彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・9
D01-BS9
「さて、クツワくんは行ったかな」
私はぼんやりとした頭で周囲を確認する。
轡社長はすでに退室しており、村山さんと半裸の4人の男たちがいるようだ。
一人の男が近づいてきて、私のまぶたを指で開き、ペンライトを当てたり、口を開けさせて舌の表面を確認したりしている。
他の三人はもそもそと服を着ているようだ。
鋭い視線の総髪の男が村澤さんに声をかける。
「村澤さんだったかな、君ももう行ってくれていいよ」
「いえ、私は……」
「良いのだよ、ナオトくん、彼女はこちら側の人間だ」
「はっ、そういうことでしたら」
「しかし、クツワくんはヒドイことをするねぇ」
-「村澤くん、彼女の服はどうしたのかね? 」
「はい、こちらにあります」
「キョウジくんの診察が終わったら、着せてあげなさい」
「わかりました」
「馬鹿な」
「どうしたのだね、キョウジくん? 」
「彼女はこのままでいれば死んでしまいますよ? 」
「なんだと、朔さん、あんたを疑うわけではないが……」
「私が処方した用量では、全てを飲ませても致死量には至らない」
「……確か社長が、南米で良い薬を手に入れた、と以前言っていました…」
「南米、……未認可の違法薬剤か……? 」
「どうする、知り合いの医者が近くで開業しているが? 」
「個人経営の病院では設備が整わないでしょう、隣町にある大学病院まで行かなければ」
「遠いな、今からで間に合うのか? 」
「事は一刻を争います、車では無理でしょう」
-「たしかこのホテルの屋上にヘリポートがあったはず」
-「空から直行すれば、間に合うはずです」
「ふぅむ、大事になるね」
「安城さん、あんた自分の政治生命と沙耶姫の生命、どちらが大切なんだっ」
「朔さん、言いすぎだ」
「いや、キョウジくんの言う事ももっともだ、目から鱗が落ちたよ」
-「なにを置いても沙耶姫の生命には換えられない、そうだな? 皆」
「はい」
「ええ」
「はっ」
「もちろん」
…………
コンコン
「先生、衣笠です」
「おお、コウシロウくんか、どうだったね? 」
「手配してきました、30分で到着するようです」
「あいわかった、それまでに我々も準備しておくとしよう」
-「キョウジくん、なにかやっておくことはあるかね? 」
「応急処置は必要でしょう、体内にあるものを全部出しておいた方が良いでしょう」
「私たちで出来ることは無いかね? 」
「では風呂を入れておいて下さい」
-「あとは村澤さんに手伝ってもらいます、女性がいた方が沙耶姫も安心めされるでしょうから」
-「村澤さん、沙耶姫とこちらへ」
村澤さんがシーツで包まれた私を抱き上げて、メガネをかけた真面目そうな半裸の男の後に付いていく。
そこは、異様な場所だった。
床には排水溝があり、床と壁の一面がタイル張りで、天井には業務用の空調、それ以外の三面の壁は全面ガラス張りで、外から中の様子が丸見えだ。
備品として金属製のテーブルや、分娩台、先の尖った鞍馬のようなものがあり、鎖に繋がれた手枷や足枷がタイル張りの壁に埋め込まれている。
なんというか、拷問室? のような場所だ……。
「……村澤さん、その、下着まで脱ぐ必要はあったのか……? 」
「はい、コレを使う場合は、経験上、下着まで汚れるものですから」
-「それに、沙耶さんにだけ恥ずかしい思いをさせるわけにはいきませんわ」
「それは、ううむ、配慮が足りなかったか……」
私はといえば、金属の台の上に乗せられていた。
拷問室に入って、早々、メガネが私の口の中に指を突っ込んで、胃の中の内容物を備品である金属のバケツに吐き出させた。
そのとき包まれていたシーツが汚れたので、剥がされ、今は何も身に着けていない。
「村澤さん、普通のものは無いのかい、市販のもので構わないのだが……」
「申し訳ございません、社長は形から入る方ですので……」
「それを使うのか、今から買いにいくのでは時間の無駄か、仕方ない」
私が乗せられている横には、何に使うのか想像もつかない、おぞましい形状の器具が並んでいる。
一際異彩を放つのは、私の胴ほどもある巨大な注射器だ。
「ああ、村澤さん、それではダメだ、効力が強すぎる」
「そうですか? いつもはこれくらいなのですが…」
「年齢、体重、薬を盛られていることも考慮しなければいけないよ? 」
-「そっちは私がやる、君には器具の確認をお願いする」
「承知しました」
村澤さんは、よりにもよって巨大注射器を手に取った。
注射器に水を入れ、漏れが無いか確かめているようだ。
彼女が注射器のピストンを少し押すと、放物線上に水が放たれる。
「ふむ、こんなものだろう、村澤さん」
「確認終わりました」
「これは、口径が大きいな、少し広げないと裂傷ができるかもしれない…」
-「村澤さん、沙耶姫を固定してくれ」
私は尺取虫のような格好で、おしりを持ち上げられ、固定される。
ううっ、なさけない。
「村澤さん、……その、スムーズに挿入するために、穴を広げてくれないか? 」
「承知しました」
村澤さんは固定している両手から指を伸ばして、肌を両側に引っ張る。
「……ふっ…………ううっ………」
巨大注射器の先端を挿入し、ピストンをゆっくりと押し込むメガネ。
思わず呻いてしまう。
舌がしびれて喋れないのが今はありがたい。
冷たい薬液が私の内臓を蹂躙した。
しかし、さっきから視界の端にチラチラと動く人影がある。
がたいは良いがビール腹の男と、目つきの鋭い総髪の男は部屋から出て行ったようだが、この肌が浅黒く背の高い男だけは、ガラス越しに私の方を興味深げに覗いている。
あの仕草はなんだろう。
さっきから背広の前を何度もはだけている。
拷問室の照明が、一瞬、男の背広の前を反射させた。
なにかの金属のようだ。
状況からして写真機か、隠しカメラかだろうな。
ひょっとしてあれは、今のなさけない、こんな私を撮っているのではないの?
登場人物紹介
門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。四肢が動かず、喋れない。
村澤レイナ……31歳、女性、ダンジョンパートナーNo.79。轡の奴隷。轡の思惑から外れた行動を取っている。アブノーマルなプレイに精通している。
がたいは良いがビール腹の男……41歳、男性、ダンジョンマスターNo.77。少し逡巡したものの、政治生命より沙耶の生命を優先した。
総髪の鋭い目をした男……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.78。
肌が浅黒く背の高い男……34歳、男性、ダンジョンマスターNo.83。今回セリフは「もちろん」のみ。
メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。物語の構成上、医師は必要だなと感じたので急遽、4年後に召喚されることになりました。
衣笠幸四郎……27歳、ダンジョンマスターNo.77の秘書。彼の名義でホテルの一室を借りている。
島田宗叡……54歳、男性、ダンジョンマスターNo.82。日本画家。生まれたままの門倉沙耶を描きたいと願っている。噂の4人の一人だったが、メガネと交代することになり、コアなファンの一人に格下げされた。




