第44話 死を予感させる危険な罠
D01-41
肉は一口サイズのブロック肉より弾力があり、舌で圧迫すると肉本来の味とクリームチーズのような味わいが、混ざり合ってえもいわれぬコクと味わいが口の中いっぱいに広がった。
歯を立てると簡単に切れ目が入り、噛み切ることができた。
舌でたいして咀嚼することなく口の中でほぐれる。
無我夢中で食べた。
感無量。
肉を食い終わり放心していたオレの元に、シルコワが水をなみなみと入れた器を持って来てくれる。
気が付けばオレはベタベタだった。
両手も口周りも、服にも白い液体が結構付着しているようだ。
まあ、服のことは気にしても仕方がない。
撥ねたスープ以外にも、泥やら植物の汁やら手長猩猩の血飛沫やら、いろんなものがすでに付着しているからな。
器の中の水は透明感のある綺麗な水だ。
手長猩猩の棲み家の近くに、井戸でもあるのかもしれないな。
これを……、どうすればいいんだ、飲むの?
シルコワに目で確認したが、ジェスチャーで手を洗うような仕草がなされた。
バシャバシャ、手を洗うオレ。
その間に髪を拭いた時より柔らかい布(布巾のようなもの)で顔を拭ってくれるシルコワ。
一度は遠慮したつもりだったが、結局、甲斐甲斐しく世話されちゃってるな…。
シルコワに新しい布巾を渡されたのでそれで濡れた手を拭いた。
不意にシルコワは、オレの上着に触れて何かを呟いた。
オレの服が一瞬光ったかと思うと、汚れが泡のように浮かびあがり、蒸発していった。
おお、服が新品に…、とまでは言わないが、ダンジョンルームを出る前の状態に戻っていた。
これは、ひょっとして、異世界定番の魔法なのでは…。
詳しく知りたい気もしたが、今はその時ではないだろう。
すっきりしたところで、おとなしく羹物に木匙を入れる。
長く放心しすぎていたのかな、少し温い。
シルコワが今度は竹製のトングのようなもので丸い何かをスープに入れる。
しばらくするとスープがぶくぶくと泡立ってきた。
さっと竹製トングがスープに差し入れられて丸い物は取り去られた。
木匙で掬う。
ほどよく熱くなっているようだ。
さっきのは、焼き石のような物だったのかな。
さっき食べた肉以外にはスープの中には何かの葉っぱや茎のようなもの、角切りにした根菜類、赤い丸い物(プチトマト? )、そして拳大幼虫と色や形は同じだが、ふたまわりほど小さい幼虫などが浮いていた。
うわぁ見た目すごいな。
なんとなく気になって沙耶さんの方をチラッと見た。
沙耶さんの方のスープ(もうスープでいいよね)には幼虫は浮いていないが、赤い丸い物がたくさん浮いており、彼女はそれをおもしろくもなさそうに木匙でかきまぜていた。
飲む気はなさそうだな。
スープ皿の奥の取り皿に、肉の骨やフルーツの皮が捨ててあるのが見えた。
オレは自分の器に視線を戻す。
お、あったあった。沙耶さんのスープにも入っていた、例の赤い丸い物を木匙で掬ってみる。
観察するまでもなく、ふやけて飛び出た脚や羽がある。
虫だな。
通りで沙耶さんの食指が動かないわけだ。
しかし色鮮やかな赤だな。
オレは何の気負いもなく赤い虫を口に入れた。
これは、……すっぱ辛い? 不思議な味だ。
まあスープには合うのかな?
そういえば、見た目プチトマトのような、鮮やかな赤色の丸い物がすぐ近くにピラミッド型に積んであったな。
スープの中に入っていたのは多分これだろう。
オレが軽い気持ちでプチトマトのようなものを掴み取ろうとすると、危険を察知したのか、ピラミッドの頂点にあたる赤い丸い物から、にゅっと角が生え、羽を広げてこちらへ突っ込んできた。
うおおおぉぉぉぉぉっ、咄嗟のことで固まってしまい、死を覚悟したとき、繊細な白い手の甲がオレの目の前に現れた。
はしっ、と赤い丸い虫を捕まえたシルコワは、オレにニコリと笑って虫を手渡してくれる。
ハァアァァァァッ、異世界怖いな、食事も命懸けとは……。
気を取り直したオレは手渡された虫を口に入れた。
緑葡萄虫と同じ要領で軽く噛むと、羽がパリパリと割れて中身が出てくる。
うーん、うん?
新鮮なすっぱ辛さに期待していたが、微かに甘い香りがするだけで、殆ど無味無臭だった。
こんなものか……?
シルコワが赤い虫を手に取り、オレに解るように拳を縦にして握りつぶし、焼いたウサギ肉にかけて見せた。
赤いドロドロしたものがウサギ肉にかかる。
ああ、そうやって食べるのか、調味料のような物なのかな?
オレは赤い丸い虫(言いにくいので赤葡萄虫と命名、緑葡萄虫とお揃いにしてみた)をシルコワに取って貰い、握りつぶして取り皿にかけてみた。
うん、すっぱ辛い。
スープの中の物よりあっさりしているが、香りはこちらの方が良い。
スープはもういいかな。
シルコワに器を下げてもらい、別の物を物色する。
そしてオレは見つけてしまった。
三部作の予定でしたがもう少し続きます。




