彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・1
門倉沙耶の過去話です。
100組のダンジョンマスターとパートナーは、全員が全く別々の出自であるわけではなく、基点となる人物が数人存在します。そういう人物にはバックストーリーがあります。
DP01-BS1
4歳の頃、私は生命を救われた。
トラックに撥ねられるところを近所のお兄さんに助けられた。
その人の名は久住健宏さん。
全く面識の無い17歳の高校生で、私を庇ったために彼は死んでしまった。
確かあの時、両親と三人で道を歩いていたのだった。
抱えていた子猫のブックナーが急に私の腕から抜け出て走り出した。
父と母は制止の声を上げたそうだ。
だがそれには気付かず、私は夢中でブックナーを追いかけた。
そしてブックナーと共に車道に出て、左からトラックが近づいて来た。
この事件を皮切りに両親の仲は決定的に悪くなった。
私の行動の原因を、お互いになすりつけあったせいだ。
両親と共に、久住健宏さんの家へ謝り行ったこともある。
その時は、久住健宏さんの家に居た、おじさんが対応してくれた。
久住健宏さんのお母さんには会えなかった。
おじさんは私たちの謝罪を受け入れてくれた。
あなたがたのせいではないから、気にしなくて良いと言ってくれた。
でも、もう、ここには来ないで欲しいとも言われた。
久住健宏さんのお母さんは、おじさんのお姉さんでもあるのだが、数年前に夫を亡くし、一人息子まで亡くしたために、気鬱の病にかかってしまったそうだ。
だから、いたずらに刺激しないで欲しいと言われた。
最後におじさんには、亡くなった久住健宏さんの分まで、精一杯生きて欲しいと言われた。
6歳の頃、私は芸能プロダクションにスカウトされた。
久住健宏さんのおじさんの言ったとおりに、精一杯生きるために、このスカウトを受けることにした。
父が反対し、母が賛成した。
母は父が反対したから賛成にまわったのだと思う。
「八井津さんといったかな、知っているかい、この近くで女の子が失踪したんだ」
-「三軒隣の久美ちゃんって子なんだけどね、まだ7歳の子だったんだよ」
-「うちの子はまだ6歳、恐くて外になんか出せないよ」
「いいじゃないですか、あなた、沙耶がしたいと言っているのですから」
「おまえは沙耶が心配じゃないのか、そういえばあの時も沙耶を追いかけなかった」
「またその話ですか? あなただって似たようなものでしょうに」
「おまえと一緒にするな、言っておくがな……」
「待って、待ってください、沙耶ちゃんのことは、私たちが責任を持って送り迎えしますので」
-「見てくださいこの男を、この男は武術も嗜んでいます」
-「この男ならどのような危機も回避できます」
「京子、おまえ……」
「睦助は黙って……」
「まあ、まだ若いのね、それに逞しいわ、王将さんとは大違い」
「お、おま、言うに事欠いて……」
だが、これが私と両親の仲を決定的に裂いた。
これまで両親は、仲が悪いながらも、私には愛情を注いでくれていたのだが、CMの出演などで大金が入るようになって、私を見る目が変わった。
彼らは私の稼ぎで贅沢な暮らしをするようになった。
父と母はお互いから、より取り分をせしめるために、父は母の子ではない、母は父の子ではないと言い出した。
父の主張では、私は当時浮気していた相手との子だから、母に取り分を渡す必要はないとのことだった。
母の主張では、私は当時不倫していた相手との子だから、父に取り分を渡す必要はないとのことだった。
それ以来、両親の私を見る目は、娘を見る目ではなくなった。
私が両親のどちらにも似ていない容姿をしているのも手伝って、自分は嘘を言っているのに、相手の言ったことだけを信じてしまったのだ。
それでも偽りの愛情を振りまいて、養ってはくれていた。
金蔓だからだと思う。
私も仕事で磨いた演技力で気づかぬ振りをした。
9歳の頃、あれはたしか父が出張で、家に帰らなかった日だと思う。
当時、父はよく出張に出かけていた。
出先の土産として色々な物をくれたことを覚えている。
夜ふけに、知らないおじさんが私の部屋に入ってきて、私の服を脱がして、触ったり、舐めたりしはじめた。
私は身体が熱くなって、脱力して、しばらくそのままでいた。
すると部屋の外から、誰かを呼ぶ母の声がして、母が部屋に入ってきた。
母は知らないおじさんと言い争いをした後、何故か私を叩いた。
私は「汚らわしい」のですって。
後から思い起こすと当時、父は出張と称して浮気を繰り返し、母は父の居ぬ間に間男を招き入れていた、ということだと思う。
間男は母から私の存在を聞き、興味本位で私に悪戯をしたのだろう。
それから父の見る目も変わった。
私にねっとりとした視線を向けてくるようになった。
なぜか父にその視線を向けられると怖気が走った。
そうか、これが「汚らわしい」ということなんだなと思った。
身の危険を感じた私は、当時のマネージャー八井津京子さんに相談した。
京子さんは一緒に暮らそうと言ってくれたが、まだ両親の愛情を取り戻せると信じていた私は首を縦には振らなかった。
その代わり、護身術を習うことにした。
護身術の先生には筋が良いと褒められた。
それだけでなく、京子さんには防犯ブザーとか、GPSとか、色々な防犯グッズを持たされた。
京子さんには、このボタンを押したら、すぐに迎えに行くからと、何度も念入りに言われた。
10歳の頃、夜更けに父が私の部屋にしのんで来た。
その日、丁度母は、近所の商店街の抽選で温泉旅行が当たったとかで、友人と共に温泉旅行に出かけていた。
多分、不倫相手との浮気旅行だろうと、父が一人言を言っていたのを覚えている。
私はいつかこの日が来るという予感があったので、ベッドから距離を取って待っていた。
父は少し酔っているのか足取りがおぼつかなかった。
酒気で朱くなった貌の相好を崩し、猫なで声を出した。
「まだ寝ているのかなぁ~、子猫ちゃん、お父ちゃんですよぉ~」
父は倒れこむようにしてベッドに飛び込み、布団をめくる。
当然そこには、私は居ない。
私は京子さんにもらったボタンをしっかりと持って、父に声をかける。
「父さん、私の部屋に何のようなの? 」
「おりょ? そこにいたのか、まあいい、こっち来い、お父ちゃんが可愛がってやるからな」
「結構よ、明日早いの、出て行ってくれる? 」
「やい、遠慮すんなよぉ~、母ちゃんが居ない時くらい仲良くしよぉぜぇ~」
「本当に、そういうのはいいから、それにお父さん酔っているじゃない、ここで寝てしまわれても困るわ」
「おい、ふざけんなよ、こっちが下手に出ていりゃぁ、いいぃ気になりやがって」
-「おれぁあ知ってんだぞ、お前がおりぇの子じゃぁねぇってことぐらい」
-「あいつの男には色目ぇつかっておいて、おれぇにはなんもねぇってのかよぅ」
「私の稼ぎで贅沢しているくせに偉そうにしないでよ」
「にゃぁ~にお~? 」
父が勢いよくベッドから立ち上がりヨタヨタと迫ってくる。
咄嗟に足払いをかけると、父は横転し、そのまま意識を失った。
その日、私は居間のソファーで寝た。
登場人物紹介
4歳時
門倉沙耶……4歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。
門倉彩……33歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。沙耶の母。
門倉王将……38歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。味のあるキャラなので召喚されたことにしました。でもマスターは無理かなと思ったので、彩さんが巻き込まれました。
久住健宏……享年17歳、男性。高校2年生。
鳴神源次郎……31歳、男性。長男なのに源次郎なのは、父の名が源太郎だから。
久住清香……34歳、女性。旧姓・鳴神。久住健宏の母で、鳴神源次郎の姉。二人姉弟です。
6歳時
門倉沙耶……6歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。
門倉彩……35歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。沙耶の母。
門倉王将……40歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。
9歳時
門倉沙耶……9歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。
門倉彩……38歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。沙耶の母。
門倉王将……43歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。
八井津京子……25歳、女性、ダンジョンマスターNo.80。沙耶のマネージャー。学生時代から内定していた芸能プロダクションでアルバイト、大学卒業後に就職しました。アルバイト時代から沙耶担当です。
籐郷睦助……27歳、男性、ダンジョンパートナーNo.80。護身術の師範。幼少期からの不名誉なあだ名「むっつりすけべえ」
島興唯生……31歳、男性、門倉彩の間男。
10歳時
門倉沙耶…… 10歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。
門倉王将……44歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。
本文左上の記号は、ダンジョンパートナー№1のバックストーリー第1話を示します。テレビのチャンネル等とは全く関係ありません。




