第45話 万魔殿
D01-42
小鉢に入っているのは虫の佃煮、であっているのか?
バルサミコソースのようなもの(ただし黒紫色)がかかっている。
これの恐ろしいところは虫が一種類ではない、というところだ。
シルコワに竹串のようなもの(しーしーやってる手長猩猩がいるので、爪楊枝のようなものかもしれない)をもらい、小鉢の中を見る。
ごくり、オレは思わず唾を飲み込んだ。
美味いものを期待してではない。
恐怖からだ。
虫たちはソースのせいで黒く艶めいており、今にも動き出しそうな臨場感を放っていた。
オレは竹串で小鉢を探る。
蟻は……、まだいい。
蟋蟀も、元の世界にあった料理だ。
だがこのクワガタムシみたいなのはなんだ?
頭部はクワガタムシに似ているが胴が長い。
いや違う、これは頭部ではない。
お尻だ、後ろの先の方がクワガタムシみたいになっている。
頭部にはピンと張った長い触覚が二本生えているようだ。
脚は6本、真ん中の二本の脚が長く、なんとも不気味な姿をしている。
……これは、ハサミムシなんじゃないのか?
ダメだ。
これは受けつけねぇ。
あとは…、これはダンゴ虫だな。
丸まっていないダンゴ虫は気持ち悪いな。
……一番奥にめちゃくちゃ気持ち悪い虫が見えたぞ。
あ、ダメだ。
目尻に涙が。
これは料理というより、そこらにいた虫を適当に捕まえて、ソースをぶっかけて、かきまぜただけのものなんじゃないのか?
周囲を見ると、丁度似たような小鉢に手を出した手長猩猩がいた。
注視しているとそいつは、小鉢の中身を丸ごと口の中に入れ、バリボリやっているようだ。
あ、何かの虫の脚が口からこぼれてテーブルに落ちた。
確かにあのやり方なら中を見なくて済むし、ここの料理は見た目を気にしなければ美味しいからな。
しかしハサミムシを見た後では、そんなことをする勇気はさらさらないが。
小鉢の一番奥にいる気持ち悪い虫を視界から隠そうと、虫の山を崩すと、小指ほどの大きさの幼虫が見えた。
掃き溜めに鶴、地獄に仏とはこのことか。
もう今のオレに幼虫を忌避する気持ちはあまりない。
どちらかというと美味しい食材だ。
オレは迷わず幼虫を竹串で刺して口に入れる。
こ、これは……、ブルーベリーヨーグルトのような味がした。
そうか、この小鉢は、見た目はアレだが、フルーツポンチ枠だったのか……。
少し気分が上昇したオレは、一番無難な蟻を竹串で絡めて口に入れる。
……一匹くらい食べないと、何だか負けた気がするからね。
もっと食べにくいかと思ったが、蟻の外骨格が軟骨みたいでコリコリいけた。
味は濃厚なブルーベリー味、細部まで味が染み込んでいる感じだな。
傍にいたシルコワの説明によると、急速に冷却してから熱を加えており、その温度の加減で丁度食べやすい硬さに調節できるらしい。
ふーん、結構手間ひまかかっているんだね。
職人の技みたいなものがいる料理なのかもな。
何でこんなに味が染み込んでいるのか訊いてみた。
シルコワは、最初は口を濁していたが教えてくれた。
このソース、元々は浸透率の高い猛毒で(訊かなきゃ良かった)、元となる実を一粒体内に入れると、ゴブリン程度の大きさの生き物なら、全身に毒がまわって即死する(全身紫色になるらしい)。
しかし熱には弱く、加熱すると毒成分が分解され、煮詰めることで黒紫色のソースになるようだ(今食べたやつね)。
そして毒がまわって死んだ死体を加熱することで、全体に味が染み込んだ食べ物に変わるという寸法だ。
また、毒持ちの生物でも猛毒で塗り替えられるので、熱で無害化すると安心して食べられるので、そこは安心して下さい、と言われた。
いや、毒を心配したわけじゃなくて、見た目がね。
ふと疑問に思ったので訊いてみた。
このくらいの虫なら分かるが、全身に毒がまわった動物の肉の味はどんな味なの?
すると例外なくブルーベリー味になるそうだ。
おそらく人間の死体でもブルーベリー味になるだろうとのことだった。
そ、そんな推測は聞きたくなかった……。
一番奥の虫はゲジゲジです。
最後に出てきた猛毒の実は、調理法さえ間違えなければ、ゴブリンの肉でも美味しく食べられるチート調味料です。




