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彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・11

DP01-BS11



 今、私はヘリコプターの中にいる。

 メンバーはパイロットの迫水さん。

 常に私の傍に居てくれるレイナ。

 メガネこと朔恭司さん。

 鋭い目をした総髪の男こと神崎直人さん。

 サガサンこと嵯峨優一さんだ。

 太った男の人と秘書の人は別行動ということになった。


 病院に着くまでに自己紹介と今までに至る経緯を聞かせてもらうことになった。

 太った男の人は安城文彦という民確党の代議士だそうだ。

 秘書の人は衣笠幸四郎さんという。

 神崎さんは神崎グループのCEOで、安城先生とは父の時代からの知り合いだそうだ。

 安城先生の目的は、自分の息子たちの出来が悪いと感じており、自分の基盤を任せるに足る後継者を欲していたそうだ。

 そこで非公式ながら、女優を辞めると言った私に目をつけたらしい。

 あと、私の両親の育児放棄っぷりは、ファンの間では有名だそうだ。


 神崎さんも似た理由だ。

 神崎さん夫婦は子宝に恵まれていないらしく、私のような女の子が欲しかったそうだ。


 嵯峨優一さんは元俳優の映画監督で、私のドキュメンタリー映画を担当している映画監督さんでもあるらしい。

 うーん、面通しした人、こんな人だったかな……?

 私の疑問を察したのか、所用でどうしても外せない用事があり、副監督に代理で行ってもらったらしい。

 うさんくさいなあこの人、誠意を感じられないよ。


 そしてメガネだが、あっ、間違えた、もうメガネでいいや。

 メガネは「総会」に常連の現役のお医者さんだそうだ。


 え? 「総会」?

 きょとんとした目で見上げると、それと察したメガネが教えてくれた。

 私のファンクラブは色んな場所や、方向性によってあっちこっちに林立しており、それらを統括管理し、意思決定するのが「総会」らしい。

 といってもそれほど実行力があるわけではなく、「○○はやめようね」というのを各ファンクラブに通達するのがせいぜいのようだ。


 それはそれとして、メガネが参加したのは、轡社長の行動をある程度コントロールするためだ。

 知っている人は知っているらしいが、社長はやり手だがかなり危険な人物でもあり、このまま放置すると私がどうなるか判らなかったので、こちらから依頼し、安全性の高い薬も渡して危険性を排除しつつ、社長から引き離そうという計画だったらしい。

 だが、私が社長を限界以上に煽ってしまったせいで、致死量の薬を盛られてしまったらしい。

 レイナが言うには、私に飲ませるようにと白い粉を渡されたが、それは栄養剤とすり換えたようだ。

 また、レイナによると社長が私の側で何かをしていたらしいので、メガネが寄ってきて私の首筋あたりや肘の内側を見る。

 メガネとレイナがぼそぼそ話す。

 私の首筋に注射痕を見つけたようだ。

 どうやら社長はメガネの薬やレイナに渡した白い粉だけでは飽き足らず、私に直接、正体不明の薬を注射したようだ。


 それはそれとして、彼らの話には疑問符が残る。

 私はなにも、「轡社」に監禁されていたわけではない。

 私と接触する方法なんていくらでもあったはず。


 そこで彼らの障害となるのが、京子さんと「むっつりすけべえ」先生だ。

 ファンの間では京子さんと「むっつりすけべえ」先生が私を引き取る最有力候補と目されている。

 だから、私を養子として欲している神崎さんと安城先生は、京子さんとは接触したくなかったらしい。

 確かに私はまだ京子さんを信用している。

 京子さんが居なくなったら寂しいし、離れがたく思う。

 京子さんが傍にいたなら、彼らの話に耳を貸さなかっただろう。


 しかし「むっつりすけべえ」先生は関係あるの?

 まあ、確かに私も、いつも一緒に居る二人だから、京子さんとセットで考えてしまうけれど。

 レイナが言うには二人は同棲しており、結婚は秒読みらしい。

 まあ、通じ合っている感じはあったかな。


 それだけではなく、実は京子さんも「轡社」へ就職してすぐ、新入社員歓迎会と称して、轡社長に薬を盛られ、私がさっきまでいた拷問室のある部屋に連れ込まれたみたいだ。

 しかし、「むっつりすけべえ」先生は単身でアルジェンヌ・ホテルに突入、警備員や轡社長の手下を蹴散らして、意識の無い京子さんを救ったことがあるらしい。

 その時、轡社長は全治3ヶ月の怪我を負い、さっきの部屋には6ヶ月間の使用禁止になったそうだ。

 轡社長も叩けば埃の出る身、警察に訴えることなく事件は終了した。

 だがこの事件で懲りたのか、轡社長は京子さんには手を出さなくなったようだ。


 まさに人に歴史ありだね。


 でもそれだけでは足りないよね。

 京子さんと私はいつも一緒に居るわけではない。

 私は自宅に帰って寝るわけだし。


 そこで出てくるのが私のファンクラブだ。

 地域密着型のファンクラブ「門倉家を見守り隊」、通称「自警団」。

 純粋に私を護りたいと思ってくれている「自警団」は、総会での発言力も強く、警察と連携して門倉家を含む地域のパトロールに余念が無い。

 不用意に近づけば警察に通報されるようだ。

 それだけで済めば良いが、「自警団」出身の狂信的過激派の存在が、彼らに二の足を踏ませる要因となった。

 狂信的過激派は私を護るためなら何もかも捨ててかかるので、ある意味、自爆テロ並みに危険なのだそうだ。


 まあ、少し大げさかもね。

 確かに彼らの起こした「傷害事件」は社会問題にはなったが、誰かを死なせたわけではない。

 そんな考え方が隙を生むのかもしれないけれど。


 うーん、そういうことか、なら、危険人物の手で拉致させ、誘拐させても仕方ない……のか……?

 なんだか納得いかないなあ……。

 実際、現在進行形で死にかけているわけだし。


 納得していない私を見て、レイナが補足してくれた。

 京子さんは情が先に立つので、目的の為には手段を選ばない轡社長と対した場合、後手後手に回って、出し抜かれるだろうとファンの間では予測されていたそうだ。


 結局いつかは、京子さんが出し抜かれ、轡社長に薬を盛られて、それこそ奴隷にでもされていたかもしれないってことか。

 レイナの主観も入っている気もするけど…。

 でもまあ、だから轡社長の動きをコントロールして待ち構えていたってことで良いのかな?


 しかし、ファンの間って、……レイナの立ち位置が解らない。

 後、ファンはどうしてそんな内部事情まで知っているの?

 レイナが流したってこと?


 さらにレイナが言うには、実際、京子さんは轡社長と対立する時は正攻法で論破しようとするので、結局、轡社長に裏から手をまわされ、この6年間、「轡社」の体質は何も変わっていないそうだ。

 うーん、レイナは京子さんに、何か思うところがあるのかもしれないな。


 さて、神崎さん、安城先生の事情は解ったよ。

 まあ、だからといって許せるかどうかはまた別の話だけど。

 それで、メガネはお医者さんだから良いとして、サガサンはどうしてここにいるの?

 仕事を請けているのだから、正式に会いに来ればよいと思うのだけれど。


 サガサンは私が出演しないと言ったことで、この仕事への興味が失せたようだ。

 おい。

 しかし、私を調べるうちに、再び私に興味を持ち始め、出演しないなら、ゲリラ的に密着取材しようと考えたそうだ。

 いや、許可しないから。

 それとあの映像は絶対に世に出させないから。

 私の視線から、レイナとメガネも気付いてくれていると思いたい。


 ちなみにその間、私たちが何をしていたのかというと、皆の真ん中あたりに寝かせられ、神崎さん、サガサン、メガネ、レイナの4人に、感覚の無い両手両足を、揉まれたり擦られたりしている。

 メガネは何も言っていないが、彼自身も私の右手の平を揉んだり、手首から肘あたりまでを擦ったりしているので、意味がある行為だと思いたい。

 あとサガサンがニヤニヤしていてキモチ悪かった。






登場人物紹介

門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。四肢が動かず、喋れない。

八井津京子……34歳、女性、ダンジョンマスターNo.80。沙耶のマネージャー。ファンの間では良い人だけど力不足と認識されている。

籐郷睦助……35歳、男性、ダンジョンパートナーNo.80。沙耶の護身術の先生。「むっつりすけべえ」先生。人に歴史あり。

轡慎二郎……38歳、男性、ダンジョンマスターNo.79。沙耶の所属事務所、「轡社」の社長。黒い噂は数あれど、やり手で有名。

村澤レイナ……31歳、女性、ダンジョンパートナーNo.79。轡の犠牲者。ファンに「轡社」の内部事情を流しているらしい。

安城(あんじょう)文彦(ふみひこ)……41歳、男性、ダンジョンマスターNo.77。民確党の代議士。自身の子供たちの出来が悪いと感じており、後継者として養子に迎えるに足る子供を探していて、沙耶を見つけた。沙耶を調べ、その情報を集めるうちにどっぷり嵌ってファンになった。彼が別行動を取ったのは、どう考えても、全員は乗れないだろうという判断からです。

神崎(かんざき)直人(なおと)……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.78。財界の麒麟児。安城に政治献金をする代わりに、便宜を図ってもらっていたグループ企業の会長の息子。彼自身は安城とは疎遠だった。政略結婚で嫁いで来た聖羅とは、愛を育んできたが子宝には恵まれなかった。安城が将来有望な養子を見つけたと聞いて、彼に近づき、沙耶に興味を持った。そして夫婦で沙耶の情報を集め、共有する内に二人してファンになった。

神崎(かんざき)聖羅(せいら)……29歳、女性、ダンジョンパートナーNo.78。美男美女のおしどり夫婦。この夫婦の養子になる事が一番幸福になれる道筋だと思われます。

嵯峨(さが)優一(ゆういち)……34歳、男性、ダンジョンマスターNo.83。元俳優の映画監督。俳優時代の代表作「江戸前評定」。沙耶のドキュメンタリー映画の映画監督を務める。今回参加したのは、はっきり言って野次馬です。

メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。本名・(さく)恭司(きょうじ)。「総会」の常連。

迫水(さこみず)洋治(ようじ)……39歳、男性、


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