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帝国の燃素使い〜輸送部隊から始まる英雄譚〜  作者: 工程能力1.33


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第43話 禁じ手

「見つかったか」

「はい」


 グレアムはダニエル発見の報告を受けていた。

 ダニエルはアッテンボローと共に、軍が自分たちを捜索しないかを見極めていたのである。

 そして、第77輸送小隊襲撃事件について、捜査が行われていないとわかると、姿を現したのである。


「さて、もう少しだけ使うとするか」


 グレアムは便利な使い捨ての駒が戻ってきたことに喜びもせず、感情のない声でそう言った。


 呼び出しは夜だった。

 ダニエルが密室に入ると、グレアムが一人で待っていた。いつもの腹心たちはいない。それだけで、話の重さがわかった。


「座れ」


 グレアムは短く言った。

 ダニエルは椅子に腰を下ろした。


「あの……」

「言い訳はいらぬ。これから新たな指示を伝える」


 ダニエルは今までの事を弁明しようとしたが、グレアムは時間の無駄を嫌った。


「ラドン教の使者が、帝都に向かっている」

「存じております」

「国境を越えたのが三日前だ。このまま何もなければ、十日以内に帝都に着く」


 グレアムは指先で卓を叩いた。


「着かせるな」


 ダニエルは少し間を置いた。


「……使者を、ですか」

「馬車ごとだ。野盗に扮して襲え。略奪に見せかければいい」


 ダニエルは黙った。

 ラドン教の使者を襲う。それがどういう意味を持つか、わかっていた。発覚すれば、帝国全土を、いや、世界中を敵に回す。ラドン教は大陸中に信徒を持つ。その使者を殺せば、どんな権力者も言い訳できない。

 しかし、拒否できるような空気ではなかった。


「場所はどこで実行するのですか」

「国境付近だ」


 グレアムは静かに言った。


「グレイの軍団が管轄している地域がある。そこで実行しろ」


 ダニエルは少し目を細めた。

 つまり、失敗しても成功しても、ルーカス派の責任範囲で起きた事件になる。発覚すればルーカスへの疑惑が生まれる。うまく処理されても、帝都への到着が遅れる。

 その遅れはルーカスの責任となるのだ。


「人数は?」

「十五人もいれば足りる。護衛は少ない。宗教の使者だからな、まさか襲われるとは思っていない」


 十五という数字にピクリと反応するダニエル。

 気まずそうにグレアムの顔を見たが、その表情からはなにも読み取れなかった。


「装備は?」

「野盗らしくしろ。帝国軍の装備は使うな」


 ダニエルは少し考えた。

 峠の件が頭をよぎった。あの時も似たような話だった。しかし、あの時の相手は輸送部隊だった。今度の相手は、ラドン教の使者だ。

 失敗した時の代償が、桁違いだ。


「……もし、発覚した場合は」

「発覚させるな。それに聞くようなことでもあるまい」


 グレアムは静かに言った。その目は、いつもと変わらなかった。

 聞かなくてもわかる結末は、ダニエルにとって最悪の結末である。だからこそ、聞いておきたかったのだが、あっけなく拒否された。


「それがお前の仕事だ」


 ダニエルは一礼して立ち上がった。


「承知しました」


 扉を閉めた後、廊下でダニエルは少し立ち止まった。

 エリザの墓が、頭に浮かんだ。


(まだだ。まだ終わっていない)


 ジョセフはまだ生きている。今はそれだけを考えればいい。この任務をこなせば、グレアムへの貸しが増える。貸しが増えれば、次の機会が来る。


 ダニエルは歩き始めた。



―――



 密室に一人残ったグレアムは、窓の外を見た。

 帝都の夜が広がっていた。

 禁じ手だとわかっていた。ラドン教の使者を襲うなど、本来であれば考えもしない手だ。しかし、時間がない。アントワネット殿下の焦りは、自分の焦りでもある。


「戴冠式の日取りが決まれば、すべてが終わる。それだけは避けなければならない」


 一人になったことで、グレアムは感情を表に出す。

 強く奥歯をかみしめた。


(使者が着く前に、情勢を動かす。それだけだ)


 グレアムは指先で卓を叩いた。

 しかし、その音はいつもより少し速かった。


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