第三章 盗賊領主はハンコウする編 幕間「推察」
「……手枷の破損か、見落としてた。」
「損壊ではなく、『外れて』いたと考えるのが妥当だろう。」
顎髭を掻きながら、手枷を拾い上げて立ち上がるアブ……その所作からジョーは彼の不穏な言葉の背景に潜む真意を察し、眉根を歪ませてしまう。
「床下に繋げた二本の鎖、左右逆の手足を連動してたって事はひとつ外れた時点で対応する片足も緩んでた訳だ。マッコイさんの体格……多分パワーが有れば無意識状態で暴れただけで後は簡単って話だな。」
「多分それだけじゃない。」
「………?」
アブの一言に更なる怪訝な表情を見せるジョー、しかしアブは構わずに破られた窓を指さす。
「何で鉄板で封鎖した窓を破って逃げたんだ?鍵付きでも扉を壊した方が簡単でしょ。」
「偶々じゃないのか、マッコイさん自体は破壊衝動が強くてほぼ無意識の筈だからな。」
その瞬間、今度はアブがあからさまに眉を吊り上げて唇を尖らせる。
「……その『偶々』って言葉、俺っち嫌いなんだよね。そもそもその前提には団長、否定的だったじゃん。」
俺っち……古参の団員であるアブはジョーに対し時折、砕けた物言いになってしまう。
ーーなってしまうが指摘は的確である、確かにジョーは先程の会議でそう取れる言動をしていた。
破壊衝動に駆られて飛び出した筈のマッコイはその経路において誰も襲っていない、唯一の破壊は町の石橋のみなのだ。
どうしてもそこに意識、意志足り得る作為的なものを感じてしまう。
「証拠はない、今は推測するしか出来ない……が、少なくともこの部屋の中で思考、思惑に基づいた行動が為されて窓が破られたと考えるべきだよ。」
「……アブさんの考えは?」
「団長、『外された鉄枷』が起因だと念頭に置いてみてくれ。」
外された……先程よりそう何度か強調された言葉に、ジョーは喉を鳴らして唸る、おそらく彼もそれが共通の認識であり、同時に目を背けたい程の状況がいよいよ現実味を帯びてきたのだろう。
「まずマッコイさんが身動きが取れない状態で枷を壊さずに外すってのは不自然だろ、ならこの部屋にもう一人第三者が居たと仮定したら?そいつが枷を外し、部屋から出る所をマッコイさんが目撃した。」
「それで何で飛び出すんだ?」
「そこはまだ情報が欠けてて判んない……でも扉の方を破らなかったのは邸宅に詰めている俺達と下手に接触して、その第三者に何かしらの手を打たれたくなかったんじゃないか。そう考えたらマッコイさんが橋を落とした理由も何となく見えてこないか?」
「第三者……をこのフェデルに閉じ込めたのか。」
「多分、俺達には判らない、マッコイさんの観点でしか確信出来ない何かがあって、一連の行動に至ったんだろうな。」
「………。」
「何より第三者の行動は俺達にとって不利益でしかない、獅子身中の虫だよ。」
「……つまり利敵行為、裏切り者と断定して動かねぇと命取りになるか。」
その瞬間、二人の間に流れる空気に一層重い圧迫感が増す。
「でだ、実際の所、手枷の鍵ってこの邸宅に出入りしてる人間なら誰でも手に出来るよね。」
「まぁな、俺達が管理してる部屋の鍵と一緒に、サロンへ置いている。……だが事件直後も確認したが確かに有ったぞ。」
「わざわざ戻すかよ……几帳面な性格か、若しくは何か理由が在るのか、どっちにしても邸宅の使用人含めた四十人が容疑者だな。」
四十人……無論、その大多数は邸宅に出入りしている小隊長及び副官である、現状の彼らは警戒態勢の指揮を執っている。
流石に全員に対し招集を掛けて尋問する訳にもゆかない。
そうジョーが苦悩を洩らした刹那、アブが微かに眼を見開いた。
「そうか、鍵を戻したのは閉じ込められた事でまだ正体を隠す必要に迫られたのか……。」
「あん?……俺達の現況が既に裏切り者にとっては芳しくない、予想外だって言いたいのか。」
「断定は出来ねぇ、けど確かにフェデルは敵から隔離された状態なんだ。単独犯じゃなかったとしても裏切り者にとっちゃ孤立無援、取り繕うしかない、俺達の側で味方の皮を被り続ける……ならーー」
「今は表立って犯人捜しをしない方が得策か……それに、その見立てなら婆様達が出払ったタイミングってのも『偶々』じゃないんだな。」
「ああ、下手すりゃダナン達の方が状況は悪いかもな……そして団長、まさにそこだよ!」
「あん!?」
「今調べるべきは犯人捜しじゃなく、事態がコルカドと連動した経緯、背後関係だろ。」
つづく




