第55話 エオリア王国正騎士対応長期滞在用待機宿舎
三人称です
D01-51KYS
時間は少し遡る。
狂った騎士の屋敷の寝室で、刈谷が体調を崩して意識を失い、沙耶が添い寝している時の話である。
ヤズナはベッドの外で椅子に腰を下ろし、シルコワは刈谷と沙耶を挟んで、ベッドの端に座り、寝室の入り口を見ている。
「起きていますか、沙耶? 」
「……なに? 」
「ご主人様が無事回復されて、目覚められた後の話になりますが、……そのまま流れに身を任せてみてはそうですか? 」
「…………」
「ご主人様は何も身に着けていない沙耶が傍で寝ていたなら、そんな時には本能で動かれる方ですから、行き着くとこまで行ってしまうでしょう」
-「あなたは奥手ですから、こういう機会は利用した方が良いと思うのですが…」
「お待ちください、ヤズナ様」
「…何ですか、シルコワ? 」
「先程の沙耶殿が服を脱ぐ様を拝見致しましたが、物凄い色気を感じました」
-「それは600年生きた同性の魔性である私でさえ昂ぶるものがある程で、300年生きた淫魔であっても、これほどの色艶を発揮できはしないでしょう」
「なにが言いたいのですか? 」
「主様が沙耶殿と関係を持たれてなら、沙耶殿しか見えなくなると思います」
-「それではヤズナ様の望まれるダンジョン経営に、支障を来たす部分もあるのではないでしょうか? 」
「そのようなこと…、ワタクシはご主人様を信じます」
「ヤズナ様は殿方に幻想を見すぎです」
「沙耶だけを見て下さるというなら、それで良いではありませんか」
-「気にしなくて良いのですよ、沙耶」
-「ダンジョン経営はワタクシが代行し、100年でも200年でもご主人様の帰還を待ちましょう」
「豪快ですね、ヤズナ様は……」
-「沙耶殿、私は主様にとっても、沙耶殿にとっても、あまりことを急がない方が良いように思われます」
-「男女の機微は繊細なもの、義務が克ちすぎて主様を恨むようになってしまっては、元も子もありません」
「シルコワ、あなたまさか、まだご主人様の一番槍を狙っているのではないでしょうね? 」
「そのような野暮なこと、今となっては考えてなどおりません」
「ワタクシはこう考えるのです」
-「ご主人様も沙耶も、周囲に気を遣いすぎるところがありますからね」
-「お二人の間に誰かが入り込んでしまうと、お互い身を退いて自然消滅してしまう気がするのです」
「それは、…ないとは言えませんが」
-「それは私とヤズナ様で協力し、お二人の関係をどうすれば護っていけるかを考えましょう」
-「ですが、急ぎ過ぎるよりは、日々を積み重ねて行く方が、お二人にとって良い関係が築けると思います」
「ふぅむ、そういうものですか、ワタクシは人間だった頃、目の前で愛しい方を喪ってしまったので、少し刹那的なのかもしれませんね」
-「しかし今の沙耶の状況とも似ている気もします」
-「沙耶はどうしたいのですか? 」
「少し時間が欲しい」
「沙耶がそういうならシルコワの提案を重視しましょう」
-「ですが沙耶、改めて言っておきますが、この世界は過酷な世界です」
-「徒に時間をかけて、後悔しか残らないような選択をしないこと望みます」
サブタイトル名は「狂った騎士の屋敷」の正式名称です。




