彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・15
DP01-BS15
次に来てくれたのは、京子さんと「むっつりすけべえ」先生だ。
靴の中の発信機は捨てられており、捜索は難航したが、テレビを見て駆けつけてくれたらしい。
京子さんは両親の様子を見ていたようで、私に尋ねる。
「ご両親とは、仲直りしなかったの? 」
「……うん、今はその気になれなくて……」
「どんなご両親でも、肉親は選べないのよ、結局は折り合いをつけていくしか無いのよ? 」
「うん、わかってる……」
京子さんは首を振って、私に問いかける。
「それで、この先はどうするの、いつまでもホテル暮らしというわけには行かないでしょう? 」
「部屋を借りようと思ってる」
「沙耶ちゃん……、……なんでもない、解った、手配しておくわ」
「ごめん、ありがと」
「むっつりすけべえ」先生には「救い出せなくてすまない」と謝られたが、あそこで京子さんの時みたいに強引に救い出されていたら、結局は手遅れになって死んでいたかもしれないのでなんともいえない……。
「それから、轡社長のことだけど、傷害罪で逮捕されることになりそうよ」
「他の人たちは……? 」
「難しいところね、原因を作ったのは事実なのだけど……」
-「私たちのすぐ後に面会するはずだから、その時に訊いてみたら? 」
「うん、そうする」
京子さんとは両親のこと、私の今後のこと、「轡社」の今後のこと、日本橋監督のことなど様々な事を面会時間終了まで話した。
その次に来たのは、レイナ、メガネ、サガサンだ。
安城先生と神崎さんは後から面会するらしい。
神崎さんの奥さんがこちらに向かっていて、二人揃って来ると言っていたそうだ。
安城先生も神崎さんと似た案件なので一緒に面会することにしたようだ。
レイナだが所々にガーゼや絆創膏を付けており、なんだが痛々しい。
私がレイナを見上げると彼女は微笑んでこう言った。
「大丈夫ですよ、かすり傷ですから」
メガネは来る時に見た背広姿だ。
ここでの仕事は終わったということなのかな。
そしてサガサンだが、サガサンの背広がヨレヨレだ。
良かった、一度戻ったりはしていないようね。
私は枕元まで来てくれたレイナを呼ぶ。
「レイ……、コホン、……村澤さん」
「フフッ、レイナで良いですよ」
私の心が少し軽くなった気がした。
「うん、レイナ、少し耳を貸してくれる? 」
「どうしましたか? 」
レイナが私の方へ屈んで耳元を近づけてくれる。
「サガサンを拘束して」
レイナは即座にメガネをかわしてサガサンに近づき、足を刈ってうつ伏せにこかし、背中を踏んで地面に縫い付けた。
メガネも反応できない一瞬の早業だった。
涼しい顔でレイナがこちらに顔を向ける。
「それで、この男がまた何かやらかしましたか? 」
ああ、やっぱり、サガサンが服を勝手に持ってきたこと、相当怒っていたんだ……。
「サガサン、私のこと、隠し撮りしてたでしょ、メガネが私に行っていた治療行為とか……」
「メガネ……」
「アレを世に出させるわけにはいかないわ」
「ま、待ってくれ、私にはなんのことだか…」
この後に及んでとぼけるサガサン。
「ほら、メガネも協力して、サガサンの身包みを剥いで頂戴」
「メガネ……」
メガネはノロノロとサガサンに近づく。
後ろ手に拘束されたサガサンの背広のジャケットの内ポケット探る。
「どう? 」
「うーん、ありませんね…」
「メガネ、そこ、何か膨らんでない? 」
「…………、……ああ、何かあります、四角くて硬い」
-「くっ、これは、……どうやって取り出すんだ? 」
「手前にカメラを露出させる穴があるはずよ」
「これは、縫い込まれているようです」
「ああ、このジャケットは高かったんだ、見逃してくれないか? 」
メガネとサガサンが顔を見合わせる。
何を思ったか、レイナが反対側からサガサンのポケットを探る。
「沙耶さん、こちらに出し入れ口があるようです」
そう言って、黒く四角い機械を取り出してくれた。
メガネを経由して渡されたそれをじっくり観察する。
表面はツルツルしており、天井の灯りをよく反射する。
側面の端に筒状の突起がある。
中にレンズがはまっている事からカメラであると推測できる。
出っ張っている四角いボタンを押してみた。
シュルシュルシュル…………
内臓されている何かが回転している?
私が機械に耳をあてていると、
「ああ、もう、貸してみなさい、記憶USBを抜くから」
-「井崎クンも、離してくれないか、この期に及んで抵抗はせんよ」
私はサガサンに機械を手渡す。
サガサンは手渡された機械を見て、操作する……
フリをして出口にダッシュ。
即座にレイナに取り押さえられた。
「レイナ、もういいや、それ壊しちゃって」
サガサンから抜き取った機械を床に落とし、勢いよく踏んづけるレイナ。
グシャッ
「のおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅーーーーーーーっ」
サガサンが両手をわきわきさせて、壊れた機械を手に取ろうと屈む。
「レイナ、まだ渡しちゃダメだよ、記憶USBは無事なはずだから」
「チッ」
あ、舌打ちした。
レイナに渡された記憶USBを寝巻きの胸ポケットにしまった。
ヴヴヴヴヴヴッヴヴヴッヴウヴヴッヴウヴヴヴウ
メガネが反応した。
ポケットから携帯を取り出す。
「神崎さんからです、少し電話を掛けてきます」
私のベッドの傍にレイナとサガサンが残された。・
レイナを見ると何故かもじもじしている。
「井崎クン、良い機会ではないかな? 」
レイナが意を決して私に話しかける。
「沙耶さん、これからもお仕えしてよろしいでしょうか? 」
「へ? 」
サガサンが苦笑いしてレイナの言葉を補足する。
「それでは沙耶姫様には伝わらないだろう? 」
-「いいかね、沙耶姫様、井崎クンは轡クンから君に乗り換えようとしているのだよ」
-「それを薄々感じていたからこそ、彼は過剰反応して、普段取らない行動を取ったとも言える」
-「なに、絶対に裏切らない相手というのは、今の君には必要だと思うよ」
「え、でも……」
「ああ、轡クンのことかね、彼の場合、自業自得だからなぁ」
-「轡クンから井崎クンを裏切ったわけだしね」
-「いや、裏切り続けたと言っていいのかな? 」
そ、そういうことじゃなくて……。
「なに、深く考える事はない、今の君の素直な気持ちを伝えてあげればいい」
サガサンを見ると、なんだか優しい目つきで私とレイナを見ている。
レイナはといえば、普段表情を見せない彼女らしくもなく、不安そうな顔で私を見ている。
「…………よくわかんないけど、レイナが傍に居てくれるなら嬉しい」
「はい、居ます、ずっと傍に居ますから」
登場人物紹介
門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。両親とは距離を置くことにした。
八井津京子……34歳、女性、ダンジョンマスターNo.80。沙耶のマネージャー。「一緒に暮らそう」とは言い出せなかった。
籐郷睦助……35歳、男性、ダンジョンパートナーNo.80。沙耶の護身術の先生。「むっつりすけべえ」先生。
轡慎二郎……38歳、男性、ダンジョンマスターNo.79。沙耶の所属事務所、「轡社」の社長。レイナを失いたくなくて下手を打った。
村澤レイナ……31歳、女性、ダンジョンパートナーNo.79。轡から沙耶へ乗り換えた。
嵯峨優一……34歳、男性、ダンジョンマスターNo.83。元俳優の映画監督。ブランド品に精通しており、奴隷にも理解がある。
メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。本名・朔恭司。「メガネ」と呼ばれてショック。
なんだこれ?




