彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・14
DP01-BS14
メガネが言うには、血液の中に入っている毒素を機械で除去する必要があるらしい。
そのための設備が、大きい病院やそれ専門の病院にしかないらしく、今回はここまで来る必要があったと言う。
治療には数時間かかり、経過観察のために数日入院する事になった。
私は途中で眠っていたらしく、寝て起きたら治療は終わっていた。
ボーっと天井を見上げる。
蛍光灯はついていない。
寝ているベッドの周囲にカーテンがかかっているので、周囲の状況は判らないが、カーテンの片側がぼんやりと明るい。
朝なのかな、昼かなのかな。
さて、どうなったかな、動くのかな。
まずは舌を動かしてみる。
上顎や歯に触れると感触が伝わってきた。
ちゃんと喋れるかな?
「ん、あーーー、い、う、え、お、か、き……」
-「さ、し、す……」
-「しゃ、しゅ、しょ、じゃ、じゅ、じょ……」
うん、大丈夫そうだね。
次は両手両足を試してみるか。
あの時は全く感覚が無かったからね、少し勇気が要るけど。
ピクリ
あれ? 動いた?
まあ、シーツや掛け布団の感触は感じていたから、最初から希望はあったけど。
親指で人差し指や中指を触ってこすってみたり、手を握ったり開いたりしてみる。
うん、ちゃんと動くね。
足の方も片方の足の裏で、もう一方の足の甲をこすってみた。
ちゃんと感触はあるみたい。
シャーッ
そのとき、カーテンが開けられた。
さっきの声を聞かれたかな?
カーテンから顔を覗かせてきたのは看護婦さんだ。
「あら、沙耶ちゃん起きたのね」
ネームプレートを見ると「川崎ありす」とある。
この女性かー……。
気を取り直して上半身を起こそうとすると……、
「あっ、少し待ってくれる? 先生を呼んでくるから」
そう言ってカーテンを閉め、足早に出て行く川崎さん。
「沙耶ちゃん、電気つけますねー」
「あ、はい……」
川崎さんが病室を出る直前に天井の蛍光灯が点いた。
しばらくすると川崎さんが白衣の男の人を連れて来た。
誰? メガネをしていない……。
白衣の先生は笑顔で私に声をかけてきた。
「やあ、こんにちは、僕の名前は板戸と言います」
-「朔先生から、君のことを引き継ぎました」
-「朔先生は元々この病院の先生ではないですからね」
-「そうだ、お名前を教えてくれるかな? 」
「かどくら、さやです」
「うん、門倉沙耶ちゃんか、ありがとう」
板戸先生はおもむろに指を差し出した。
「これが見えるかな、何本に見える? 」
「いっぽんです」
「ではこれは? 」
「にほんです」
「ではこれは? 」
「さんぼんです」
「うん、意識ははっきりしているみだいだね」
川崎さんの手を借り、上半身を起こす。
板戸先生はメガネがやったように、目の瞳孔を調べたり、舌の表面を見たり、私の手首に触れて脈拍を診た。
それだけではなく、血圧計で血圧を測ったり、膝を叩いて足の反応を見たり、私の口に体温計を差し込んで体温を測ったり、聴診器で動悸を確認したりした。
一通りの検査を終えると、面会希望者がいるけど会うかと訊かれ、会うことにした。
ちなみに私の今の格好だが見覚えのある寝巻き姿だ。
家から誰かが持って来てくれたのだろう。
先生が言うには面会希望者が多いので何組かに分けて来るらしい。
私が行きましょうか? と言ったら、点滴が終わるまでは、とりあえずはあまり移動しないでほしいと言われた。
最初にやって来たのは、……父さんと母さんだ。
二人はテレビの報道を見て、私を心配して来てくれたらしい。
まあ、いろいろあったからね、薬を盛られて拉致されたり、ヘリコプターが不時着したり、レイナがストリーキングしたり……、それで私が死ぬかもしれないから一刻を争うっていうのだから、テレビにも報道されるよね。
「…………」
「…………」
「…………」
無言で固まる私たち。
せっかく
せっかく決別できたと思ったのに……
私は今、ホテル暮らしをしている。
父さんが私に土下座してから、なんとなく家に居づらくなったからだ。
京子さんは心配して、「部屋に来ないか」と言ってくれたが、日本橋監督の件もあって、その気にはなれなかった。
二人は、私と「もう一度三人で暮らさないか」と言ってくれているのだが……。
「ごめん、帰って、今は二人のこと、何も考えたくないの……」
二人は揃って病室の床を見ながら帰っていく。
私も二人を見ながら、歯を噛み締めようとしても噛み締めきれない、そんな気分を味わっていた。
登場人物紹介
門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。ホテル暮らし。
門倉彩……44歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。沙耶の母。何もかも、沙耶しか見ない夫・王将への嫉妬が原因。カメラマンには確かにお金は貰ったが、どういった写真を撮ってきたかまでは気にしていなかった。事件後、赤の他人を見るような沙耶の目に耐え切れず家を出た。
門倉王将……49歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。彼にとっては、沙耶と血の繋がっていない方が、都合が良かった。それでも酒の力を借りねば行動を起こせなかったし、暴力を振るう気にもなれなかった。カメラマンの件は普段仲の悪い彩に持ちかけられた。沙耶に対する意趣返しもあった。
メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。本名・朔恭司。
板戸直弥……27歳、男性、入院中の沙耶の主治医。小児科医。手馴れている。
川崎ありす……25歳、女性、沙耶専属に選ばれた女性看護師。




