第8話 ダンジョンルームにて・7
D01-8
「そこに誰かいるの? 」
しまった、
沙耶さんのことをすっかり忘れていた。
ちらっとダンジョンコアの陰から沙耶さんの方を見る。
沙耶さんはいつの間にか立ち上がり、
こちらへ来ようとしているようだ。
オレはヤズナの方を見た。
ヤズナの感情はもう伝わってこない。
ヤズナは既にオレから距離を取っており、
沙耶さんの方へ足を向けている。
「あなたは……? 」
沙耶さんがヤズナに声をかける。
「ああ、これは申し遅れました」
-「ワタクシ、先ほどダンジョンマスターによって召喚されました、魔神ヤズナと申します」
「だんじょん…、しょうかん……、なに? 」
「ああ、そのような基本的なことも……」
ヤズナがチラッとオレを見る。
「ではまず、この玉に向かって手を掲げてください」
-「あなたが知っていた方が良いことが、知れると思いますので」
沙耶さんは少し逡巡していたが、おずおずと手をダンジョンコアに伸ばす。
「う、あああぁぁぁあっーーぁぁぁっ」
沙耶さんの苦鳴が聞こえる。
オレの時と同じだ。
沙耶さんの頭の中に、
ダンジョンに関しての情報が流し込まれているようだ。
「はぁっ、はぁっ」
沙耶さんは、しゃがみこみ、息を整える。
「理解できましたか、現在の危機的状況が? 」
え、聞き違い?
キキテキ?
って聞こえたような……。
オレがきょとんとしていると、
沙耶さんはすっくと立って、オレを睨みつけてくる。
その迫力にオレは半歩下がった。
「そのように威圧してはいけません」
‐「そうやってあなたが威圧し、ダンジョンマスターがおよび腰になる」
‐「その悪循環が、現在の状況を生み出したのですよ」
ヤズナは、沙耶さんの片腕を引っ張って
オレから少し遠ざかり、
沙耶さんの耳元で、何事か話しかけている。
オレをまるで親の仇かのように睨みつけていた沙耶さんは
しばらくしてヤズナの言葉に頷いた。
沙耶さんが一度目をつむり、オレから目をそらす。
オレはホッとして沙耶さんの方を見た。
やはりキレイだな、写真で見るより実物の方がずっとイイ。
「とりあえず、こちらへ来ていただけませんか? 」
-「ダンジョンコア越しだと話しかけづらいので」
再びオレの近くへと歩いてきたヤズナの指示に従い、
沙耶さんもこちらへ来る。
オレは彼女のために場所を開けた。




