彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・2
しばらく続きます。
DP01‐BS2
12歳の頃、当時仲が悪かった両親が、私を食事に招いてくれた。
私はその状況を疑いつつも、ついに努力が実って、仲直りしてくれたのかもしれない、と思ってしまった。
両親との食事中、一人のカメラマンを紹介された。
初老の優しそうな男性カメラマンだ。
両親が言うには、仲直りの記念に家族のアルバムを作りたいとのことだった。
両親には、あくまで家族のアルバムなので、マネージャーの京子さんは介さないで欲しいとお願いされ、私はその初老の男性カメラマンを受け入れた。
まあ、念のために連絡は入れておいたけどね。
私が撮影所に行くと初老のカメラマンさんだけがいた。
父と母の所在を訊くと、最初は居たが、急に喧嘩を始めて出て行ったそうだ。
……ありそうな話ではある。
ただ父も母も外面は良い方なので、少し疑念はあった。
私がカメラマンさんに謝り、両親を探して来ようと、撮影所を出ようとすると、カメラマンさんに呼び止められた。
「ちょちょちょっ、お、お嬢ちゃん、ちょっと待ってくれんか? 」
「なんですか? 」
「ご両親はそのうち帰ってくるだろう、先にお嬢ちゃんの分だけでも撮っておきたいのだが」
「…………、家族の写真ですよね? 私一人だけ撮っても意味無いのではないですか? 」
「儂が今回の撮影を引き受けたのは、お嬢ちゃんが、「門倉沙耶」だからだよ」
-「だから先にお嬢ちゃんを撮って、あとから合成する方法もある」
「別々に撮るなんて、そんなの、意味ないじゃないですか…」
「そうでもないよ」
-「雰囲気で判るよ、ご両親、仲が良くないのだろう? 」
-「だからこそ、合成でも何でも、仲睦まじく見せておいて、後でアルバムを開いた時に錯覚させる方法もある」
-「まず形から入るんだよ」
-「そうやって、本当に仲が良くなった家族もいる」
-「儂は、そういう家族を何組も知っている」
-「だからまず、お嬢ちゃんが俯いていたら駄目だ」
-「幸せそうな笑顔を見せておくれ」
-「嘘でもいい、女優なんだろ? 」
-「演技でいいんだ、今この瞬間だけでも、カメラの向こうのご両親も幸せにするつもりで、な」
大人ぶっていてもまだ、小学生の子供だったということだと思う。
両親には仲直りして欲しいし、その愛情も取り戻したかった。
だから初老のカメラマンさんの言葉を信じ、カメラの前で笑顔を心がけた。
カメラマンさんの要求はどんどんエスカレートし、私はそれに応えた。
気付けば、彼は、父と同じようなねっとりとした視線を、カメラ越しに私に向けていた。
そう、あの「汚らわしい」視線を。
感極まった彼は下半身を剥き出しにして、私に襲い掛かろうとした。
私は急いで、外で待機していた京子さんに連絡を入れた。
京子さんが屈強な男性と共に撮影所に乗り込んでくる。
この男性には見覚えがある。
確か、護身術を教えてくれた先生だ。
護身術の先生は暴れるカメラマンを押さえ込み、京子さんが警察に連絡を入れた。
カメラマンは警察に連行された。
撮られた写真やネガは、一度、証拠物件として押収された後、返却されることとなった。
だが、後日、押収されたはずの写真やネガが紛失したとして、警察の人が謝りに来た。
京子さんが八方手を尽くして探してくれたが、結局見つからず終いになってしまった。
両親はというと、どうやら、カメラマンの提示した報酬目当てに、共謀して私を嵌めたことが後に発覚した。
私はもう、両親に何かを期待することを諦めた。
それでも私はまだ彼らの家に住んでいる。
彼らは外面だけは良いからね。
カメラマンとの取引も、証拠不十分で親権を取り上げるまでには、至らなかったようだ。
登場人物紹介
門倉沙耶……12歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。
門倉彩……41歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。
門倉王将……46歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。
八井津京子……28歳、女性、ダンジョンマスターNo.80。沙耶のマネージャー。
籐郷睦助……30歳、男性、ダンジョンパートナーNo.80。護身術の師範。あだ名「むっつりすけべぇ」
巨匠・多摩川茶鬢……54歳、男性、ベテランカメラマン。知る人ぞ知る女体専門のカメラマン。人呼んで「光陰の魔術師」。15歳未満の少女たちも何人も手がけてきたが、手を出そうとしたのは今回が初めて。彼が撮った沙耶の写真は後に「チャビン・スナップ」と呼ばれることになる。




