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彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・13

DP01-BS13



 間に合った。

 開け放たれた左のドアからタクシーに乗るメガネ。

 私を抱えながら屈んでシートに滑り込む。

 すると反対側のドアから誰かが入ってきた。


 メガネは二度見した。

 サガサンだった。

 ああ、招かれない客が……。

 サガサンはワイシャツ姿で、背広を巾着のようにしてネクタイで縛っている。

 何か入っているようだ。


 メガネはサガサンの方を見て少し呆けていたが、すぐに運転手に行き先を言った。

 両方のドアが自動的に閉じて車が走り出す。

 景色が流れる中、サガサンがネクタイを解いて背広の中身をシートに広げる。

 見覚えのある女性用スーツとレースの高級下着だ。


「嵯峨さん、それって……」

「ああ、井崎クンのだよ」


 意味が解らないというようにメガネが首を傾げる。


「村澤さんのことですか……? 」

「ああ、今は本名を使っているのだったね、そう、井崎レイナクンの私物だよ」


 え? でもそれって……。


「それは、持って来て大丈夫だったのですか? 」


 ……そうだよね、持って来ちゃったら、街中で、ずっと裸で行動しなければならなくなるよね。


「何を言っているのかな、車道(あんな)の真ん(ところ)に放置しておいたら、車に踏まれて台無しになるか、誰かに盗られて紛失してしまうじゃないか」

「それは、そうかもしれませんが…」

「朔先生はコイツの価値が解っていないとみえる」


 サガサンがじっくりとレイナの下着を見つめる。


「ふぅーむ、これは、……ジュディス・ワインだな」


 サガサンが下着を掲げる。


「見たまえ、少し赤味がかって見えるだろ? 」

「え、ええ……」


 メガネ、ドン引き。


「有名なブランド品だよ、上下で60万円は下らない代物だよ」

「……そんなにするのですか? 」

「スーツの方も凄いよ、ブリリッシュのホワイトパール、上下で54万円だ」


 サガサンは下着とスーツを丁寧に畳む。


「それから、ほれ、出したまえ」

「何をですか? 」

「井崎クンの貴重品を持って行っただろう? 」

「あ、はい」


 メガネがレイナのバッグをサガサンに渡す。


「フーム、このバッグはルイ・シャルデンのクイック・ワーク・ハンドバッグ23万円だな」


 サガサンはおもむろにバッグを開け、中の貴重品を広げる。

 腕時計。「チッタだね、チッタ・ラキュリアス、文字盤が宝石になっているんだよ、それも限定生産品、120万円はするよ」

 携帯電話。「RTTドレモだね6,5000円くらいだろう」

 ネックレス「ラムズのジュリーディフォー12,7000円」

 リング「総プラチナ製、俗に言う奴隷リングだね、この手のものは値段が判りにくい。10,0000円くらいだろう」

 リング「プロミスリング、8,000円くらいか? 甘い言葉に騙されちゃったんだろうね」

 ピアス「オットー・プリミティーの新作だね、16万円」


「全部で300万はいくんじゃないかな? うーん、轡クンに愛されているねぇ~」

「甘い言葉……? 」

「ああ、そこか、奴隷になってしまう()は大抵、最初は結婚してやると言われて、それを信じちゃうんだよね」

-「ああ、安心したまえ、奴隷と言っても昔のような身分制度とは関係ない、プレイの一環だ、遊びのようなものだよ」


 いや、でも、白い粉がどうとか言ってたし、犯罪の片棒を担がされているような……。

 それに、私一人では足りないから、手本を見せてやりなさいとかなんとか、アレってそういう意味だよね?


 サガサンが私の目を見て言う。


「本当はね、相手がなんでも言うこと聞いてくれるからって、なんでも命令してはいけないのだよ」

-「愛情を持って接しないとね」

-「そこを轡クンは履き違えちゃったんだなぁ」

-「だから井崎クンのようなことになる」


 え? レイナがなんだって?




 そうこうしているうちにタクシーが病院に着いた。

 病院の入り口では出迎えの医師や看護師がいて、移動式のベッドが用意されている。


「連絡はいっているようだな」


 メガネが私と共に彼らの方へ行く。

 私をベッドに寝かせて彼らと共に慌ただしく移動し始めた。

 サガサンはといえば、入り口でレイナを待つそうだ。






 登場人物紹介

門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。四肢が動かず、喋れない。

村澤レイナ……31歳、女性、ダンジョンパートナーNo.79。何度も危ない場面もあったが、からくも逃げ続け、砂利を踏んでは足に怪我をし、それにも構わず走り続け、虚をつくために植え込みに飛び込み、全身にかすり傷を負いながらも逃げ切った。危険をおかして服を脱いだ場所へ戻ったが、服は見当たらず、服は諦めて、ヒッチハイクして病院まで来た。運転手に襲われそうになったので、蹴り出して自分で運転してきた。車から出て病院へ近づくと、病院関係者に見咎められたが、事情を説明し、身体の洗浄、簡単な治療を受けて手術着姿で沙耶の下へ行く途中、嵯峨に会った。嵯峨に衣服と荷物を返してもらったが、そのドヤ顔を見て、思わず往復ビンタを食らわせてしまったとか。彼女がここまで感情を素直に露にしたのは数年ぶりのことだという。

嵯峨(さが)優一(ゆういち)……34歳、男性、ダンジョンマスターNo.83。元俳優の映画監督。ブランド品に精通しており、奴隷にも理解がある。手術着姿で女性看護師に付き添われて現れたレイナに、衣服と荷物を返したが、怒りの往復ビンタを食らった。

メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。本名・朔恭司。

戸田幸介……51歳、男性、タクシーの運転手。空気を呼んで黙っていたが、後ろの会話に興味津々。

板戸(いたど)直弥(なおや)……27歳、男性、今回、朔の助手を務める医師。朔とは顔見知り。川崎ありすは複数人いる恋人の一人。

川崎ありす……25歳、女性、沙耶専属に選ばれた女性看護師。板戸とは恋人同士だと思っている。板戸の一番になりたいと切に願っており、今回の共同作業はチャンスだと考えている。沙耶は、板戸しか見えない川崎を一目見て、「チェンジ」と心の中で叫んだ。

中田隆志……19歳、ワゴンの運転手。走行中、泥だらけの裸の女を乗せた。病院まで行く途中の、人気の無い場所で襲おうとしたが、返り討ちにあい、車外に放り出された。





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