表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の燃素使い〜輸送部隊から始まる英雄譚〜  作者: 工程能力1.33


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/57

第45話 政治の波紋

 グレアムは報告を聞いて、少し目を閉じた。


「成功したか」

「はい。司祭は仕留めました。ただ……」


 部下が少し間を置いた。


「目撃者がいた可能性があります。亜人を連れた輸送部隊が、現場付近に現れました」


 グレアムは黙った。


「顔は見られたか」

「距離があったため、判別は難しいかと」

「そうか」


 グレアムは指先で卓を叩いた。


(亜人を連れた輸送部隊……)


 頭の中で何かが引っかかったが、今は後回しだ。まず動かなければならない。


「侯爵閣下に報告してくる。軍の命令系統にアクセスして、当時付近を輸送していた部隊を調べたいところだが、今我々がそんなことをしたら、疑いの目を向けられる。どのみち向こうが報告をするだろうから、それで目撃した部隊がどこだったのかを確認すればよい」


 そう命じると、侯爵の元へと向かった。



―――



 ハートフィールド侯爵邸の応接室で、侯爵はグレアムの報告を聞いた。

 聞き終えると、侯爵は口の端を動かした。


「よくやった」

「ありがとうございます。ただ、目撃者の件が」

「距離があったなら問題ない。それに、こちらにつながるような痕跡は残しておらぬのだろう」


 侯爵は手を振った。


「それより、これをアントワネット殿下にお伝えする。ただし、我々が動いたとは言わずにな。お前も来るんだ」

「承知いたしました」

「ルーカスの担当地域で起きた事件だ。治安維持の責任は、あの男にある。そこを突いてもらう」


 グレアムは静かに一礼した。



―――


 アントワネットは報告を聞いて、立ち上がった。


「ラドン教の使者が殺された?」

「はい、殿下。グレイ将軍の担当地域において」


 アントワネットは窓の外を見た。その目が、静かに燃えていた。


「グレイの担当地域で、使者が殺された。護衛もほぼ全滅。これが帝国軍の治安維持かと思われるな」


 侯爵たちは黙って控えていた。


「ラドン教への影響は計り知れない。大陸中の信徒が、帝国の失態を知ることになる」


 アントワネットは振り返った。


「帝国議会に諮る。グレイの担当地域における治安維持の失敗として、正式に問題提起する」



―――


 使者襲撃の知らせはすぐにクラウディアの元にも届いた。

 クラウディアは書類を机に叩きつけた。


「ラドン教の使者が殺されただと!」


 侍従が身を縮めた。


「グレイの担当地域での話だ。なぜ防げなかった!」

「申し訳ございません。調査中で――」

「調査中? ラドン教がなんと言うか。戴冠式はどうなる。大陸に向けて帝国の恥を晒したも同然だ!将軍を呼べ!」


 怒鳴り声が廊下まで響いた。

 その時、アントワネットの動きを告げるためにやってきた従者は、直後に自分に振りかかる不幸があると理解したのだった。



―――



 砦の一室で、ジョセフは椅子に深く沈んでいた。

 向かいに、砦の将校が座っている。書記が羽ペンを持って控えていた。


「それで、現場に到着した時、賊はすぐに撤退してしまったと」

「そうです」

「賊の人数は」

「十五人前後かと。ただ、林の中で正確には」

「特徴は」

「統率が取れていました。目的を果たしたら即座に撤退した。略奪はしていません」

「野盗ではないと?」

「野盗にしては、動きが洗練されていました」


 将校は書記に何かを書き留めさせた。それから、また同じような質問を繰り返した。

 これが三度目だった。

 廊下の外では、マルチたちが待っていた。全員、すでに一度ずつ聞き取りを受けていた。



―――



 日が傾いた頃、ようやく聞き取りが終わった。

 宿営地に戻ったジョセフたちは、焚き火を囲んで座り込んだ。

 最初に口を開いたのはビンだった。


「同じこと何回聞くんですかね」

「三回だね」


 とジョセフ。

 顔には疲労が色濃く出ていた。


「俺は四回聞かれました」


 とタン。

 隊員も結局あの後何度も聴取されたのだった。


「私も四回です」


 とノイ。


「俺は五回」


 とダオ。

 全員がダオを見た。


「ダオ、数が数えられないだろう?」


 とビン。


「俺だって勉強してるんだ」


 ダオは静かに言った。


「それにしても多いな。疑われているんだろうな」


 沈黙が落ちた。


「それはひどいですね」


 とビン。


「慣れている」


 ダオは焚き火を見たまま言った。その顔に怒りはなかった。ただ、疲れていた。

 マルチがジョセフを見た。


「隊長は何回ですか」

「三回。それと、書類に署名を六枚」

「六枚も」

「第一発見者というのは、面倒なものだよ。疑われているというよりも、帝国の面子の問題に巻き込まれたんだ。犯人はなんとしても捕まえなければならない。繰り返し訊くことで、思い出すこともあると思っているんだろう。生存者が僕らが犯人じゃないと証言してくれているしね」


 ジョセフは空を見上げた。夜になっていた。


「悪い予感、当たりましたね」


 ビンがまた言った。


「だから言わないでもらいたかった」

「でも当たったじゃないですか」

「当たってほしくなかったよ」


 焚き火が、ぱちりと音を立てた。

 マルチが静かに言った。


「隊長、あの野盗……本当に野盗だったんですかね」

「わからない」

「でも、気になりますよね」

「気になる」


 ジョセフは焚き火を見た。


「ただ、僕たちの仕事は輸送だ。余計なことに首を突っ込むと、また聞き取りが増える。だいたい、ラドン教の司教を殺そうなんて奴らがまともなわけがない。さらに、背景は面倒なことが控えているはずさ。どうだい、関わり合いになりたくないだろう?」

「それは嫌ですね」


 とビン。


「嫌だね」


 全員が頷いた。

 焚き火の煙が、夜空に上がっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ