はため息をつきながらアリスを見て「十分です。アリスさん、助かりました」と謝礼を口にした。
「経緯はどうあれ、受け入れた学園側にも責任問題になるのはごめんです。まさか悪魔なんて受け入れてしまったなんてごめんですので当分はハーシア教諭と彼女たち生徒二人を中心とした監視グループがつきますのでよろしくお願いしますね」
勇気は渋った表情をしながら頷いた。
そのまま九条学園長はアリスとグランツェル教諭とその場から離れ、その場に監視者3人と勇気だけが残る。
「そういえば、名倉さんは無事なんですか?」
「さすが下種野郎の悪魔様。さっそく仲間の心配? 図太い神経しているね」
「クラスメイトの心配をして何が悪いんですか? 第一、俺は保健室を爆破するように誘導案内なんてしていないですから」
「どうだか。悪魔の弱点に何も反応をしていないのも何か裏があるんだろう? 私たちはあんたが悪魔だってずっと疑い続けるからな」
「そうなの。第一、香織様を殺したことをあっしらはずっと恨み続けるのね」
「だから、俺は殺していないです」
と否定するが白峰と木島の二人からの疑いは晴れることはなかった。
ことの真実を知ってそうなのはやはり名倉佳奈美だけだということになってしまう。
「星城さん、あんたにはしばらく監視者グループとの接触および会話を禁止としておりますので名倉佳奈美との接触も禁止であるのを忠告いたしておきますね。もし、接触など行いましたらどうなるかお忘れないよう願いますね」
妙な脅し文句を言われて勇気の新しい学園の生活が始まろうとしていた。




