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帝国の燃素使い〜輸送部隊から始まる英雄譚〜  作者: 工程能力1.33


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第40話 厄介な予感

 時間は少し巻き戻り、ジョセフ達が襲撃を受けた直後である。

 峠道の片付けが終わった頃、日が傾き始めていた。

 荷台を確認し、部下の怪我がないことを確かめ、ジョセフは道の端に腰を下ろした。

 マルチが水筒を持って隣に来た。


「どうぞ」

「ありがとう」


 ジョセフは水を飲んだ。峠の風が汗を乾かし、熱を帯びた体を冷やした。

 しばらく沈黙が続いた。

 マルチが、静かに言った。


「隊長」

「うん」

「誰かに恨まれていますね」


 ジョセフは水筒を口から離した。


「……そうだね」

「心当たりは」

「ない」


 マルチは少し考えた。


「本当にないんですか」

「本当にない」


 ジョセフは空を見上げた。


「人を怒らせた記憶はあまりないんだが。訓練中に口論したとか、誰かの昇進を邪魔したとか、そういうことも思い当たらない」

「しかし、今日の連中は明らかにこちらを狙っていました」

「そうだね」

「偶然ではないです。相手は亜人の物資横流しの疑惑といっていましたが、多分それは単なる理由づくりで、狙いは隊長ですよ」


 マルチは続けた。


「輸送ルートも知っていた。誰かがこちらの動きを追っています。軍内部に敵がいるのか、もしくは協力者がいて、情報をもらしている」


 ジョセフは黙って聞いていた。


「隊長」

「うん」

「ここのところ、戦闘が多くないですか」


 ジョセフは少し考えた。


 砦での一件。帰路での襲撃。今回の峠道。任務のたびに、何かが起きていた。戦時だから、危険はある。しかし、それを差し引いても。


「……多いね」

「普通の輸送任務で、これだけ戦闘になることはないです」


 マルチははっきりと言った。


「最初は運が悪いのかと思っていました。でも、今日のことがあって確信しました。これは偶然じゃない」


 ジョセフはため息をついた。

 長い息だった。


「つまり、誰かが継続的に僕を狙っているということか」

「そう思います」

「やっかいだね」

「やっかいです」


 マルチは珍しく、少し語気を強めた。


「隊長、笑い事じゃないですよ。今日は対処できましたが、次はどうなるかわからない。相手が本気なら、もっと手の込んだことをしてくる」

「わかってる」


 ジョセフは立ち上がった。


「ただ、心当たりがない以上、今できることは気をつけることだけだ」

「それだけですか」

「心当たりがあれば、対処のしようもある。しかし、誰かもわからない相手に先手を打つのは難しい」


 マルチはため息をついた。


「隊長は本当に、自分が恨まれているという実感が薄いですね」

「恨まれる理由がわからないから。実家は兄が継ぐ。軍で出世競争をしているわけじゃない。誰かの恋人を奪ったことだってないよ」

「本当ですか?」


 恋人という発言を聞いて、マルチは目をスッと細めた。


「出られますよ」


 ビンが荷台の方から声を上げた。出発の準備ができたらしい。

 ジョセフは峠道を見渡した。さっきまで男たちが倒れていた場所は、もう何もなかった。


「行こう」


 荷台が動き始めた。

 ジョセフは馬上で、静かに考えていた。

 戦闘が多い。誰かが狙っている。しかし誰かわからない。


(襲撃されたという報告書、どうしようかなあ)


 ジョセフはため息をついた。

 非情に厄介な話に巻き込まれていると自覚した。


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