第47話 功徳
D01-44
え? なに?
何故か沙耶さんの赤い目がじとっとこちらを見ている。
ハァ、沙耶さんが息を吐いてオレに話しかけた。
「草次君、君ねぇ、嘘をついたり隠し事をするときに、首に手を当てる癖があるのよ…」
はぁ?
オレは思わず右手を見た。
あ…………。
おそるおそる沙耶さんを見上げると、沙耶さんと目が合った。
「さあ、何を隠そうとしたのか、きりきり吐きなさい」
「……沙耶さんのスープにも入っていたプチトマトみたいな赤い虫、覚えている? 」
「えー……、覚えているわ、それで? 」
「少し背の高い皿に、山のように積んであってさ」
「あったわね」
「その一番上にあるのを手に取ろうとしたら、角が生えて、こっちに飛んできたんだよね」
-「オレ、咄嗟のことで固まっちゃってさー、思わず死を覚悟したね」
「……それで、どうなったの? 」
「まあ、シルコワに助けてもらったけど…」
「…………、それをどうして隠そうと思ったの? 」
「その、……沙耶さんに心配かけたくなくて…」
「そのくらいなら、なんとかなりそうだけど…」
-「そういう情報はできるだけ共有しておいた方がいいわ」
-「初見で対応するより、事前情報があった方が、より的確に対応できるでしょ? 」
「……そうだね、解った、今度から気をつけるよ」
少し催してきたオレは
「ごめん、少しトイレに行ってくるよ」
沙耶さんに断って側を離れようとした。
「あんまり、離れないでね、男の子なんだから、その辺でしちゃいなさいよ」
沙耶さんの声を背中で聞きながら少し離れるオレ。
たしかに、手長猩猩にトイレの概念は無いのか、そこらの繁みでしているんだよな。
シルコワに訊けば、どこかにあるのかもしれないが、忙しそうだしな、ここでするか…。
俺は沙耶さんから見えない位置に移動する。
ジョロロロロロォォーー、ハァー、
うん? 気のせいか。
そこらの葉っぱでしずくを拭き取り、ブツを仕舞って沙耶さんの下へと戻る途中、
あれ?
そこでオレの意識は途絶えた。
目を開けると沙耶さん、ヤズナ、シルコワの三人が覗き込んでいた。
「気が付いた? 」
-「少し遅いから見に行ったら、君、倒れていたのよ」
なにが原因だ?
少し調子に乗って食べ過ぎたかな。
手長猩猩なら問題ないが、文明人のオレにはダメな食材があったのかもしれないな。
候補としては、ムカデの蒲焼か、万魔殿あたりか?
「食べ物に当たったわけではないわ」
-「今回に関しては運が悪かったとしか言えないかもしれないけど…」
-「これ、見える? 」
沙耶さんが手に乗せている何かをオレに近づける。
オレがそれを見ようとして、身を起こそうとすると、ヤズナが上半身を支えてくれた。
沙耶さんの小さな白い手の平に、ゴマ粒ほどの赤い虫が見える。
「これはクドク虫と呼ばれる虫なのですって」
-「こんななりでHPが1000以上あるのよ」
-「この虫は脱皮を繰り返して成長するのだけれど、大きさは変わらずHPだけが増えていくそうよ」
-「脱皮した後はHPが一割以下に減っていて、回復する為に他の生物に取り付いて急速にHPを吸収するらしいの」
ちなみに生きたまま食すと最大HPが増え、レペルアップ時のHP上昇率が高まることから高値で取引されているようだ。
もちろん希少で、そこらに幾らでも飛んでいるような虫ではないはずだが。
「ねぇ、さっきの場所から意識を失うまでに、なにか違和感は無かった? 」
「……あ、そういえば」
ふぅ、沙耶さんが息を吐く。
「そういうときは簡易ステータスを見るの、意識したら視界の端に出てくるはずよ」
-「簡易ステータスにはHP、MPの最大値と現在値、健康状態が判るようになっているの」
-「簡易ステータスを確認さえすれば、急速にHPが減っていくのが解ったはずだわ」
-「異常があると判れば、経路で繋がっているのだから、ヤズナにでもシルコワにでも助けを求めることができたはずよ」
沙耶さんが心配そうにこちらを見つめる。
「兎に角、なにか違和感があったらすぐステータスを確認、異常があったらすぐに助けを求めること、いい? 解った? 」
ステータス上昇系アイテムの中には、功徳の名を冠する物が幾つかあります。
例:食べ物……功徳豆、功徳米、功徳麦、功徳粕
飲み物……功徳水、功徳油、功徳葛、功徳汁
薬剤………功徳丸、功徳丹、功徳胆、クドッキーVなどです。




